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Benesse発 2010年「子どもの教育を考える」
このコーナーでは、教育のあるべき姿をBenesse教育研究開発センターと、皆さんと共に考え、創りあげていきます。
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『Benesse発2010年「子どもの教育を考える」』更新終了のお知らせ

『Benesse発2010年「子どもの教育を考える」』は、2010年3月31日をもって、更新を終了させていただきました。
これまでたくさんのアクセスをいただき、ありがとうございました。

教育の第一人者からのビデオメッセージ 「2010年に向けて〜 教育への提言 」
第2回 歪んだ全入が、中流を分断する
  「2010年子どもの教育を考える」というテーマに対し、昭和女子大学教授の矢野眞和先生から大切にしたいキーワードをあげていただき、お話を伺いました。第2回目は「歪んだ全入が、中流を分断する」です。

● 2つめのキーワードとして「歪んだ全入が、中流を分断する」ということをあげていただきました。「大学全入」とは、どういうことを言うのでしょうか?

 「全入」とは、現在の大学を語る上でキーワードです。以前は、「受験戦争」や「入試地獄」がキーワードでした。

 しかし、この「全入」というのはかなり問題のある言葉でして、私は使わないほうがいいと考えています。全入というのは「誰でも入れる」ということでしょうが、その背景にある、必ずしも誰でもが入れるわけではない、入りたくても大学に行けない層がある、ということを忘れてしまうからです。

 現在使われている「全入」は、「お金さえあれば、勉強しなくても、学力がなくても、誰でも入れる」ということでしょう。私の調査では、高校時代にほとんど勉強しなくて大学に入る人は2〜3割いるという結果を得ました。こういう「全入」は歪んでいると考えます。では、「正統な全入」とはどういうものなのでしょうか。私は、「学力さえあれば、または学ぶ意欲さえあれば、経済力がなくても、誰でも入れる」ことと考えます。このように、現在の全入と正統な全入の間には、大きな隔たりがある。このことは基本的な問題だと思います。

 とはいえ、今は定員に満たない大学が4割という状態ですので、大学に願書を出す人は誰でもどこかに入れるという状況になっているのは事実です。

● 子どもの数が減って、大学の総定員数が変わらなければ、大学に入りやすくなり、大学進学率が上がるのではないかと考えるのですが、実情はいかがでしょうか?

 大学進学率は、男女別に考える必要があります。まず、男子を考えますと、30年前に大学進学率は4割を超えています。現在5割ということを考えると、むしろ停滞していると考えたほうが良いでしょう。しかし、定員に満たない大学が4割あって、大学に入りやすくなったのに、大学進学率が上がっているとはいえない。私は、その理由を考えることがとても大切だと思います。

 40年間の大学進学率を分析しますと、この10年は、本来進学率が下がってもいいはずなのです。というのも、1997年以降、所得が伸び悩んでいて、家計はマイナス基調です。一方、大学の授業料は上がっています。授業料が上がって所得が下がると、過去の経験からいって進学率は下がるはずなのですが、下がらずに安定しています。下がるはずのものが安定しているというのは、押し上げるものがあるということです。それが、失業率です。失業率の上昇という雇用不安が、下がるはずの進学率を押し上げて、それが50%という水準を作っている。これがデータから見てとれる現状です。

 一方、女子の場合は、急速に大学進学が進み、短大から4大へと、私の想像を超える勢いでシフトしました。最近の大学進学率の男女合計の上昇は、女性の大学進学率の上昇の影響といえます。また、女性の場合は、短大よりも4大、短大よりも専門学校という進路選択の変化があります。この10年の動きは、女性の進路選択の動きが大きいといえるのです。

● キーワード後半の「中流を分断する」とは、どういうことでしょうか?

 男子の大学進学率は30年前に40%を越えましたが、これは、「中流」の人が大学に来るようになったということです。5段階の成績で考えると、学校の成績が5・4の人が来るだけでなく、真ん中である3、つまり「中流」(=「普通の人」)が大学に行くようになったということなのです。

 30年も前から、大学に「普通の人」が行くようになったのは、とてもいいことだと私は考えます。「普通の人」が大学時代に学ぶ習慣を身につけるということは、個人のためにも社会のためにも大事なのです。現代は、一部の人だけが勉強して、その人たちが社会全体をリードするという時代ではありません。「普通の人」がそれぞれに創意工夫し、社会を支えているのです。会社でもそうでしょう。多くの「普通の人」が、日々、創意工夫して会社は動いています。多くの「普通の人」の創意工夫がストップすれば、会社は衰退するでしょう。社会も同じで、「普通の人」が学び、工夫して生きるために、「普通の人」が学ぶ習慣を身につけなければならないのです。「普通の人」、つまり「中流」が学ぶ時代を広げなければならないと考えます。

 しかし、現在の大学進学率が50%ということは、「普通の人」が全員大学に行っていることにはなりません。真ん中の「普通の人」が全員大学へ行っているならば、進学率は70-80%になるでしょうから、概算で言えば、たくさんいる「普通の人」の半分しか大学へ行っていないことになります。大事な「中流」が分断されているのです。この分断は、経済事情によります。大学に子どもが行くようになると、家計の貯蓄率はマイナス11%になって、貯金をはたかなければなりません。家計の大きな負担になっているのです。この負担ができる層は限られています。大学教育を通して、日本の「中流」が壊れていく危機を私たちは深刻に受け止めなければならないと考えます。

● 中流を分断しているという問題は、経済の問題だというお話がありましたが、経済の問題をクリアしていくには、どのような対策が取れるのでしょうか?

 この問題は、社会全体の問題として真剣に受け止める必要があります。現在、大学教育は個人のためと考えられています。つまり個人的に大学に行きたい(行かせたい)人が、大学に行けば(行かせれば)いいという考え方が強いですが、それは間違いです。「学び習慣」を身につけるのは、個人だけでなく、皆(社会全体)のためにつながるのだということは既にお話しました。大学は皆のためにあるのです。ですから、皆のための大学に作り変える必要があるのです。皆のための大学とは、皆で大学の費用を負担するということ、皆で教育費をシェアするということです。現在は個別の家計が負担しているので、結果、自分さえ良ければいいという人を育てる仕組みになっているのです。皆のための大学にするには、皆の助け合いにすればいいのです。極端に言えば、大学の無償化です。3兆円投入すれば大学を無償にできます。3兆円と言ってもさほど大きな金額ではありません。消費税で言えば、1〜1.3%分にあたります。

 皆で大学を無償にし、学ぶ意欲、または学力さえあれば、お金がなくても入れるようにすればいいのです。つまり、18歳の高校生のためだけでなく、20歳であれ30歳であれ40歳であれ、成人が大学で学びたいと思ったときに、いつでも大学に戻れるようにするのです。今、30歳のサラリーマンが大学に戻りたいというのは、経済的に難しいでしょう。しかし、学費が無料であり、基礎学力があればいつでも誰でも大学に入れるようになれば、レジャーランドではない大学になるでしょう。公共投資として理解すれば、若者だけでなく大人にも有益です。

 また、大学も学力のない人には中退してもらえばいいのです。中退は、悪いことをした生徒を学校が管理するためのもののようになっていますが、生徒も自分の学びに合わない場合には中退すればいいのです。「明るく中退、元気に復学」。これが私の目指す大学の姿です。出たり入ったり自由にできればいいと考えます。

● 大学に行くより、専門学校で手に職をつける、または社会に出て揉まれて学んだほうがよいのでは、という考えもありますが、先生はどのようにお考えになりますか?

 賛成です。私は、すべての人が大学で学ぶようにしたらいいと思いますが、18歳の人がすべて大学に行く必要はありません。自分のやりたいことが、18歳までに分かる人と、仕事の経験を通して分かる人がいます。仕事を通して学ぶ気持ちが出てくるのは、とても大事なことです。私自身、大学を卒業して会社に就職しましたが、私が本当に勉強したいと思ったのは卒業してからです。卒業してこれをやりたい、と思ったら就職したらいいでしょう。その際、就職してから学びたいと思ったときに、リカレント(=戻る仕組み)があることが大切です。日本は、リカレントが弱く、個人負担となる授業料100万円の壁があるのです。いずれにしても、職に就くということはとても大事なことです。

 一方、専門学校で手に職をつけることも大事なことです。日本の労働市場は、職業別に分かれているのではなく、会社ごとに分かれているため、事前にどういう職に就きたいかイメージすることが難しいという特徴があります。しかし、はっきりとイメージがつく職業もあります。看護師、美容師・理容師、調理師などです。職業に直結する専門学校は大事で、学校に活気もあります。

 現実の専門学校については、男女を分けて考える必要があります。女性の場合は、職業に直結した専門学校のシェアが多いので、女性の進路として専門学校が強くなっていると思います。ただし、男性の場合はやや少ないと思います。

 いずれにしても、18歳で人生を決めることは酷でしょう。基本的には18歳の時点ですから、専門学校もよし、就職するもよし、だと思います。また、生涯のため、皆のために大学を作り変える必要があると思います。

● 最後に、保護者の方にメッセージをお願いします。

 今の保護者の方は、本当に大変だと思います。学費の他に、仕送りもあるのです。家庭の教育熱心によってここまできましたが、疲弊していることでしょう。

 わが子のために、熱心に、大学の入学式はもちろん、オープンキャンパスや卒業式に保護者がついて行くことはよく聞きます。しかし、その間の4年間にどれだけ勉強したかについては無関心のように思われます。これは寂しいことです。大学に通わせるのは大変だと思いますが、しっかり勉強することの大切さを伝えてください。

 また、わが子を勉強させること以上に大事なのは、親も学ぶということです。親自身が「学び習慣」を身につけ、生涯学び続けることの意味や効果を示してあげていただきたいと思います。そして、親子一緒になって生涯学ぶ、ということが大事なのかな、と思います。

(2009年9月17日収録)



* 参考情報:『BERD』No.9(2007)
矢野眞和先生インタビュー記事 「日本の大学が直面している真の課題とは」

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矢野 眞和先生
矢野 眞和(やの まさかず)
昭和女子大学 教授
1944年東京都生まれ。東京工業大学工学部卒。工学博士。専攻分野は高等教育政策、社会工学、教育経済学。主な著書に『教育社会の設計』(東京大学出版会)、『大学改革の海図』(玉川大学出版部)他多数。



第2回
歪んだ全入が、中流を分断する

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