第28回 理科授業におけるICT活用の効果と課題について―「ICTの普遍的効用」を超えて
Benesse教育研究開発センター 田中 勇作 (2008/7/16更新)
Benesse教育研究開発センターでは、大阪府教育センターとの共同で、小中学生の理科に対する興味・関心の向上や、確かな学力の育成におけるICTの活用の在り方を探る目的で2007年5月から8ヶ月間にわたり、小中学校13校の協力を得て実証授業を行い、児童生徒(小3生〜中3生、計約3600名)の事前・事後による学習意識の変容やICT活用の有無による学習到達状況の違いを検証した。
今回のリポートでは、その代表的なデータを通して、「ICTの普遍的な効用」について若干の考察を行った。
図表1.「ICTを活用した授業の効果」に対する小学生の評価
図表1は、ICTを活用した理科の授業を受けた小学生(小3〜小6生計659名)による自己評価の結果を示したものであるが、10項目全てにおいてICTを用いた授業の効果が高く評価されていることがわかる。紙幅の関係で中学生のデータは割愛するが、小中学生共に、「授業内容の理解促進」や「興味・関心の喚起」、「学習内容の定着」といった3項目を「ICTを活用した授業による効果」の上位に挙げており、これまでに報告されてきたICTの効果に関する種々の調査研究結果(*)に共通する「ICTの普遍的な効用」であるといえる。
また、多くの教師がこうした側面から「ICTの活用が児童生徒の学力向上につながる」と考えているということが平成16年度の文部科学省の調査で明らかにされているが、今回の調査においても、図表2に示すように、授業においてICTを活用したことによる教師の成果認識の上位には「興味・関心の喚起」「理解の促進」等が挙げられており、「ICTの普遍的な効用」に対する認識は教師のなかにもしっかりと定着しているといえよう。しかし、図表2に示すように「(15)理科に対する学習意識を高め、学力向上につなげることができた」と積極的に評価するには至っていないのが実態なのである。果たしてその理由はどこにあるのだろうか?以下、「ICTの普遍的な効用」という認識に焦点を絞り、若干の考察をおこなった。
図表2.授業へのICT活用に対する教師の成果意識について
* これまでの調査研究の成果については、独立行政法人 メディア教育開発センターの「教育の情報化の推進に資する研究(ICTを活用した指導の効果の調査)報告書」(平成19年3月)を参照ください。
まず逆説的ではあるが、この「ICTの普遍的な効用」はどのような場合(授業場面が異なったり、対象となる学習者が違う場合等)においても現れるのであろうか?言い換えれば「ICTは使う教師の技量を選ばない万能のツールなのか?」という点から見てみたい。
図表3は、「総合学力研究会(代表:大阪教育大学田中博之教授、事務局:Benesse教育研究開発センター)」が約10年間にわたり実施している「学力向上のための基本調査」シリーズから、小学校教師の「学習指導力」と「ICT活用力」との組み合わせパタンによって、その教師が受け持ったクラスの教科学力(国語・算数)にどの程度の違いが生じているかを比較したものである。なお、「学習指導力」「ICT活用力」は教師の指導力として操作的に定義した各々6〜8の項目に対する教師の自己評価にもとづき、数値化している。具体的な項目内容や教科学力等の詳細については中間報告「学力向上のための基本調査2004」(ベネッセ教育総研刊、2005)を参照いただきたいが、「学習指導力」および「ICT活用力」が共に平均以上の教師が担当しているクラス(パタンA)の教科学力が最も高く、逆に共に平均未満の教師が担当しているクラス(パタンD)で最も低くなっていることがわかる。また、「ICT活用力」は平均未満でも「学習指導力」が平均以上であるパタンBでは、パタンAに次いで子どもたちの教科学力は高くなっている一方で、「ICT活用」は積極的に行っているが、「学習指導力」が十分ではないパタンCでは、教科学力は平均(50.0)に満たず、「ICT活用」のみの限界を示唆していると考えられる。
つまり、「ICTの活用」はその前提となる学習指導のねらいや方法、内容といった「学習指導の構想」がしっかりと設計され、実践されている場合にのみその成果が十分に発揮されるといえる。
逆に、授業改善のベースとなる学習指導を構想し実践する力、すなわち「学習指導力」が十分でない状況下では、「ICTの普遍的な効用」は出現しえないという仮説がここから導き出される。なお、今回の調査においても、2004
年と同様の考え方に基づき、教師の指導力のタイプを「学習指導力」と「ICT活用力」の組み合わせで4タイプに分類し、各タイプの教師が担当するクラスの教科学力(平均偏差値)を比較したところ、各タイプ間にはより顕著な差異が認められたことを付記しておく。(タイプA:55.5、タイプB:53.9、タイプC:47.2、タイプD:39.3)
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