BERD 2008 No.15
【特集】
インタビュー
profile
小倉 康
国立教育政策研究所総括研究官
おぐら やすし

国立教育政策研究所教育課程研究センター基礎研究部総括研究官。
独立行政法人科学技術振興機構理科教育支援センターシニアアナリスト。
広島大学教育学部助手、国立教育研究所研究員を経て現職。
『生きるための知識と技能3-OECD生徒の学習到達度調査(PISA)2006年調査国際結果報告書』『TIMSS2003 理科教育の国際比較』(ともにぎょうせい)をはじめ、著書・論文多数。
Refarences
●小倉康「科学的リテラシーを育むこれからの理科教育」『広領域教育』No.69/2008年
●小倉康「2006年PISA調査における科学的リテラシーの評価」『大学の物理教育』VOL.14 NO.1/2008年
●小倉康、松原静郎「TIMSS1999理科授業ビデオ研究の結果について」『国立教育政策研究所紀要』第136集/2007年
BERD
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データからみる理科教育の課題
──科学を学ぶ意義が伝わる授業とカリキュラムを──
小倉 康[国立教育政策研究所総括研究官]

小倉 康
 理科の実験・観察は楽しいから好きだけれど、それが何の役に立つのかはよく分からない。
 だから、あまり大切な勉強とは思えない。
 ──さまざまな調査結果から、理科に対する子どもたちのそんな意識が浮かび上がってくる。
 データを基に理科教育の課題を探ってみたい。
キーワード=小中学校教育課程実施状況調査、PISA調査、
         科学リテラシー
多くの子どもにとって理科は「面白いけれど役に立たない」
 私が子どもだった高度経済成長期とは比べものにならないほど現代は価値観が多様化し、子どもにとって興味のあること、大切なこともまた多様化しています。そうした中で、学校で学ぶことに対しても、何か積極的な意義を感じなければ学習意欲がわかない子どもが増えてきました。子どもは教室の椅子に座れば勉強するもの、と大人が疑いをもたなかったかつての時代と異なり、今はうまく動機づけできないと学ぼうとしません。教師の置かれている状況が、昔と今ではかなり違うのです。
 学習内容に興味・関心の高いことが、第一の動機づけになります。それにはさまざまな方法があって、理科なら観察・実験・飼育・栽培など、実体験をともなって楽しく作業をすることで興味・関心を引きつけられる題材が豊富です。
 しかし、学年が上がり中学生くらいになると、ただ「楽しい」だけでは動機づけにならなくなります。その勉強が何の役に立つのか、自分の将来にとってどんな意義があるのか。そんなことを子どもは意識し始めます。つまり動機づけでは「学ぶ内容についての興味・関心」と「それを学ぶことの意義」の両面が必要なのです。しかし、この後者について理科では成功しているといえません。
図表[1] (各教科の)勉強は、受験に関係なくても大切だ(2003年)  2001(平成13)・2003(平成15)年度の小中学校教育課程実施状況調査で、「(各教科の)勉強は受験に関係なくても大切だ」という質問をしました(図表1)。教科間、学年間で結果を比べると、理科は「大切だ」と意識する子どもの割合が、いずれの調査とも、国語、算数・数学、英語よりすべての学年で低く、また、中学校の3年間で徐々に低下していることが分かります。一方で、「(各教科の)勉強が好きだ」という質問に対しては、理科が「好きだ」と意識する子どもの割合が最も高かったのです(図表2)。つまり、多くの子どもにとって理科は「面白いけれど勉強する意義が分からない」教科ということになります。
図表[2] (各教科の)勉強が好きだ(2003年)  01年度に比べて03年度の方が改善の傾向にあるのは、「生きる力」の育成を目指して内容的にゆとりを持たせた教育課程で、より主体的な学習が尊重されたこと、関心・意欲・態度が評価の観点として重視されだしたことなどがその理由として考えられますが、推測の域を出ません。とはいえ依然として他の教科に比べて低いわけですから、重い課題として残されていることは確かです。
 これは国際的にみても顕著な状況といえます。03年の国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)の生徒質問紙調査の結果では、理科学習に高い価値を意識している中学2年生の割合は、比較可能な参加国中で最低の17%でした(図表3)。成績は上位5位に入っているにもかかわらず、です。日本とほぼ同じ成績レベルのイギリス(イングランド)は40%近くの子どもが理科学習に高い価値を意識しています。だから日本がそうなれないはずはない。
 15歳を対象(日本では高校1年生)に科学的リテラシーを中心に測定した06年のPISA調査でも、日本の成績はOECD加盟国の平均を30点以上上回った反面、「科学的態度」に関わる意識面の測定結果では、次の観点において低い水準にあることが分かりました。すなわち、「科学的な課題に適切に対応できる自信(自己効力感)」「理科を何に役立てるために勉強しているかの意識」「科学に関連する活動の程度」「30歳時に科学に関連した職業に就くことの期待」「対話を重視した理科授業を受けている意識」「生徒の科学研究を取り入れた理科授業を受けている意識」「モデルの使用や応用を重視した理科授業を受けている意識」などです。
図表[3] 理科学習に高い価値を意識している中学2年生の割合と各国理科平均点
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