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就学前教育の投資効果から見た幼児教育の意義
──就学前教育が貧困の連鎖を断つ鍵となる──
大竹文雄[大阪大学社会経済研究所教授]

アメリカの労働経済学者・ヘックマンの研究によって、大人になってからの経済状態や生活の質を高める上で、就学前教育が有効であることが実証された。
この知見は日本の教育関係者にも大きな衝撃を与えている。
ヘックマンの研究を日本に紹介した大竹文雄先生に、この研究の意義と、日本での幼児教育に対する教育投資について話をうかがった。
この知見は日本の教育関係者にも大きな衝撃を与えている。
ヘックマンの研究を日本に紹介した大竹文雄先生に、この研究の意義と、日本での幼児教育に対する教育投資について話をうかがった。
キーワード=教育投資、ペリー就学前計画、貧困率
就学前への教育投資のほうが費用対効果は高い
労働経済学の分野では、教育の投資効果に関する研究が、これまでたくさんの研究者によって行われてきました。教育学者の教育に対するアプローチの仕方とは異なり、労働経済学者は教育を、個人の所得や労働生産性を伸ばすための「投資」として捉えます。どのような教育投資をすれば、効果的に所得や労働生産性を上げることができるかが、労働経済学者の関心事です。中でも多くの研究者が興味を持って行ってきたのが、若年失業者を対象とした教育投資に対する研究でした。その結果分かったのは、「失業者訓練は、教育にかけた公的なコストに比べて、得られる効果はそれほど大きなものではない」というものでした。もちろんまったく効果がないわけではないのですが、投資額に見合うだけの経済的利益がなく、費用対効果が悪いのです。これは学校教育においても、同様の知見が得られています。アメリカではマイノリティの経済的貧困が社会問題となっていますが、なぜ所得格差が起こるかを分析すると、「学歴の違い」が大きな要因として浮かび上がってきます。そこでアメリカでは、マイノリティの大学進学率を高めるために、過去にさまざまな補助政策が行われてきましたが、教育投資効果は低いという結果が出ています。では大学段階で教育投資をするのが遅いのなら、高校段階や小・中学校段階ではどうかと研究対象を遡っていくと、いずれの段階でも十分な効果は表れていないということが明らかになってきました。
図表1に見られるように、所得階層別の学力差はすでに6歳の就学時点からついています。この段階でついた学力差は、後の経済格差にも直結します。そしてこの差は、就学後に低所得の家庭の子どもを対象にさまざまな教育投資を行っても、容易に縮まることはないのです。
そこで、ノーベル経済学賞の受賞者でもあるシカゴ大学のジェームズ・ヘックマン教授(専門は労働経済学)は、就学前の子どもに対する教育投資効果に着目し、「就学後の教育の効率性を決めるのは、就学前の教育にある」とする論文を、科学雑誌『Science』で発表しました。彼はまた「恵まれない家庭に育ってきた子どもたちの経済状態や生活の質を高めるには、幼少期の教育が重要である」と主張しています。
- *1 図表1 の出典: Heckman, James J., and Alan B. Krueger.edited by Benjamin M. Friedman. introduction by Benjamin M. Friedman.,Inequality in America: What Role for Human Capital Policies?, figure, p.130 : “Average percentile rank on PIAT-Math score by income quartile ”, ©2004 Massachusetts Institute of Technology, by permission of The MIT Press. James J. Heckman. “Skill Formation and the Economics of Investing in Disadvantaged Children. ” Science,312,1900-1902,2006.
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