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子どもの生活習慣を変える環境とシステムを工夫しよう
親野智可等 教育評論家
「うちではご飯を食べさせたり、宿題をやらせたりするだけで精いっぱい、とてもそんなシステムを整えることはできない」という保護者の方もいるでしょう。家庭によって事情は異なりますから、できないこともあります。それと、ここでお話したような環境やシステムをつくるのは面倒と思われる方もいるでしょうし、やってみたけれどもうまくいかないということもあります。
そういう場合は、「目をつぶること」も大事だと、私は考えています。後片付けをしない、あいさつをしない、親としてはいろいろ不満があるでしょうが、ひとまず目をつぶるのです。講演会でこのように話すと「本当にいいのですか?」とよく質問を受けます。本当にいいのです―ただし、そのかわりに別にやるべきことがあります。
それは、子どもが一生懸命やっていること、熱中していることを見つけて褒めてあげることです。そして、可能な限りそれを深めていけるように保護者が徹底的にバックアップしてあげるのです。「将棋に熱中している」「ペットのことしか頭にない」「友だちと遊ぶことしか考えない」。中には「アニメのキャラクターを覚える」といった、保護者にとっては一見無意味に思えるものもあるでしょうが、子どもが熱中していることであれば、どんな内容でも構いません。
親がバックアップしてあげることで、誰にも負けないくらい得意なことができれば、子どもにとって自信になります。自信が芽生えれば、それまでの悪い習慣(だらだらと時間を過ごすなど)が、いつの間にか直ってしまうこともあります。直らないまでも、そのことが目立たなくなる。少なくとも、子どもの良いところに目がいくようになるので、保護者自身が子どもの欠点を意識しなくなります。
小さいころに何かに熱中することは、4つのよい点があると考えています。1つめは、今、お話した自信がつくという点です。そして、2つめは、脳というハードがよくなることです。何かに熱中しているときは、脳の中でシナプスという神経伝達物質が増えて脳を活性化してくれます。何かに熱中することそれ自体が、脳という「ハード」の性能を高める、つまり「頭をよくする」効果があると考えられます。
3つめは、自分の楽しみをみつけ出せる力がつくという点です。好きなことに一生懸命取り組むことで、何かを深める喜びを味わうことができます。こうした体験は大事で、そういう人は、将来自分の意にそぐわない仕事についたとしても、その中で自分なりの喜びを見いだせるようになります。4つめは、興味を持ったことに対して知識を深める方法を知っているということです。たとえば、魚に興味を持ったときに、本を読む、ネットで調べる、実際に観察する、わかったことを人に発表する…こうした方法は、興味を持つものが変わっても応用ができます。将来、学問的な興味を持った時に、自分で追究していくことができるのです。
私は2つの学力タイプがあると思います。1つは与えられたものを効率よく勉強して積み上げた学力。高層ビルのように知識が積み上がっていて、この学力は受験には適しているかもしれません。もう1つは富士山のように無駄に思えるようなものが裾野に広がっている学力。社会で求められるのは、異質なものを結びつけ、新しい価値を生み出す創造性です。一見、無駄に思えるものが、ビジネスや学問の世界で新しい地平を切り開くことにつながることがあります。そうした資質は、効率性を求められる受験勉強から得ることは難しいのではないでしょうか。
では、保護者がよいと思うことを、子どもにやらせてはいけないのか−親には人生経験がありますし、子どもに対する期待もあって当然です。しかし、子ども自身がやりたがっていることをおさえつけて、親がやらせたいことだけを押しつけていると、子どものやる気やエネルギーをつぶしてしまうことになりかねません。
親の価値観に照らして、子どもに是非させたいことがあるのであれば、一方的に強制するのではなく、提案の形で上手に説得してみるという姿勢が大切です。セールスマンがモノを売ろうとするとき、どのようなメリットがあるかを述べて、お客に納得してもらおうとします。また、恋人に振り向いてもらいたいとき、相手をその気にさせるために、あらゆる努力を払います。子どもにそれをしないのは、親であることの「甘え」があるからです。どこかに子どもは親の言うことを聞くものという考えがあるのではないでしょうか。
ぜひ、子どもを長い目で見てください。「小中時代が最高潮だった」では、かわいそうです。「あと伸び」が大事。現在の教育は「盆栽(=凡才)」を育てることに腐心しているように感じられます。大人が無理やり形を整えるので、確かに枝ぶりはいい。しかし、木はそんな風に小さくまとまりたいと思っているわけではないでしょう。こじんまりと、まとめない−そのためには、小さいときにやりたいことを十分にやらせることが必要です。木が大空いっぱいに枝葉を広げていくように、将来、大きく可能性を開くような子育てを心がけていただきたい、それが私の提案です。
(取材日:2009年4月3日)
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