第2回 日本の学校教育・指導のあり方と課題
Benesse教育研究開発センター 山田 剛 (2007/2/14更新)
日本の学校教育は、ここ数年、「確かな学力(文部科学省のホームページへ)」という路線にそって、様々な取り組みが広がっている。学校の指導の面では、習熟度別指導や少人数指導、発展的な学習などがあげられる。また、学校の経営や制度的な面でいえば、学力向上フロンティアスクール、小中一貫や中高一貫教育、学校選択制などがある。前回は、子どもの教科学習の実態と意識の変化を見たが、第2回は学校教育、その中でも教員の指導の面から日本の教育の課題について触れたい。
まずは、学校の教員がどのような指導や取り組みを重視しているかを見てみよう。図表1は、2006年に実施した「中学校の学習指導に関する実態調査(Benesse教育研究開発センター)」からのデータである。
図表1:指導や取り組みへの賛否(%)
※賛成は「とても賛成」「やや賛成」の合計、反対は「とても反対」「やや反対」の合計
中学校の学習指導に関する実態調査(Benesse教育研究開発センター2006年)
調査した17項目中、「基礎的な学力定着のための指導」に賛成する割合が最も高い。(98.6%)続いて、「小・中学校の連携」(88.6%)、「発展的な学習」(88.2%)、「キャリア教育や進路学習」(81.8%)となっている。
おそらく2番目に割合が高かった「小・中学校の連携」も、中学校の教員からすると、必要な学力を身につけて中学に入学してこない生徒が多いという問題意識と関係している。その点では基礎的な学力に関連した取り組みといえよう。
小学校の教員に関する最近のデータは持ち合わせていないのだが、私の印象では、中学校と同様に小学校の教員も「基礎的な学力定着」を重要な取り組みと考えているように思われる。
第1回のレポートで、小中学生の算数・数学を中心に授業の理解度が改善してきていることを確認したが、こうした教員の基礎学力重視の姿勢が影響していると考えてよいのではないだろうか。
もう少し課題を明らかにするために、習熟度別指導を例に考えてみたい。
図表2は文部科学省(文部科学省のホームページへ)が個に応じた指導の実施状況を調査した結果である。「理解や習熟度の程度に応じた指導」(いわゆる習熟度別指導)を2004年度に実施した小学校が81.6%、中学校が72.3%となっている。前年の2003年度の小学校74.2%、中学校66.9%と比べて増加している。習熟度別指導が公立の小中学校で実施されるようになったのは最近のことである。瞬く間に広がったことがわかる。
図表2:個に応じた指導の実施状況(内容類型別の実施の割合)
|
小学校 |
中学校 |
理解や習熟の程度に応じた指導を実施 |
81.6% |
72.3% |
類型 |
補充的な学習のみ |
22.4% |
12.0% |
発展的な学習のみ |
0.7% |
0.5% |
補充的な学習+発展的な学習を実施 |
58.6% |
59.8% |
中央教育審議会初等中等教育分科会配布資料(文部科学省)
(参考) 平成15年度に理解や習熟の程度に応じた指導の実施を予定していた学校は
小学校 74.2%
中学校 66.9%
小中学校で広まっている習熟度別指導は、高等学校や私立の中高一貫校、あるいは、塾などで行われている習熟度別指導(あるいは能力別指導)とは異なることに注意したい。
内容別類型を見ると、「発展的な学習のみ」というケースは稀で、「補充的な学習と発展的な学習を組み合わせて」の実施が小中学校とも6割近くになっている。続いて、「補充的な学習のみ」が小学校で22.4%、中学校で12.0%となっている。どちらかといえば、基礎学力重視の傾向が見てとれるが、実際には個別のやり方によって指導の力点のおき方は異なるであろう。
同じ公立学校でも、おかれている環境、例えば都会にあって私立の学校と進学実績を競わなければならないような場合と、地方にあってその地域に人材を供給することが求められる場合とで状況は異なる。
学校選択制や公立の小中一貫、中高一貫教育校が広がってきている。実際の実数で見ると割合は高くないのだが、例えば、同じ地域に公立中高一貫教育校ができれば、それは他の学校にも影響を与える。首都圏の周辺では私立学校の定員が拡大するにつれて優秀な生徒を奪われた公立の学校が苦しんだ。公立学校の場合も、突出した学校をつくる一方で学校選択制を導入すれば、学校間の格差は広がることになるだろう。
2007年度から開始される悉皆での「全国学力・学習状況調査(文部科学省のホームページへ)」は、その結果の公開方法によっては、地域間、学校間の格差を保護者や子どもなどに意識させることになる。この学力調査は、主として「知識」に関する問題と、主として「活用」に関する問題を出題することになっている。主として「知識」に関する問題とは、基礎的な知識や技能などを問う問題で、先ほどの調査結果で見た教員が重視している基礎学力に該当すると思われる。文部科学省が実施する学力調査は、基礎学力に加えて、これからは「活用」する力が重要であるというメッセージが込められていると思われる。その結果を学校・教員や保護者などが、どのように受けとめるかが注目される。
ここまで見てきたことを踏まえた上で、前回に続いて2つほどの課題を提起したい。
1つは、今後の流れを考えると、学校が他の学校との比較において目に見える学力向上の成果を求められる可能性がある。そうした文脈の中で、成績が上の子どもを伸ばしていくことと、成績が下の子どもの底上げをどう両立させていくのかという課題が想定される。例えば、習熟度別指導は1つの可能性であるが、同じ習熟度別指導といっても、発展クラスと補充クラスでの生徒の人数配分、ベテラン教員の配置、指導の仕方などで、その成果の出方は変わってくるはずだ。保護者は、どちらかといえば目に見えやすい成果で学校を評価しがちだ。我が子にとって有利な教育を求めることは避けられないし、全体の学力の底上げにはさほど関心を示さないかもしれない。学校はこれまで以上に、どのような子どもの力を伸ばすのか明確にすることが求められるだろう。
もう1つは、どういう「基礎的な学力」を育てるのかという問題である。例えば、算数・数学の学習において計算力が基礎として重要であることは誰もが認めるだろう。計算を速く正確にできることは大事だ。しかし、一定のレベルに到達した後も速さを求めるのであれば、それは学習というよりも競技的な要素が強くなる。基礎は「何かのための基礎」であるから、その先の学力(能力)につながっていくことが重要である。文部科学省の全国学力・学習状況調査は、「知識」に関する問題と「活用」に関する問題が出される予定だが、これらの力は子どもの中ではつながっている必要がある。つまり、活用できる形で基礎的な学力が身についていなければならない。これからは、基礎的な学力重視から、基礎的な学力をベースにして社会に出て必要とされる力につなげていく指導が求められるのではないだろうか。
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