Between 2003.01・02
深化するFD

【第4回】 サービスの受け手の視点を生かす学生参画型のFD活動

 

矢内 秋生武蔵野女子大学教授
ガイダンス教育研究会会員
矢内 秋生

 
岡山大学

 学生が大学のFD組織の中心的メンバーとして参加するという、ユニークな試みを取材した。そこで見えてきたのは、学生の声こそ大事にしたいと考える大学側の姿勢だ。さらにそこに参加する学生と教員のボランティア精神が活動の大きな支えとなっていた。



五つのワーキンググループに分かれて活動

 岡山大学には「学生・教員FD検討会」というFD活動を推進する組織がある。この検討会は2001年度に正式に発足し、今年度で2年目を迎える。1年目の試行錯誤の期間にも、学生の参加意識を高めるために「授業評価アンケート実施」に関するアンケートを実施したり、「わかりにくい」という学生の声を反映して全学教養科目のシラバスを改善したりするなど具体的な成果が見えはじめている。
 この検討会の学生メンバーは、各学部から推薦された学生が計26人、さらに校友会や生協といった学内の関係団体から推薦された学生が4人、他に設立当初からかかわってきた学生なども加わり、総勢35人になる。これに約15人の教員メンバーが加わっている。
 現在は授業評価、シラバス、新授業科目提案、勉学環境、II部問題といった五つのテーマのワーキンググループに分かれて活動している。
 教養教育棟の教員研究室フロアの一角に、同検討会のために設けられた専用の部屋がある。昼休み時間にその部屋を覗いてみた。複数のパソコン、テーブル、書架などがある。
 一つのテーブルでは5人の学生が集まって食事をしながら歓談していた。一見するとどこにでもあるサークル活動の光景のように映る。尋ねると新授業科目提案のワーキンググループで、授業内容のプランを練っているという。そのプランをそっとのぞいてみた。「社会とお金を考えるための学内自主演習」という科目を想定しての授業プランだった。
 「お金を使う」という行為は、現代社会の常識で自明の理のように思われているが、近年はICカードやインターネットを使った電子マネーなど新しい仕組みが増えている。そしてこのような仕組みを知ることこそ、学生たちが大学で学びたいと思っている重要なテーマの一つであることに気づかされた。従来の学問体系から発想する教員主導の授業デザインと違ったニーズがそこにはある。ちなみにタイムスケジュール等の制約から現在は「学内自主演習」として構想中であるが、これらの科目は近い将来、正式科目化が検討されているという。遅れて担当教員も駆けつけ、議論はさらに白熱していった。


写真
橋本 勝 助教授



FD専門委員会が検討会の活動をバックアップ

 このように順調に動き出している「学生・教員FD検討会」であるが、ここにいたるまでには、教員側が「学生を大学の構成員として大学改革にもっと参画させるべき」という柔軟な発想を持って取り組んできたことや、同大学の教育開発センターにあるFD専門委員会が、この検討会の活動を教員組織としてバックアップしてきたことなど、環境が整っていたことも見逃せない。同検討会やFD専門委員会が出した提案は教学担当の副学長を座長とする教育実施協議会等を通して、全学的なFDの検討事項としてさらに検討される(図表)。同委員会の副委員長の橋本勝助教授は、検討会発足のいきさつについて、「2000年度の大学教育に関する全学シンポジウムの実行委員に学生の参加を呼びかけたことがきっかけだった」と語る。
 参集した学生4人にFD専門委員会の教員3人が加わり、シンポジウムの企画が練られた。話し合いを進めた結果、当時、教養教育として行われていた「総合科目」の在り方をテーマとし、教員と学生の両方の視点で総合的に討論するという内容に落ち着いた。やがて学生たちは報告に向けて独自にアンケートを取るなど活発に準備を重ね、シンポジウムは例年にないほどおおいに盛り上がり、実りあるものになったという。その後の反省会で学生側から、単なる一過性のイベントとして終わらせるのではなく、学生の意見をもっと広範囲に取り上げながら、恒常的に活動できる組織をつくってほしいという要望が出され、それが「学生・教員FD検討会」の発足につながっていく。
「実はFD専門委員会としても、こうした声が学生自身から出てくることを期待して、シンポジウムの実行委員に学生を加えたのです」と橋本助教授は打ち明ける。このような経緯から「学生も大学のFD活動に参画する」という姿は、教員側の仕掛けに、問題意識を持つ学生が呼応したものといえる。
 橋本助教授は検討会の活動の特徴として次の3点をあげる。1. 学生委員が学部などから公式に推薦されていること 2. 検討会の審議結果は大学の公的文書として扱われ、その内容についても大学は可能な限り尊重すること 3. 大学は活動にかかる物的支援をすること。「この検討会における教員はコーディネーターとしてサポート役に徹します。活動はあくまでも学生の自主性を尊重する形で進めます」と語る。
 検討会の全体会も1カ月に1回程度開催され、各ワーキンググループ等からの提案を協議する。ちなみに、全体会の議事運営は大学事務局がサポートし、職員が書記として陪席して議論の経緯や結果を議事録としてまとめる。
 同検討会の委員長を務める尾関優さん(工学部2年生)に参加したきっかけを尋ねると、最初は大学の掲示板をもっと見やすくしてほしいという意見を述べたくて入ったのだという。しかし検討会に参加してから、ほかにもさまざまな問題が目に付くようになり、今では大学に要望したいことは数多くあるという。とはいっても彼女に学生代表という気負いは感じられず、楽しんで活動をしているように見えるのも、大学が一人ひとりの意見を真摯に受け止めようとしているからかもしれない。実際、彼女が所属している勉学環境ワーキンググループからの提案で「自転車置き場の改善」などが実現に向けて動き出しており、懸案の掲示板の改良についても具体案を煮詰めていくとのことである。


図表



授業評価アンケートも学生の視点から改善

 検討会の活動が始まって2年目、学生からの提案によって、具体的に何が変わったのだろうか。例えば、授業に関連したことでは、シラバスの書式が改良され、見やすく、わかりやすくなったことを橋本助教授はあげた。「教養科目版のシラバスは学生の要望をすべて採用した形式に改善されました。教員側も学生からの意見によって、使う側の視点に立って、はじめて『わかりにくい』ということに気づかされました」。ただ、シラバスの中身については学生側から、「そこまで学生が踏み込んでもいいのか」というとまどいの声も多かったため、現在は書式のみの改善にとどまっているという。
「授業評価のアンケート調査」に関しても見直しを行った。授業改善を目的とした学生による授業評価は各地の大学で広く行われるようになっている。同大学でも約20項目の調査を98年度から全学的に実施してきた。しかし、各教員に協力を要請する形式であったために、全体の授業の約3分の2は未実施の状況が慢性化するようになり、学生の間からは「回答したい授業ほど実施されない」というような不満の声があがるようになったという。
 そこで、FD専門委員会は、質問を7項目に絞って回答する負担を減らす一方で、全科目を対象にして学生が自主投票する形式に改めたが、それでも回収率が上がらず、対応に苦慮していた。そのようなときに発足した検討会は、「なぜ学生が授業評価に非協力的だったのか」「そもそも学生は授業評価アンケートをどう受け止めているか」等を明らかにしようと、「授業評価アンケート実施」に関するアンケートを実施した。
 その結果、02年度からは最終講義時または最終試験時に一定の記入時間を確保したうえで、当該授業(試験)終了時に提出するだけでなく、自由記述形式の用紙は思い立ったときにいつでも投函できるように回収ボックスを常時設置し、その数も大幅に増やすなどの方策が採られることとなった。キャンパス内を歩くと、あちらこちらに授業評価アンケートの回答シートと回収ボックスが置かれていることに気づく。現行の方法に至るまで、常により良い方法を学生とともに探り続けてきた同大学の姿勢は、敬服に値する。



必要なのは学生と教職員の「融和」という図式

 同検討会の前委員長である吉賀啓記君(経済学部4年生)は、入学してくる学生のための活動にも余念がない。
 総合大学の場合、学部を超えた情報は伝わりにくい。例えば、学部を超えて受講できる共通選択科目については、担当教員の所属する学部の授業概要にしか詳しく紹介されていないケースがある。
「共通選択科目の選択の仕方については、わかりにくい部分が多くあります。例えば受講希望が多くて抽選となる科目への申し込み方法や、他学部で開講されている共通選択科目の情報の探し方などです」と吉賀君。自分自身戸惑うことが多かったため、新入生へのガイダンスが必要と考え、大学側に提案。02年4月の新入生オリエンテーションの一環として実行した。当初はどれだけの新入生が参加するか不安だったそうだが、参加者は440人を超え、急遽、会場を増やすほどの盛況だった。まさに各学部から集まった学生たちのボランティア精神によって支えられたガイダンスといえよう。
 橋本助教授は、教員にとってもFDはボランティア活動のようなものと語る。教育業績は研究業績に比べ評価されにくい。しかし、学生の立場に立って、「授業や学習環境を改善し、教育の質を高める」ことが、結果として「学生の質を高め、大学の研究の質を高める」ことにつながってくる。それだけに、研究のための時間を削ってでも、教育に情熱を傾ける教員の存在も大きい。
 「FDとはそもそも誰のためのものなのか。例えば、『授業能力の資質向上』の第一義的目標は決して教員自身の成長ではなく、授業を受ける学生がより理解しやすく意義のある学習が可能となることのはずです」と橋本助教授はいう。
 同大学の場合、大学という空間を共に過ごしている学生と教員、事務職員が一緒になってFDに関する問題を共有し、解決していこうという姿勢からスタートしていることが、他大学と大きく異なる。
 今、必要なのは学生と教職員の「融和」という図式だ。そして、その成功のカギはボランティア精神に富む学生と、教育・学習環境の質を高めることに情熱を傾ける教員という「人を得た」ことである。他の大学で学生参加の形態だけを取り入れても、運営のノウハウはそう簡単に取り入れられるものではない。FDは、組織づくりも重要であるが、それ以上に「人を得ることの重要性」を再確認した。


写真
吉賀啓記君と尾関優さん



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