読書を突破口に、家庭での生活・学習習慣を向上させる。しかもそれを、教師と保護者の押し付けではなく、子どもたち自身が自分の生活を振り返り、改善点を発見し、計画、実行する。大阪府堺市立浜寺小学校の「生活向上プロジェクト」はどんな成果を上げたのだろうか。
「寝る前の10分、テレビを見ていたけれど、今は本を読んでいる」(小6女子)、「読書で隙間の時間をうまく使えるようになった」(小6男子)。
小5の3学期に「生活向上プロジェクト」に取り組んだ大阪府堺市立浜寺小学校の子どもたちは、そう話す。「読書が嫌いだった友だちに野球の本を貸してあげたら、すごく熱中していた。好きなことについての本なら楽しく読める」(小6男子)と、友人同士の貸し借りを通じて読書の面白さを発見した子もいる。
「わが街ほこれる地域共育学校」というビジョンを掲げる浜寺小学校は、地域をあげて学校教育に参画する活動の一つとして、保護者が学校の教室で本の読み聞かせをする「お話エプロン」などで読書指導に取り組んできた。生活向上プロジェクトは、さらに一歩踏み込んで、読書を突破口にして生活・学習習慣の見直しから学力の向上をめざす、学校から家庭への働きかけだ。
浜寺小学校では2008年1月から、早寝早起き朝ご飯など正しい生活習慣のガイドライン(学力向上のための浜寺小学校生活スタンダード、通称「浜スタ」)を策定し、子どもたちを通じて家庭に周知した。「学力とは教科学力だけではなく、生活のありようそのものと関係が深い。それは全国学力調査の結果でも出ています」と由良芳子校長は話す。「生活・学習習慣の見直しは保護者の協力がなければできません。まさに〈家庭と共に育てなければ〉学力向上につながらないのです」。
しかし、ここまでなら多くの学校でも発信されていることだろう。浜寺小学校がきわめてユニークなのは、生活・学習習慣の見直しを、家庭任せにせず、授業を組み立て育成しているところだ。しかも、「家でこうしなさい」と強制するのではなく、「子どもたち自身がR-PDCAサイクルを回して、自分自身の生活・学習習慣を振り返り、自主的に改善していくことができるように指導している」(由良校長)。
R-PDCAサイクルとは、Research(情報を集める)→Plan(計画を立てる)→Do(やってみる)→Check(振り返る)→Action(再びやる)という一連の課題達成プロセス。ビジネスではおなじみの方法論で、学校でも教師の教育活動に導入されるが、子どもたち自身にこれを活用させようというのは、早稲田大学大学院の田中博之教授(当時は大阪教育大学教授)の指導がきっかけだ(関連記事:特集第6弾[1] 「活用型学力を育てる『家庭学習』と保護者の3つの役割」)。
「自分の学習を主体的、自律的に組み立てる〈自己マネジメント力〉は、これからの生涯学習社会に欠かせません。小学校高学年から学校と家庭で、その力をつけていく必要があります。子どもたち自身でR-PDCAサイクルを回すことによって、高い納得感と大きな自信が生まれ、困難に立ち向かえる心の強さが育まれるのです」と田中教授は浜寺小学校の取り組みの意義について語る。
OECD(経済協力開発機構)による国際的な学習到達度調査「PISA」で問われ、日本の子どもたちが苦手とされる「読解力」というのも、思考力・判断力・表現力が要求される自主的・自律的な問題解決能力のこと。そこでPISA型読解力の成績が高いフィンランドの教育メソッドが注目を集めている。文科省の「学力向上フロンティアスクール」に選ばれた2002年以来、浜寺小学校の一連の取り組みも、そうした新しい21世紀型の学力観に根ざしている(情報誌【BERD】No.12 「ケーススタディ:話す・聞く・考える・書く活動を通して子どもたちの『言葉の力』を高めていく − 大阪府堺市立浜寺小学校」参照)。
「ドリルで基礎・基本を繰り返すことも大切。でも学力はそれだけではありません。読書を通して育まれるのは、自分の言葉で考え、伝える力。そして相手の話を聞き取って自分の思いを推敲し、伝える力。これからの国際社会で必要な〈生きる力〉とは、軽いタッチで英語を話せることではなく、自分なりの考えを持ち合わせていることだと思うのです」(由良校長)。