BERD 2008 No.13
【特集】
インタビュー
BERD
   PAGE 5/5 前ページ  
復習とは問題集を解くこと
 学習の方法についても、脳科学の知見からいくつかのヒントを提示することができます。強調したいのは、復習の大切さです。普通のことに思えるでしょうが、やり方を誤ると効果が半減します。
 そもそも、脳に情報を入れるだけで記憶が完了すると考えるのは大きな間違いです。脳にも入力と出力があって、情報を入れる過程と、その情報を使ってみる過程の両方を考慮しなければいけません。そして、知識を蓄えるのにどちらが重要かというと、実は出力なのです。学習に即して考えるなら、出力は復習に相当します。ただし、大事なのは復習とは参考書の再読ではなく、問題集を解くこと。参考書は入力に使うものなので、復習になりません。
 意外に思われるかもしれませんが、復習の大切さが脳科学で証明されたのは、ごく最近のことです。学生に彼らがまったく知らないスワヒリ語の単語を覚えてもらうという実験から分かりました。英単語とそれに対応するスワヒリ語が40組書かれた紙を配り、学生に丸暗記してもらいます。その後テストをして、全問正解するまで繰り返すのですが、下記のように異なる条件の四つのグループに分けて行われました。
 A) 40単語を記憶する→テスト→単語リストを一通り覚え直す→40単語を再テスト
 B) 40単語を記憶する→テスト→間違えた単語だけ覚え直す→40単語を再テスト
 C) 40単語を記憶する→テスト→単語リストを一通り覚え直す→テストで
    間違えた単語だけを再テスト
 D) 40単語を記憶する→テスト→間違えた単語だけ覚え直す→テストで
    間違えた単語だけ再テスト
 どのグループの学生も、記憶とテストのサイクルを4、5回繰り返すとだいたい満点が取れたそうです。
 ここで差がつかないことも興味深いのですが、1週間後にもう一度集まってもらって同じテストをしたら、まさに劇的な結果となりました。40単語すべてを再テストしたグループ(AとB)は80点ぐらいだったのに対し、残りの二つのグループ(CとD)は20点前後しか取れなかったのです。つまり、問題を再度全部やったほうが記憶の定着率が高かったということで、特に、間違えた単語だけ覚え直してもテストを全問やれば効果が高かったのは特筆すべきです(Bの場合)。情報を詰め込んだら試しに使ってみるのがどれほど重要かを、この実験結果はまざまざと示しています*3
 復習、または実践と言い換えてもいいでしょうが、勉強でもスポーツでも、ここをしっかりやらないと身に付かないのは確かです。バスケットボールの教本を100回通読するのと、100回シュート練習するのとどちらが上達するかを想像すれば、もっと分かりやすいでしょう。博識になりたかったら、覚えたことを人に話してみることです。回が重なると周りは少し迷惑しますが、効果は期待できると思います。
図表[3]二次元で表現された立方体  学習法の話にもう一つ付け加えると、人間の集中力が持続するのは何分間だから、一定の間隔で休憩を入れると効率がいいといったノウハウがよく紹介されます。たいてい10分とか20分とか書いてありますけど、あれは全部ウソです。例えば図表3のような立方体は見え方が2パターンありますが、左下の面が前方に出ているという状態で見ることを数分間もキープできるでしょうか。おそらくは数秒単位で2パターンが交互に見えてしまうはずです。集中力の持続とはそういうことです。
 本当の集中力は、個人差はあるにせよ、1分も持てば大したものだと思います。勉強するときも、「布団から出る」要領でまず手を動かして、気が散ってきたらまた手を動かして気合を入れ直す。この繰り返しですが、大切なことなのです。
  • *3 Jeffrey,D.K. & Henry,L.R.III. The Critical Importance of Retrieval for Learning.
     Science 15 February 2008 319: 966-968 を参照。
生命のあいまいさに挑む脳科学
 脳を研究していて驚くのは、一見あいまいでつかみどころのない生活現象にも、ちゃんとした理由があるということです。
 昔の私は、科学的に証明できないものは信用しないタイプでした。先ほど触れたような精神論とか、料理にしても、どうせ口に入れたら同じなのだから、わざわざ器を選んだり、きれいに盛りつけたりするなんて無意味だと思っていたのです。それが、脳科学に触れて変わりました。同じ料理でも、やはり雰囲気のいいレストランで、いい食器を使って食べた方が明らかに脳が「おいしい」と反応していることが分かってくる。褒めることや復習の効果のような経験的に知っていることも、もっとダイナミックな生命の営みとして、科学的に理解することができるのです。
 初めにもいいましたが、意欲はひとりぼっちの脳の内側から自然にわくものではなく、脳を取り巻く環境とのやり取りを通じて初めて起こり、次なる行動を促すのです。教育界が学習意欲に目を向ける際、今後は環境の影響をもっと重視することで、これまでと違ったアプローチが出てくる可能性もあるのではないでしょうか。
   PAGE 5/5 前ページ  
研究者(BERD)TOPへ戻る 2008年度バックナンバーへ戻る