
| |
|
アメリカにおける才能のある学習困難な子どもへの学校教育の取り組み
─2E教育の可能性を探る─
野添絹子[早稲田大学大学院教育学研究科教育基礎学専攻博士課程]

アメリカでは、学習障がい児の才能を見いだして学力を高めようとする学校教育の取り組みがある。才能も障がいもある「二重に特別な」(twice-exceptional[2E])子どもたちを対象とすることから、こうした教育方法は「2E教育」と呼ばれている。
本報告では、2E教育とはどのようなものなのか、理論的・実践的研究の第一人者であるニューロッシェル大学のスーザン・バウム名誉教授と、2E教育実践のパイオニアである南ウェストチェスターBOCES(Bord of Cooperative Educational Service)のロイス・ボールドウィン特殊教育部長にインタビューを行った。2人は理論研究と教育実践の橋渡しを共同で行っている。
また、2E教育の実践について知見を得るため、その発祥地であるニューヨーク州ウェストチェスター郡の公立学校と、2Eの生徒だけを対象に大学進学のために学習支援を行うカリフォルニア州ストゥディオシティの特別学校を訪問した。インタビューと授業観察の結果を報告する。
本報告では、2E教育とはどのようなものなのか、理論的・実践的研究の第一人者であるニューロッシェル大学のスーザン・バウム名誉教授と、2E教育実践のパイオニアである南ウェストチェスターBOCES(Bord of Cooperative Educational Service)のロイス・ボールドウィン特殊教育部長にインタビューを行った。2人は理論研究と教育実践の橋渡しを共同で行っている。
また、2E教育の実践について知見を得るため、その発祥地であるニューヨーク州ウェストチェスター郡の公立学校と、2Eの生徒だけを対象に大学進学のために学習支援を行うカリフォルニア州ストゥディオシティの特別学校を訪問した。インタビューと授業観察の結果を報告する。
日本の特別支援教育の課題点
日本では改正学校教育法の施行を受けて、2007年度から特別支援教育の実施が本格化した。従来の特殊教育が対象とした障がい児に加えて、LD(学習障がい)、ADHD(注意欠陥/多動性障がい)、高機能自閉症などの軽度発達障がいを持つ子どもたちがその対象に加わった。
文部科学省の全国調査では、こうした子どもたちは全体の約6%とされている。しかし、この数字には、知的発達等の遅れがありながら、通常学級にいる子どもは含まれていない。そのため、このような子どもたちまで含めると、特別支援教育を必要としている子どもは、1割近くになると推定される。このことは、愛媛県の特別支援教育体制推進事業(05年度)による調査において、多い学校では通常学級に在籍する児童生徒の10〜20%に「学習や行動に気になるつまずきがある」(心理的、環境的問題も含む)と報告されていることとほぼ一致する。
筆者は今まで、塾の講師、家庭教師、中学・高校での非常勤講師等を経験してきたが、その中で、診断名が下されるほどではないが、明らかに認知の偏りがあったり、暗記が非常に困難であったりする子どもたちを大勢見てきた。それらの子どもたちには、通常の教え方では対処できないもどかしさがあり、筆者は長い間、その原因となるものや、効果的な学習法について考えてきた。通常の学級にいるこうした子どもたちに有効な支援が行えていない点は、日本の教育が抱える大きな課題であろう。
また、日本の特別支援教育が抱える課題として、治療的・補償的教育によって障がいを補うことが重視され、得意な分野を開発し、才能を伸長させ、子ども自身が自己の価値を見いだすような教育を提供する、といった発想を軽視してきたことが指摘できる。
この原因として、日本における「才能教育」への抵抗感が挙げられる。特に、能力をIQ等で数値化し、一部の生徒を対象に特別な教育を提供するような措置に対しては、「エリート教育」だという批判も少なくない。筆者もその種の教育には懐疑的であるが、才能(長所)を伸長させるという発想が特別支援教育になければ、LD児は自分に価値を見いだすことができず、自信をなくし、二次的障がい*1を引き起こすような事態になることもあるだろう。才能教育の手法を日本社会に適するようにアレンジして、生徒一人ひとりが持つ、それぞれの長所を伸長させるような教育を行うことは、特別支援教育のみならず、個性化教育の一環として普通教育においても必要であると考える。
以上のような問題意識を持って研究を続ける中で、筆者が出合ったのがアメリカで実践されている「2E教育」と呼ばれる教育方法である。認知能力の数値化の効果が実証され、障がい児教育の試みに生かされてきたという経緯のある2E教育を紹介することは、日本における特別支援教育の在り方について、何らかの示唆を与えてくれるものであると考える。本稿ではさらに、その方法論を普通教育にも応用し、学習につまずきのある生徒の学力向上を促す学習方略についても考察する。
文部科学省の全国調査では、こうした子どもたちは全体の約6%とされている。しかし、この数字には、知的発達等の遅れがありながら、通常学級にいる子どもは含まれていない。そのため、このような子どもたちまで含めると、特別支援教育を必要としている子どもは、1割近くになると推定される。このことは、愛媛県の特別支援教育体制推進事業(05年度)による調査において、多い学校では通常学級に在籍する児童生徒の10〜20%に「学習や行動に気になるつまずきがある」(心理的、環境的問題も含む)と報告されていることとほぼ一致する。
筆者は今まで、塾の講師、家庭教師、中学・高校での非常勤講師等を経験してきたが、その中で、診断名が下されるほどではないが、明らかに認知の偏りがあったり、暗記が非常に困難であったりする子どもたちを大勢見てきた。それらの子どもたちには、通常の教え方では対処できないもどかしさがあり、筆者は長い間、その原因となるものや、効果的な学習法について考えてきた。通常の学級にいるこうした子どもたちに有効な支援が行えていない点は、日本の教育が抱える大きな課題であろう。
また、日本の特別支援教育が抱える課題として、治療的・補償的教育によって障がいを補うことが重視され、得意な分野を開発し、才能を伸長させ、子ども自身が自己の価値を見いだすような教育を提供する、といった発想を軽視してきたことが指摘できる。
この原因として、日本における「才能教育」への抵抗感が挙げられる。特に、能力をIQ等で数値化し、一部の生徒を対象に特別な教育を提供するような措置に対しては、「エリート教育」だという批判も少なくない。筆者もその種の教育には懐疑的であるが、才能(長所)を伸長させるという発想が特別支援教育になければ、LD児は自分に価値を見いだすことができず、自信をなくし、二次的障がい*1を引き起こすような事態になることもあるだろう。才能教育の手法を日本社会に適するようにアレンジして、生徒一人ひとりが持つ、それぞれの長所を伸長させるような教育を行うことは、特別支援教育のみならず、個性化教育の一環として普通教育においても必要であると考える。
以上のような問題意識を持って研究を続ける中で、筆者が出合ったのがアメリカで実践されている「2E教育」と呼ばれる教育方法である。認知能力の数値化の効果が実証され、障がい児教育の試みに生かされてきたという経緯のある2E教育を紹介することは、日本における特別支援教育の在り方について、何らかの示唆を与えてくれるものであると考える。本稿ではさらに、その方法論を普通教育にも応用し、学習につまずきのある生徒の学力向上を促す学習方略についても考察する。
- *1 LDが原因で良い成績が取れず、自信も気力もなくなり、不登校になった
り、家族や周囲の者との間で軋轢を生じさせてしまったりすること等。
|
|||||||||

