BERD 2008 No.15
【特集】
インタビュー
profile
無藤 隆
白梅学園大学子ども学部教授
むとう たかし

白梅学園大学子ども学部教授。
専攻は発達心理学、教育心理学、幼児教育・学校教育。
東京大学大学院教育学研究科博士課程中退。
お茶の水女子大学生活学部教授、白梅学園大学学長等を経て現職。
中央教育審議会では幼稚園教育専門部会、初等中等教育分科会などで委員を務める。
編著に『The保育〜101の提言〜』(フレーベル館)、『幼稚園教育要領ハンドブック』(学習研究社)、著書に『現場と学問のふれあうところ』(新曜社)など。
Refarences
●無藤隆、民秋言著『ここが変わった!NEW幼稚園教育要領・保育所保育指針ガイドブック』フレーベル館/2008年
●国立教育政策研究所教育課程研究センター著『幼児期から児童期への教育』ひかりのくに/2005年
●無藤隆、安藤智子編『子育て支援の心理学〜家庭・園・地域で育てる〜』有斐閣/2008年
BERD
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幼児期における教育・保育の課題
──幼児教育に対する社会的コンセンサスの必要性──
無藤 隆[白梅学園大学子ども学部教授]

無藤  隆
 2008年3月、幼稚園教育要領改訂と保育所保育指針改定が同時に行われた。
 しかし、幼児期の教育・保育の重要性については、義務教育や高等教育に比べて、必ずしも一般社会の認知が高いとはいえない。
 日本の幼児教育・保育は、幼稚園・保育所の私費負担率の高さや、二元体制の矛盾、小学校教育との分断など多くの課題を抱えている。
 中央教育審議会幼稚園教育専門部会で主査を務めた無藤隆先生に現状と課題、改革の方向をうかがった。
キーワード=幼保二元体制、私費負担、認定こども園、幼保小連携
幼稚園と保育所の二元体制と高額の私費負担の問題
図表[1]幼稚園と保育所の比較
図表[2]幼稚園と保育所の在籍率の変化
 幼児教育・保育の日本の現状には多くの課題がありますが、大きくは二つの点に集約されます。一つは幼稚園・保育所が並立していること、もう一つは家庭の費用負担額が高いことです。
 第一に幼稚園と保育所の二元体制をどうするか。現在、幼稚園へ通っている子どもの比率は年々下がり、保育所へ行っている子どもの比率は上がっています。20年前には幼稚園が中心でしたが、近年ではフルタイムで働く母親が増え、保育所の比重が高くなってきたのです(図表12参照)。
 すると当然のことながら、幼稚園も保育所も、ともに幼児「教育」をしっかりやらなければなりません。保育所が果たす役割は、単に「子どもを預かる」ことから、もっと積極的に「子どもを育てる」ことへと転じています。ならば、幼稚園と保育所をもっと整合的な形にしないといけません。
 しかしそれは、言うは易く行うは難い。幼稚園は文部科学省、保育所は厚生労働省と監督官庁が異なり、規定している法律そのものも違います。幼稚園は「学校教育法」に定められた「学校」ですが、保育所は「児童福祉法」に定められた「児童福祉施設」となります。だから、学校教育法の一部を変えればよい、といった単純な話ではありません。たとえ行政の縦割りを乗り越えて連携したとしても、制度改革には膨大な法律の改正が必要になり、本腰を入れて取り組まなければできません。つまり、そう簡単には幼稚園と保育所をいっしょにできない。そこをどうするのか。これが第一点です。
 第二に費用負担の問題。幼児教育・保育を充実させるには当然ながら費用がかかります。小中学校は義務教育だから公費負担が多いわけですが、いま日本の幼児教育・保育にかかる費用の私費負担率は、高校教育と比べても高い。4割以上が私費負担で、これはOECD(経済協力開発機構)加盟国の中でも突出して高率です。
図表[3]学校種別の保護者負担の教育(保育)費  幼児の親は年齢的に生涯で最も収入の低い時期のはずなのに、負担が重い(図表3参照)。こうした事態は矛盾しています。しかも数の多い私立幼稚園の保育料は、公立幼稚園に比べて高くならざるを得ないし、保育所に比べても公的支出が少ない。幼稚園と保育所、またそれぞれ公立と私立で補助金の出し方は異なるのですが、要するに国か自治体か保護者の負担になるわけです。国も自治体も財政が厳しいので、公的支出を増やすどころか、かえって補助金を減らしています。そうなると幼児教育・保育の質の改善は難しい。
 文科省や厚労省の担当者は改善のための努力をしていると思いますが、国全体としてみれば、幼児教育・保育の占める位置付けは残念ながら低いのが現状です。文科省としては、やはり義務教育が優先されるし、最近では大学教育の比重が大きくなってきました。その中で幼児教育の比重は相対的に小さい。厚労省としても、今は圧倒的に医療費と年金が優先課題なので、幼児保育の占める割合はやはり低い。
 日本のように幼稚園と保育所が併存して二元体制になっている国は、韓国、台湾などごく少数です。しかし台湾は一元化に乗り出し、いよいよ日本は韓国と共に世界でも例外的な国になってきました。
 歴史的な経緯を振り返れば、ヨーロッパから移入された日本で最初の幼稚園は1876(明治9)年設立の東京女子師範学校附属幼稚園(現・お茶の水女子大学附属幼稚園)でした。当初は上流・中流階級が対象です。対して保育所のスタートは正式な制度の下ではないので定かではありませんが、明治の終わりから大正・昭和のはじめにかけて、都市や農村部に出現した貧しい層の子どもが対象でした。第2次世界大戦後にそれぞれ根拠となる法律が制定され、幼稚園教育要領と保育所保育指針が出されました。そして先般の学校教育法の改正で幼稚園教育の目標が明記され、130年かかって、ようやく小中高と同等の重要性が法的に認められたわけです。
 また、実態を踏まえて、1998年度の幼稚園教育要領の改訂で、朝から夕方まで子どもを預かる「預かり保育」が正式に盛り込まれました。これはいわば「幼稚園の保育所化」です。この10年で幼稚園は保育所の機能を取り入れ、一方で保育所に期待されている役割も幼稚園に近付きつつあります。
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