| 新卒派遣 大学と職業をつなぐ新たな仕組み |
| 就職難はなぜ生じるのか |
ある民間企業の「大卒求人倍率調査」によると、2003年度卒の求人倍率は1.35。求人数は58万4千人で、ここ10年では2番目に多い。だが、求人倍率の回復は期待されたほど進んでいない気もする。なぜか。大卒者が増加し就職希望者数も増えているからだ。04年度春に卒業予定の大学生の就職希望者数は43万4千人。例えば93年は61万7千人の求人に対して就職希望者は32万3千人だった。大学側が若年人口の減少で学生を確保しようとすればするほど、結果として就職希望者が増加し、就職難も生じやすいという、マイナスの因果関係が発生している。問題は景気の低迷という需要側の要因だけにあるのではない。
しかし別の意味で、企業の需要構造も見えにくくなっている。私見だが、今後景気が回復しても新卒採用の需要は大きく回復しないだろう。企業の採用に対する考え方が変わってきたからだ。新卒にも即戦力が期待されるなどといわれるが、問題は即戦力の意味である。高度な専門的知識・技能を必要とする業務であれば、コアの業務は中途採用者が担うことになるだろう。新卒の即戦力とは例えば、ビジネスマナーができておりOA技能等の基礎的能力が備わっているという意味ではないか。もっとも、この部分を正社員が担うか否かは別の問題である。
加えて大卒就職者の3割が就職後3年以内に辞めるという事実は、企業にとっても頭痛の種である。正社員だからミスマッチが少ないというのは幻想なのかもしれない。意中の企業に正社員として採用される可能性自体が低くなっているからだ。企業にとって正社員として抱え込むリスクは大きくなっている。人件費の削減という狙いもあるが、ミスマッチを減らしたいという思いから、外部からは見えにくい新卒市場が登場している。その一つが新卒派遣という形態である。例えば事務職など、新卒に対する求人が減っているかに見える領域がある。しかし、その裏側には、派遣社員の増加というカラクリがある。 |
| 新卒派遣とは何か |
新卒派遣とは「就職を控えた大学生らを派遣会社が派遣社員として登録、ビジネスマナーや希望する職種の基礎知識などを身につけさせた上で、4月の採用期に利用企業に派遣する形態」(01年3月26日付 日本経済新聞夕刊)である。新卒派遣に大手派遣会社が参入したのは96年頃である。折しも女子の就職が超氷河期といわれた時期であり、女性をターゲットに開始したビジネスといってもよい。おもな派遣先は事務職である。事務職への需要が姿を消したわけではなかった。
当初の派遣規模は小さかったが、昨今は急速に拡大してきている。新卒派遣を千人超の規模にする会社も出てきた。全体についての正確な規模はわからないが、少なくとも数千人規模には達していると考えられる。これは、00年に紹介予定派遣(派遣スタッフとして短期間働いた後、派遣先と合意すれば正社員に雇用される制度で、テンプ・トゥ・パーム※とも呼ばれる)が解禁になったことも追い風となっている。地域的には、まだ東京や大阪など大都市圏が中心である。 |
| ※Temp to Perm つまりTemporary to Permanent(正規雇用を前提とした臨時雇用=紹介予定派遣)のこと。 |
| 仕組みの概略はこうだ。大学生は通常の就職活動と同様に在学中に派遣会社の説明会に出席し、選考試験を経て登録される。登録されると在学中に派遣会社において一定の研修を受け、卒業と同時に派遣社員として仕事を開始する。派遣社員として就業中は、派遣会社がカウンセリングなどで相談に乗る。その後は、そのまま派遣社員を続ける場合、正社員として採用される場合、転職する場合に分かれる。派遣会社によっては、派遣後の正社員化比率が7割〜8割というところもあるという。 |
| 未就職者の駆け込み寺から就職先候補の一選択肢に |
新卒派遣に対しては、就職活動に失敗した者の駆け込み寺というイメージがまだ強いかもしれない。確かにその側面はある。だが、学生の認識は徐々に変わりつつある。ある派遣会社の場合、応募者のピークは三つの時期に分かれるという。他の一般企業と同様に4年生の春先組、公務員試験や教員採用試験などに不合格になって方向転換をする秋口組、そして就職活動に失敗してやむなくという年明け組である。一般の就職活動と同時並行である者や、内定を蹴ってという者もいる。
また、応募者の多くは現在でも女性であるが、営業・販売職の派遣も解禁になったことを受けて、男性の応募者も増えつつある。営業や経理、人事・総務、SE、貿易関係といった領域では男性に対する需要があり、派遣会社も積極的に採用したいと考えている。だが、男性は女性と比べて派遣に対するマイナスイメージが強く、まだ十分な応募者がないという。
派遣会社の登録を得るための選考は通常、2次あるいは3次選考まである。どの段階で筆記試験や面接があるかは企業によって異なるが、一般企業の採用試験をイメージしてもらえばよい。すなわち、一般常識テストや適性(性格)試験と面接の組み合わせで登録の採否が決まる。小論文を課すところもある。基礎学力+コミュニケーション能力+希望職種がチェックポイントだが、就労意欲なども問われる。人物重視はいうまでもない。
希望する職種は大事である。なぜならば、派遣先の枠のない職種を希望する場合には、いくら能力的に優秀でも派遣できないからである。その意味で登録は、派遣会社が持っている職種の枠と能力の双方で決まる。なお、数百の募集に対して1万人を超える応募者がある派遣会社もある。新卒の場合、派遣だからといって自動的に登録というケースは少ないのである。
登録が決まると学生は研修を受けることになる。業界では、派遣社員は専門的な知識、技術、経験を生かして働くという労働者派遣法の理念に照らして、実務経験のない新卒者に対して研修を施している。無料のところもあれば10万円弱というところもある。研修の密度はかなり濃い。3カ月間で150時間というところもある。研修内容は派遣先の職種によって異なる。例えば事務系職種の場合には、OA研修などがコアとなっているが、最も力を入れるのはビジネス研修である。社会人として働く心得やマナーなどを学ばせる。技術者派遣の場合には、かなり徹底したIT研修も行われるという。派遣先の企業における評価が派遣会社の存亡にもかかわるため、各派遣会社とも研修には余念がない。 |
| 企業にとってのメリット学生にとってのメリット |
新卒派遣のメリットはどこにあるのだろうか。企業にとっては、欲しい人材を欲しい時期に柔軟に採用できる、派遣会社の選考試験や採用後の研修を経ておりミスマッチの可能性が低い、中途採用に比べると自社の環境になじみやすい、正社員として雇用した際のリスクや採用・研修の手間・費用を含めたコストを削減できる、といった点を挙げることができる。人事部自体をアウトソースする時代である。
学生にとってはどうか。まず、就職情報過多の時代にあって、派遣先の実態を踏まえたリアリティのあるアドバイス、そして研修等のサポート機能があるということである。同じ事務職一つとっても、会社によって内容は異なり、それは通常の就職活動からは見えにくい。また、就社から就職へのシフトといわれるものの、職種別の採用がまだ少ない中で、やりたい仕事内容が明確な学生にとっては、希望に適った仕事に出合える可能性が高い。就職活動が早期化そして短期決戦化する中で、じっくり配属先を選ぶことができる。
新卒派遣についての調査研究自体がまだほとんどないために確証はないが、入り口では派遣で採用するが将来的には正社員として雇いたいという意向の企業はあるし、学生もできれば正社員として働きたいという意思がある。その意味では、その先をにらんだお試し採用とお試し就職と呼んでもいいのかもしれない。新卒派遣が「社会人版インターンシップ」ともいわれるゆえんである。在学中に、雇用とは切り離されて職業観の育成という目的で行われるものを「無色のインターンシップ」とすれば、新卒派遣はそこで長期的に働く可能性も織り込んだ「有色のインターンシップ」である。
ある学生調査によれば、インターンシップについては、採用非直結型、直結型とも肯定的だが、新卒派遣については、「選択肢にない」「意中の企業に就職できない場合のやむを得ない選択肢」といった否定的な受けとめ方が多いという(02年9月3日付 朝日新聞)。 |