BERD 2008 No.13
【連載】
若手研究者
現地調査レポート
第10回:オーストリア
オーストリア
profile
若山育代
広島大学大学院教育学研究科学習開発専攻博士課程後期3年
わかやま いくよ

東京学芸大学大学院教育学研究科学校心理コース修了。
現在、広島大学大学院教育学研究科学習開発専攻
博士課程後期3年。
専門は幼児造形教育、教育心理学。
BERD
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オーストリアの幼児造形教育から学ぶこと
─三つのキンダーガルテンの視察調査から─
若山育代[広島大学大学院教育学研究科学習開発専攻博士課程後期3年]

若山育代
  第2次世界大戦後、オーストリアの造形教育が日本へ伝わることによって、日本の造形教育思想や方法論は大きくシフトした。こうしてオーストリアの造形教育は日本の造形教育の土台となり、現在でもその思想は受け継がれているにもかかわらず、日本ではその実態はあまり知られていない。そこで、オーストリアの第2の都市、グラーツにある三つのキンダーガルテン(幼稚園)を視察し、そこで行われる幼児造形教育の実態を調査した結果をレポートする。
調査概要
はじめに
 造形教育は子どもの知・情・意すべてに働きかけ、それらを豊かにする全人的教育活動である。造形教育では子どもが描いたり作ったりすることで知性や感性を広げ深めるだけでなく、作品を通して他者との心の通った関わりや情動体験を持つ。そしてこのような子どもの体験は、子ども中心主義の造形教育によって可能になる。
 この子ども中心主義の造形教育は、オーストリアのフランツ・チゼック(Franz Cizek)という美術家であり美術教育家の思想に強く影響を受けている。チゼックは第1次世界大戦後、精神的に豊かで創造的な国民を育成するために、子どもたちの創造力と自己教育力の育成という目標の下、子ども中心の造形教育に積極的に取り組んだ 。チゼックが子ども中心主義の造形教育を行ったのは、大人とは異なる子ども独自の世界認識の仕方や子ども本来の創造力が子ども中心主義の造形教育でこそ育まれるという確信を持っていたこと、そして創造力が発揮されることによって主体的、積極的に世界に働きかけ、健やかにたくましく自分自身の可能性を広げていく自己教育力が育まれていくというプロセスを信じていたことによる。こうしたチゼックの考えはオーストリアから世界中に広まり、日本においても造形教育思想の土台となった。
 このような背景があるものの、日本では現在、オーストリアの造形教育の実態はあまり知られていない。そこで本レポートでは、オーストリアのシュタイアマルク州の州都であるグラーツを訪れ、三つのキンダーガルテンにおける造形教育実践と、子どもたちの創造力と自己教育力の育ちについて視察を行った。
 調査対象となったグラーツは、ウィーンに次ぐオーストリア第2の芸術文化都市である。グラーツが芸術文化都市である理由は、ヨーロッパ有数の古都であると同時に現代芸術の発信地としての顔も持つためである。さらにグラーツはヨーロッパ屈指の大学都市でもあり、人々が教育へ向ける期待が高い街でもある。つまり、グラーツでは美術と教育が地域の人々や街全体と深く関わっているのである。これらの理由から、本調査ではオーストリアのグラーツを調査対象とした。
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