BERD 2008 No.15
【特集】
コラム
profile
和光保育園(千葉県富津市)
鈴木眞廣
社会福祉法人わこう村 和光保育園園長


BERD
   PAGE 1/2 次ページ

地域で子育て文化の再生を目指す
──千葉県・和光保育園の取り組み──
和光保育園(千葉県富津市)
      鈴木眞廣[社会福祉法人わこう村 和光保育園園長]

和光保育園
 子どもや親は“有能な学び手”であり、学び育つ主人公である──。
 25年以上保育に携わってきた和光保育園の鈴木眞廣 (まひろ) 園長はいう。
 地域社会と連携しながら独自の保育を行う鈴木園長に現在の子育て文化の在り方とこれからの方向性をうかがった。
子どもたちの好奇心を引き出す自由な空間
 初めて訪れた人は、すぐには保育所だと思わないかもしれない。焦げ茶色の木の壁、漆喰の白壁─暖かみのある平屋造りの日本家屋が、千葉県富津市「和光保育園」の園舎だ。
 中に入れば、保育室と園庭とをつなぐ、日当たりのいい広々とした縁側。あちこちで、子どもたちが思い思いに遊ぶ姿が見える。「午前中は、とにかくおなかが空くまで好きに遊ぶ時間なんです」と、鈴木眞廣園長が説明する。
 別名を「わこう村」。地域社会と連携しながらの独自の保育が注目を集める同保育園だが、その2代目である鈴木園長は、当初から現在のような姿を思い描いていたわけではないという。「見えてきた課題を、一つずつ解決してきたらこうなったという感じですね」。
 そもそもの出発点は、鈴木園長がまだ副園長の時代、25年前にさかのぼる。寺に併設された保育所ということもあり、当時の同園は、「しつけ」が第一義。「和光に通った子どもは行儀がいい」という評判もあったという。
 しかし、そのとき気になったのは、子どもたちの「子どもらしくないこと」だった。大人の指示や許可なしには、自分たちで遊び出せない。たびたび「次は何をするの」と聞きに来る……。そんな状況を変えたくて始めたのが、現在の「午前中は自由に遊ぶ」という試みだった。
 「週単位できっちりとカリキュラムを組んだ“設定遊び”の時間よりも、外で自由に遊ぶときの方が子どもたちはずっと生き生きしている。それなら、そうした “子どもの目が輝く時間”をもっと増やそうと思ったのです」
 「自由に」とは、「放りっぱなし」ということではない。それまでカリキュラムの中に組み込んでいた、季節の行事や伝統的な遊びも、形を変えて取り入れた。「みんなで一斉にやる」のではなく、子どもから生まれ出てくるものをまずは大切にしながらも、保育者から提供するものもあり、興味を持った子がそこに集まってくる、というやり方だ。
 「現在では、運動会や遠足の内容も、できることは子どもたちが中心になって決めています。子どもを、大人が世話しないといけない、未熟な存在と見るのか、サポートさえすれば自ら育つ力を持っている存在と見るのかで、保育の在り方は大きく分かれてくる。子どもは“有能な学び手”であり、“学び育つ主人公”です。彼らがいろいろなことに興味を持てる環境をつくることが、私たちの役割なのだと思っています」。鈴木園長はそう語る。

積み上げられた保護者との共同関係

 もちろん、こうした方針の切り替えが、当初からスムーズにいったわけではない。
 課題の一つは、「しつけの和光保育園」を期待していた保護者との「ずれ」だった。「そこを理解してもらわなくては本当の変化は起こせない」と、「園だより」や「クラスだより」を充実させ、子どもたちの園での様子を努めて紹介するなど、「伝える」工夫を積み重ねていったという。
 一方、園内部でも、保育者からの戸惑いの声が上がった。クラスごとでの行動時間が少なくなったために、「自分のクラスの子どもの様子が分からない」というのだ。
 「これについては話し合いの結果、担任という枠にとらわれずに全員で子どもを見て、こまめに情報を交換し合おうということになりました。今では、トイレが『和光の大人』たち(和光では先生をこう呼ぶ)の情報交換の場になって『第二職員室』と呼ばれています」。
 この発想の転換が、次の変化にもつながった。担任1人で責任を抱え込む形から、保育者それぞれの個性や特技を生かし、補い合いながら保育をしていこう、という関係性へ。「さらにそこから、保育者にできないことでも、保護者の中にはできる人がいるはず。“参観”ではなく“参加”してもらえば、もっと幅のある豊かな活動ができるのでは、という発想が出てきたのです」。
 今では、バザーなどのイベント運営や親子文庫の管理、保護者通信の作成など、さまざまな場面に保護者が登場し、関わる。園庭にある遊具や水遊び場など、父親たちの手作りによる設備も多い。保護者同士のつながりも強まり、「子どもが卒園した後も、ここでの人間関係が支えになった」という声が聞こえてくるようにもなった。
 参観から参加、そしてさらに“参画”へ。保育の場を共につくり上げる“共同”の関係が、そこに生まれつつある。
   PAGE 1/2 次ページ
研究者(BERD)TOPへ戻る 2008年度バックナンバーへ戻る