BERD 2007 No.8
【連載】
教える「現場」
育てる「言葉」
profile
佐賀 勝男
一級技能士
鈴廣かまぼこ株式会社取締役
さが かつお

鈴廣かまぼこ株式会社取締役、 風祭製造部部長。
一級技能士。
1944年宮城県出身。
水産学校卒業後、同社に入社。
鈴廣は1865年にかまぼこ製造を開始し、1887年に屋号を「鈴廣」に改名。
以後一貫して小田原かまぼこの味と製造法を今に伝えている。
【小田原かまぼこ】
かまぼことは魚の練り製品全般を指すが、小田原かまぼこというと板付けされた蒸し製品が有名。
江戸時代から続く地場産業で、相模湾で捕れるオキギスと箱根の名水による製造が行われてきた。
現在では業界全体で、後進の育成と伝統的技法の伝達に尽力している。
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持続力を育む強い動機づけが大切
職人芸の継承は「頑固さ」にかかっている
佐賀 勝男[一級技能士 鈴廣かまぼこ株式会社取締役]

佐賀 勝男
   小田原にある鈴廣の「かまぼこ博物館」。
 併設の工場では、小田原かまぼこの伝統を継承する昔ながらの製法で高級板付けかまぼこが作られている。
 佐賀勝男さんは、この道40年を越すキャリアのかまぼこ職人だ。
 現代の若者に、職人芸はどのように受け継がれていくのか。
手作りのよさを知ることが動機づけにつながる
 グチ(イシモチ)とオキギスのすり身を刃のない包丁でこねて、かまぼこ板に盛りつけていく。板になすりつける「引き起こし」、半球状に盛り上げる「中掛け」、最上層を作る「上掛け」という3工程の作業。その手さばきが流れるようにスムーズなためか、格別に難しそうな技には見えないのだが……。「最後の板付け工程まで完璧にできるようになるまでには、20年近くかかりますね」と佐賀さんはいう。
 手作りのかまぼこは、練り製品業界全体でも今や極めて数少ない。機械生産なら板付け工程で1時間に2000本できるが、10人の職人がまな板に並んで5〜6時間作業しても、せいぜい500本がいいところだ。だが、手作りのかまぼこには機械生産では出せない食感とのどごしがある。新人にとっては、仕事を通じてその職人技に触れられる、またとない機会だ。
 どの世界でも、職人技というのは短時間で身に付くものではない。先輩の見よう見まねを繰り返し、体で覚えていく。「そのためには頑固さがないと。その持続力をどう若い人たちに持ってもらうかが今の難しいところです」と佐賀さんは話す。
 今や大半の商品は機械化により大量生産される。手作りの伝統的な技術が途絶えることに先行世代は危機感を募らせるが、では果たして、その継承に若い世代がどれほど切実な動機を持てるのか。むろん、丹精込めた手作りの商品が消費者の下へ届くことの誇りは、若者の技術習得の動機にはなる。だが、佐賀さんが修業したころのように、手作業ができないからといって仕事にならない時代ではない。ただがむしゃらになれといっても、どだい無理な注文なのだ。どのようにして強く動機づけるのか。
 一つには「手作りのよさを身をもって知ること」だと佐賀さんはいう。
 「例えば、板に付ける3工程には自然の〈間〉があります。最初に盛りつけたものを何本か並べておくと、そのわずかな時間で身質が落ち着いて、ぷりっとした弾力と粘りが増す。機械だと、ホッパーに入れてスイッチを押せばどんどん流れるので〈間〉が入らない。同じ原料を使っても質が違ってくるのはなぜなのか、体験を通じて覚えると、がぜん興味と関心が深くなります」

失敗を乗り越え自分で気付いたことしか身に付かない

 佐賀さんは宮城県の水産学校を出て1962年、鈴廣に入社した。人気業種の缶詰工場に就職するつもりでいたが、かまぼこ品評会で練り製品の美しさ、種類の豊富さに魅せられた。小田原には先輩が在籍するかまぼこメーカーが何社かあったが、あえてOBが誰もいない鈴廣を就職先に選んだ。
 機械化が始まっていたが、主流はまだ手作業だった。いちいち手取り足取り教えてはくれない。無言のうちに先輩は、「見て覚えろ」と態度で示していた。
 「板付けでは、まな板にかまぼこ板をぴったりと平行に付けて作業をする。少しでも浮いていると安定が悪くてうまくいかない。でも、それは最後の最後で教えてもらいました。長期間練習して自分ではだいぶうまくなってきたな、と思っていたけれど、どうもまだ左右均等にならない。そしたら先輩がまな板に付けろと教えてくれた。最初にいってくれれば! とその時は思いましたよ。でもそれがよかったのでしょう。さんざん失敗してやっと気付かされたことは、身に付いているものです」
 かきいれどきの年末には、寝る暇もないほど長時間の作業が続いた。いったん包丁を握ると、トイレと食事以外はなかなか手放せない。夕食では箸を持つ手が曲がらないほど。そこまですれば、体に技がしみこんでいく。
 「今はそういうチャンスがありませんから、技を習得するまで昔よりはるかに時間がかかります。うんと密度の濃い仕事と、1日にほんのちょっとしか包丁を握らないのとでは、大きく差がついても仕方ありません」
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