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幼児期の子育てと保護者の実態
──保護者を対象にした調査結果から──
木村治生[Benesse教育研究開発センター教育調査室長]
家庭の教育力は向上したのか、それとも低下したのか。ここでは、保護者を対象にした調査結果に基づいて、子育ての状況や保護者の意識を把握する。
さらに、現在では、格差の拡大という新たな問題が幼児期の家庭教育にも生まれている。保護者の影響力が強まる状況にあって、格差の是正の視座が子育て支援に欠かせない。
このような背景での幼児期の子育てと保護者の実態について報告する。
さらに、現在では、格差の拡大という新たな問題が幼児期の家庭教育にも生まれている。保護者の影響力が強まる状況にあって、格差の是正の視座が子育て支援に欠かせない。
このような背景での幼児期の子育てと保護者の実態について報告する。
はじめに
家庭の教育力は高まっているのだろうか。それとも低下したのだろうか。
小・中学生の保護者に「『家庭の教育力が低下している』と感じるか」をたずねたところ、4人に3人は「感じる」と回答した*1。児童虐待や子どもを放置した結果による事故などが報道されると、そのようなケースは一部でも、全体として家庭教育の不十分さが語られる。また、若者による凶悪事件が起こると、「家庭でどんなしつけをしていたのか」ということが問題になる。こうしたことから、家庭の教育力低下は、広く共有された認識になっているようだ。
しかしながら、広田照幸は、それが誤認だと指摘する*2。一般的に、高度経済成長期以後は、子育てに対する家庭の責任が重くなり、保護者は教育熱心になったという。同様に、本田由紀も、教育にエネルギーを注ぎすぎるあまり、葛藤や悩みを抱える母親が多いことを示している*3。中学受験率の上昇などを目の当たりにすると、子どもの教育に心を砕き、投資を惜しまない保護者が増えているという認識も正しいように思える。
それでは、実際の保護者の意識や行動は、どのように変化しているのだろうか。本稿では、幼児の保護者のデータに基づいて、その点を考えていきたい。さらに、変化の結果として生じている子育ての課題についても、あわせて検討していこうと思う。
小・中学生の保護者に「『家庭の教育力が低下している』と感じるか」をたずねたところ、4人に3人は「感じる」と回答した*1。児童虐待や子どもを放置した結果による事故などが報道されると、そのようなケースは一部でも、全体として家庭教育の不十分さが語られる。また、若者による凶悪事件が起こると、「家庭でどんなしつけをしていたのか」ということが問題になる。こうしたことから、家庭の教育力低下は、広く共有された認識になっているようだ。
しかしながら、広田照幸は、それが誤認だと指摘する*2。一般的に、高度経済成長期以後は、子育てに対する家庭の責任が重くなり、保護者は教育熱心になったという。同様に、本田由紀も、教育にエネルギーを注ぎすぎるあまり、葛藤や悩みを抱える母親が多いことを示している*3。中学受験率の上昇などを目の当たりにすると、子どもの教育に心を砕き、投資を惜しまない保護者が増えているという認識も正しいように思える。
それでは、実際の保護者の意識や行動は、どのように変化しているのだろうか。本稿では、幼児の保護者のデータに基づいて、その点を考えていきたい。さらに、変化の結果として生じている子育ての課題についても、あわせて検討していこうと思う。
- *1 Benesse教育研究開発センター・朝日新聞社「学校教育に対する保護者の意識調査2008」。全国の小2生、小5生、中2生をもつ保護者5,399名を対象に、学校通し(自宅での記入)によって実施。本文中に示した比率は、「とても感じる」と「やや感じる」と回答した合計。
- *2 広田照幸『日本人のしつけは衰退したか〜「教育する家族」のゆくえ〜』講談社/1999年。
- *3 本田由紀『「家庭教育」の隘路〜子育てに強迫される母親たち〜』勁草書房 /2008年。
肯定感情も否定感情もあわせ持つ母親
それでは最初に、子育てに対する意識を確認しよう。図表1は、0歳6か月から6歳11か月の子どもを持つ母親に対して、子育てをどのように捉えているかをたずねたものだ*4。ここからは、主に次のようなことが分かる。
第一に、「子どもがかわいくてたまらないと思う」「子どもを育てるのは楽しくて幸せなことだと思う」など、子育てを通して得られる肯定的感情をほとんどの母親が感じている。また、約8割の母親は、「子育てによって自分も成長していると感じる」「自分の子どもは結構うまく育っていると思う」という項目を肯定しており、子どもも自分も成長しているという実感を持っている。そうした肯定感情を全員が持っているわけではないことには配慮する必要があるが、概ね子育てがうまくいっている様子が見てとれる。
しかしながら、第二に、「子どもが将来うまく育っていくかどうか心配になる」「子どものことでどうしたらよいか分からなくなる」といった不安や、「子どもがわずらわしくていらいらしてしまう」「子どもに八つ当たりしたくなる」といった苛立ちも、約6割の母親が感じている。否定的な感情についての項目も、決して低い数値ではない。
さらに、この調査では5年前に実施した調査と比較して、肯定感情も否定感情も共に数値が高まったことが報告されている*5。両方が高まったのは、子どもに対する母親の思いが強まった結果なのではないだろうか。教育不安の高まりや子育てを支援する担い手の不足によって、母親は「自分が何とかしなければ」という意識を持つようになった。そのことが、子どもへの愛着や成長の実感につながると共に、不安や苛立ちにも結びついているのではないだろうか。
第一に、「子どもがかわいくてたまらないと思う」「子どもを育てるのは楽しくて幸せなことだと思う」など、子育てを通して得られる肯定的感情をほとんどの母親が感じている。また、約8割の母親は、「子育てによって自分も成長していると感じる」「自分の子どもは結構うまく育っていると思う」という項目を肯定しており、子どもも自分も成長しているという実感を持っている。そうした肯定感情を全員が持っているわけではないことには配慮する必要があるが、概ね子育てがうまくいっている様子が見てとれる。
しかしながら、第二に、「子どもが将来うまく育っていくかどうか心配になる」「子どものことでどうしたらよいか分からなくなる」といった不安や、「子どもがわずらわしくていらいらしてしまう」「子どもに八つ当たりしたくなる」といった苛立ちも、約6割の母親が感じている。否定的な感情についての項目も、決して低い数値ではない。
さらに、この調査では5年前に実施した調査と比較して、肯定感情も否定感情も共に数値が高まったことが報告されている*5。両方が高まったのは、子どもに対する母親の思いが強まった結果なのではないだろうか。教育不安の高まりや子育てを支援する担い手の不足によって、母親は「自分が何とかしなければ」という意識を持つようになった。そのことが、子どもへの愛着や成長の実感につながると共に、不安や苛立ちにも結びついているのではないだろうか。
![図表[1]母親の子育て意識](img/kimura_fig01.gif)
- *4 Benesse教育研究開発センター「第3回幼児の生活アンケート(国内調査)」2005年実施。調査は郵送法で実施。2005年調査は首都圏の0歳6か月〜6歳就学前の乳幼児を持つ2,980名(配布数7,200通、回収率41.4%)の母親が対象。
- *5 上記調査の報告書(2006年刊行)PP.86〜87参照。
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