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Benesse発 2010年「子どもの教育を考える」
このコーナーでは、教育のあるべき姿をBenesse教育研究開発センターと、皆さんと共に考え、創りあげていきます。
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『Benesse発2010年「子どもの教育を考える」』更新終了のお知らせ

『Benesse発2010年「子どもの教育を考える」』は、2010年3月31日をもって、更新を終了させていただきました。
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研究員リポート
データからみる今と未来

第4回 家庭教育の現状(2)

Benesse教育研究開発センター 木村 治生 (2007/3/14更新)

 今回は、前回に引き続いて「家庭教育の現状」について検討しよう。前回の論考では、保護者は教育熱心になっており、子どもとのかかわりも増え、親子関係も決して悪くはない様子であることを示した。マスメディアなどでは家庭の教育力の低下が指摘されることが多いが、データを見る限り、そうは見えない。家庭の教育力は、むしろ高まっているのかもしれないとさえ思える。

 それでは、家庭の力が高まっているとすれば、それでも、子どもをめぐるさまざまな問題が増えているのはなぜなのだろうかという疑問が生じる。さらに、家庭の教育力が高まるのは望ましいことだと考えてしまいがちだが、そのこと自体に何か問題はないのだろうか。今回は、家庭内外の人間関係について考えるという視点から、これらの問題について検討したい。

1.人間関係を重視する日本の保護者

 前回、保護者の多くが教育熱心になっていることを述べてきたが、それでは日本の保護者はどのようなことに価値をおいて子育てをしているのだろうか。図1は、東アジアの5都市の母親に「子どもに将来、どのような人になってほしいか」をたずねた結果である(『幼児の生活アンケート・東アジア5都市調査』、「とくに重視するもの」を3つまで選択)。

図1:子どもの将来に対する期待

図1

幼児の生活アンケート・東アジア5都市調査(ベネッセ教育研究開発センター2006年)

 これを見ると、日本の母親たちの回答が、「友だちを大切にする人」「他人に迷惑をかけない人」「自分の家族を大切にする人」という3項目に集中していることがわかる。一方で、「仕事で能力を発揮する人」以下の7項目は、いずれも5都市中で最低の値を示している。

 「自分の家族を大切にする人」を選択する比率が高いのはいずれの都市にも共通していて、家族の紐帯を重視する志向は東アジアに共通する文化のように思える。しかし、「友人を大切にする人」や「他人に迷惑をかけない人」といった家族以外の人間関係を重視する志向は、他の都市には見られない日本の特徴である。また、他の都市では社会的な成功がある程度は意識されているが、日本の母親たちはあまりそうした意識をもっていない。


 この結果を単純に解釈するのは難しいが、仮説として3つの可能性が考えられる。第1の可能性は、日本はもともと周囲との人間関係をいかに保つかということに鋭敏な社会であるというものだ。周囲と対立することなく、いかに自分を調和させるかということに心を砕くのは、日本人がもつ文化的な特徴といえるかもしれない。

 第2に、日本が成熟した社会になり、地位の上昇や社会的な成功に対するこだわりが弱まっているという可能性も考えられる。教育熱心な保護者が多いとはいえ、中国や韓国に見られるような学歴を過度に重視したり、立身出世を強く願ったりするような保護者は少ない。

 第3に、日本では円滑な人間関係を取り結ぶこと自体が難しくなっていて、そのことが影響を与えているのかもしれないという仮説である。たとえば、「公園デビュー」という言葉に象徴されるように、孤立しがちな環境のなかで子育てをしている母親も多い。また、事件を起こすような攻撃性を持つ子どもの問題、「引きこもり」のような自分の世界に閉じこもる若者の問題など、子どもの社会性の欠落について話題になることも多い。こうしたことが、子育てにおける人間関係重視の志向に影響を与えている可能性がある。

2.子どもを取り巻く人間関係の変化

 保護者が人間関係に敏感である原因として3つの可能性を提示したが、そのいずれが正しいのか、またこれ以外にも原因があるのか、正確なところはわからない。しかし、母親たちの意識に象徴されるように、家族を取り巻く人間関係が変化しており、子どもが社会性や協調性を伸ばす場面が減ってきているのではないかと感じることは多い。事態は漸次進行するものであり、いつから変わったかを明確に示すことは難しいが、少なくとも高度経済成長期に核家族化が進む前と今とでは、次のような点に違いがあると考えられる。

 第1に、友だち関係の変化である。たとえば、かつて外で行われた集団遊びのように、自分たちでルールを工夫したり、先輩の言いつけを守ったり、年下の子に配慮したりするような仲間づくりの機会は、ずいぶんと減っているだろう。小学生に「遊び場所」をたずねた最近の調査(『第1回子ども生活実態基本調査』)では、「自分の家」「友だちの家」が上位を占めている。

図2:小学生の平日の放課後の過ごし方(性別)

図2

『第1回子ども生活実態基本調査(ベネッセ教育研究開発センター2005年)

 正確な比較はできないが、およそ20年前に実施された調査(『モノグラフ・小学生ナウ』Vol.4-4)には、今よりバラエティにとんだ外遊びが行われている様子が示されている。携帯型のゲームやテレビゲームも普及しはじめているが、上位ではない。このような遊びの変化によって、友だち関係から身につけるコミュニケーションスキルも変容している可能性がある。

 第2に、地域の変化である。子どもが巻き込まれる不幸な事件が相次ぎ、地域の安全性が大きな社会問題になっている。幼児の子どもを持つ保護者が感じる気がかりは、「犯罪や事故に巻き込まれること」が突出して第1になっている(『第2回子育て生活基本調査(幼児版))。地域で知っている大人が子どもを見守り、指導するような場面は、今日ではほとんど見られない。保護者の近所づきあいも、かつてほど濃密ではなく、家族を支える地域的な基盤が弱まっていると考えられる。

 第3に、家庭内でも、人間関係の多様性は失われつつある。厚生労働省の『国民生活基礎調査(厚生労働省のホームページへ)』を見ると、平均世帯人員は減り続けており、3世代同居も減少している。きょうだいの数は少なくなり、祖父母や親戚とのかかわりも、以前ほどに親密な行き来をするケースは少なくなっているのではないだろうか。このような状況では、相対的に親子の関係が濃密にならざるを得ない。

 それでは、学校は、子どもたちを取り巻く人間関係の変化に、どう関係しているだろうか。学校が、知育面のみならず、子どもたちの社会性や協調性を伸ばすことに寄与し、大きな役割を果たしているのは間違いない。とはいえ、人間関係の育成や社会性の醸成について、学校の責任を拡大するだけでは限界がある。今日では、ただでさえ、学力向上の期待が高まっており、学習面の指導に重きがおかれるようになっている。それ以外にも、学校は多様なニーズに応えることを期待されていて、人間関係の指導に資源を投下する余裕は十分にはない。

3.保護者の役割の重要性と「壊れやすい家族」

 このように子どもを取り巻く人間関係が衰退するなかで、保護者の役割の重要性が相対的に高まっている。今はほとんど死語に近くなっているが、以前は「親はなくとも子は育つ」とよく言われた。親が積極的に教育しなくても、子どもの自己成長力と親以外の周囲からの働きかけで、立派な大人になるという成長モデルが、リアリティをもっていた。実際、高度成長期以前に子育てをした保護者は、子どもに対してそれほど熱心にかかわらなかったし、生活に追われてそんな余裕もなかったであろう。しかし、今は「親がしっかり子育てしないと子は育たない」環境にある。保護者のかかわりや選択が、子どもにダイレクトな影響を与え、子どもの将来を大きく左右する状況が生まれている。このようななかでは、保護者は子どもの教育に一生懸命にならざるを得ない。

 しかし、ここで2つの問題が生じる。

 1つは、格差の問題である。友だちや地域や親以外の血縁関係などの影響力が弱まり、親が持つ教育力の役割が相対的に大きくなると、家庭の状況による教育格差が生じる。このような家庭による教育格差が、広がっているように感じる。

 2つ目は、家族が「壊れやすくなっている」という問題である。以前であれば、保護者の行動は、周囲の人間関係によって逓減されたり、中和されたりして、子どもへの影響は一定の制限がかかっていたと考えられる。しかし、保護者のかかわりに何らかの問題があったとき−たとえば、過剰にかかわる過干渉・過保護や、反対に過剰にかかわらない無関心・育児放棄(ネグレクト)など−、そのことが子どもに悪い影響として表れやすくなっている。

 たとえば、子どもに対する体罰があったとき、親自身の人間関係のなかにそれを諌めてくれる人がいれば、児童虐待のような取り返しのつかない悲劇になる前に、解決できるケースもあるだろう。しかし、親が孤立しており、かつて仲裁に入った近所や親戚は、今は十分に機能しない。問題が起こると、それを修正するシステムが働かないままに、事件化するまで極端に走ってしまう。また、子ども自身が問題を起こしたときも、親以外の人間関係が十分に機能しないために、問題が拡大しやすい。

 いわば、家族を取り巻く「多様な人間関係」というクッション材がなくなり、家族が外部にむき出しにさらされているような状態である。クッション材が衝撃を吸収することがないため、何らかの衝撃を受けるとすぐに壊れてしまったり、大きく壊れてしまったりする。全般には保護者は教育熱心になっているにもかかわらず、子どもをめぐる問題が増えているように感じるのは、このような状況が背景にあると考えられる。これをひと括りに「親の問題」とか「家庭教育の低下が原因」と結論づけることは早計だろう。

4.子どもの自立を促すかかわりを

 さらに、家庭の教育力が高まるのは望ましいことだと考えてしまいがちだが、そのこと自体に何か問題はないのだろうかという疑問もある。

 保護者が子どもの教育に熱心にかかわること自体は、大いに推奨されるべきことだと思う。たとえば、「お父さんやお母さんとよく話をする」「お母さんは私の成績をよく知っている」「お父さんは私の成績をよく知っている」「この1か月の間に、お父さんやお母さんに勉強をみてもらったことがある」といったことに肯定的な子どもほど、学力テストの結果がよいというデータがある(『第3回学習基本調査』)。保護者の積極的なかかわりが、学習に対する意欲や関心を高め、まじめな学習態度を生み、学力の向上につながっている可能性がある(『第3回学習基本調査』分析レポート/PDF)。

図3:保護者との会話(学力階層別)

図3

第3回学習本調査(ベネッセ教育研究開発センター2002年)

 しかし、程度の問題があり、一貫してかかわり続けるようだと、子どもの自立の機会を奪うことになりかねない。発達段階に応じて、子ども自身に任せていくことも重要である。子どもに対して高い期待や関心をもっているというメッセージを発しつつ、実際にやるべきことは子どもが自分でできるようにしていく必要がある。過保護や過干渉など親が熱心でありすぎることの問題も生じやすくなっていて、家庭以外の場で自立の機会が得られないままに成長してしまう可能性も高いからである。このように、保護者の影響力が大きくなると、子どもにどのようにかかわるかということすら難しい局面が多くなる。

  これまで述べてきたように、家庭教育をめぐる現状はなかなかたいへんなものがある。全体的には保護者は教育熱心になり、子どもとのかかわりも増え、親子関係も悪くない様子を示してきた。まずは、保護者が悪い、家庭教育が十分ではないというだけの発想から抜け出す必要がありそうだ。保護者が一生懸命であるかにかわらず、家族や子どもを取り巻く人間関係が変化し、問題が生じやすくなっている。子どもに対する保護者の影響力が高まり、より適切な働きかけが求められる状況もある。そのような前提で、さまざまなサポートや解決策を考える必要があるだろう。

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