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フィールドワークの伝統に立った地球社会の共存を目指して
─森川里海連環学(ベネッセコーポレーション)分野の取り組み─
京都大学地球環境学大学院に設置された3組織、地球環境学堂(研究組織)、地球環境学舎(教育組織)、三才学林(教育・研究支援組織)では、地球環境問題を旧来の学問分野の枠組みにとらわれず、具体的に問題解決していくことを目指している。
2006年10月には、この地球環境学堂にベネッセコーポレーションの寄付研究部門として「森川里海(もりかわさとうみ)連環学(ベネッセコーポレーション)分野」が設置された。
嘉門雅史地球環境学堂長、副学長でもある横山俊夫三才学林長に寄付研究部門設置の趣旨と意義を、そして2人の専任研究者に、それぞれが取り組む現在の研究とその将来性について語っていただいた。
2006年10月には、この地球環境学堂にベネッセコーポレーションの寄付研究部門として「森川里海(もりかわさとうみ)連環学(ベネッセコーポレーション)分野」が設置された。
嘉門雅史地球環境学堂長、副学長でもある横山俊夫三才学林長に寄付研究部門設置の趣旨と意義を、そして2人の専任研究者に、それぞれが取り組む現在の研究とその将来性について語っていただいた。
地球環境学堂及び三才学林の理念
─グローバルな視点で地球環境問題に取り組む─
嘉門雅史[京都大学大学院地球環境学堂長]
横山俊夫[京都大学三才学林長・京都大学副学長]


嘉門雅史
横山 学堂設立の背景としては、まず1997年の京都議定書があり、もう一つは04年の国立大学の法人化がありました。法人化に向けて、京都大学は01年に基本理念を制定。その要旨は、「創立以来の伝統である学問研究の自由を継承し発展させること」「地球社会の調和ある共存に貢献すること」の二つです。地球社会とは、人間社会だけではなく生物、無生物、すなわち花、鳥、森、川、海、空、すべてを包含した社会であり、学堂は京都大学の基本理念の一つの結晶体であると私は考えています。
嘉門 同時に学堂は、京都大学のフィールドワークの伝統の上に立って、海外の現地調査によって課題を発見しつつ、それをいかに解決するか、言わば課題解決型の教育・研究に重点を置いています。

横山俊夫
嘉門 海外に研究拠点を置いた活動が、本学堂が目指す協働の活動の一つの象徴であるといってよいと思います。現在、ベトナム中部にあるフエ農林大学と密な関係を築いて、森、里(村)、そしてラグーン(潟湖)の関係がつくり出す生態系の在り方を研究しています。毎年、そこにインターンというかたちで数名の研修生を送り込んで、現地での実践的な教育・研究を行っており、これらの諸活動を「アジア・プラットフォーム」と呼んでいます。
横山 フエのプロジェクトが画期的なのは、人類が現在手にしている科学技術のオプションをいかに組み合わせればその地域にとって望ましい結果が生まれるかという視点を持ちながら、その土地の知恵として根付いている環境マネジメントの伝統を研究者自身が学んでいることです。従来は、「進んだ」地域から「遅れた」地域に科学技術を移すという発想が主流でしたが、それでは押しつけになってしまう。フエのプロジェクトは、「科学技術が社会との対話を始めた」研究活動なのです。
嘉門 地球環境問題で難しいのは、いきなり地球全体の問題を解決しようとしても簡単にはいかないという点です。我々は「シンク・グローバリー、アクト・ローカリー」といっていますが、あくまでも個別地域の環境問題の解決を積み上げていく中からしか、全体の解は見えてこない。フエはローカルな個別問題解決の実践の場であるわけです。
横山 ローカルで個別的な問題解決の実践から得られた知見が地球環境全体にとってどのようなメッセージを含んでいるか、その普遍性はなかなか見えにくい。その意味を発見する場が三才学林です。「三才」とは易経で使われた言葉で「天、地、人」を指しますが、学堂の研究によって得られた知見を、三才学林でさまざまな人々を前に発表してもらっております。
嘉門 三才学林では「地球環境学懇話会」という本学堂の研究者による研究報告会も月に1度開いています。また横山先生は懇話会とは別に、「町家塾」にも力を入れておられる。
横山 400年の歴史を持つ京町家に町の方々をお招きして、我々の研究成果を語り、それを京言葉で練り直していただくという実験をしております。例えば、野菜がよくできる土を科学者が定義すると「NPK(窒素・リン酸・カリ)のバランスよし、C(炭素)もあり……」となりますが、京都の伝統農家の方なら「むっくりとした土ですなあ……」となる。うまくいけば、学堂で得られた知見が、新しい生活の美意識や作法として地域に広がり、人が環境とよりよくつきあう道が見つかるかもしれません。
嘉門 確かに、文理融合を理念として掲げるだけでは問題の解決にはつながりません。地球環境問題では循環、共生、全員参加、国際協力の四つがキーワードといわれていますが、私のようなエンジニアが個別分野だけを懸命に追究しても、地球環境にどう貢献するかは見えてこない。三才学林で異分野の研究者や町の方々との対話を積み重ねていくことによって、人間存在の根源に立ち返って、自身の研究の意味を見つめ直す契機を持てるわけです。
横山 文明という東アジアの古語は、三才が文をなして明るく輝くという偉大な意味を持っていました。地球環境の持続的安定を、とよくいわれますが、あれもダメこれもダメと抑制するだけでは、暗い統制社会になってしまうばかりです。
嘉門 ディープ・エコロジストほどそうなりがちですが、ミクロに見ると地域環境の利益になりそうなことでも、グローバルに見ると必ずしもそうとはいえないケースが多々あります。化学物質の中には少量なら薬になるが、大量だと毒になるものがあるように、重要なのは、いかにバランスを取っていくかです。こうした視点を「評価の二重バランス」と呼びますが、ほどほどのところで辛抱しましょうという対話が国際的な信頼関係の上で交わされていかないと、それこそ暗い世の中を招来することになってしまいます。
横山 芸術、文学、哲学といった、さまざまな分野の表現者を地球環境問題の研究にまき込むことによって、互いに共存することの喜びを実感できる新しい生き方を提唱していきたいですね。環境問題は持続可能なかたちで言わば楽しく解決するのがよい。人為環境の良い面、悪い面を見極めながら、メリハリのある文明をつくり上げていく。この学堂は、新しい部門を加えて、そうした文明を提言できる拠点になっていくと考えています。
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