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広島大学高等教育研究開発センター 助教授 小方 直幸 |
| Betweenは(株)進研アドが発刊する情報誌です。 |
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| 新卒派遣の認知をめぐって |
新卒派遣に対する認知度は、(1)学生(2)企業(3)大学の順であるといわれている。最も認知の進んでいる学生でさえ、派遣は知っているが新卒派遣は知らないという者が多い。前述の調査結果にあるような否定的な見方も、十分わかった上でのNOであればよいのだが、派遣に対するイメージばかりが先行している観も否めない。
大学の就職課の認識はどうなのか。首都圏の大学を対象とした調査によれば、6割が人材ビジネス業界を「近年急速に業績を伸ばしている業界」と認識し、9割が人材ビジネス会社の求人票を受け付けている(オピニオン『月刊人材ビジネス』177号、01年)。受け付けの理由は、「人材ビジネス会社からアプローチがある」が7割と最も高いが、「就職実績がある」も4割となっており、規模は別としても新卒派遣が浸透しつつあることをうかがわせる。ただし、「学生の就職先としてよいから」は1割に満たない。この背景には、人材ビジネス業界自体の情報を十分把握できていないこともある。「新卒社員の果たす役割」「人材ビジネス業界の全体像」「実際の業務内容」については、いずれも6割以上が情報として知りたいと回答している。
もちろん、人材ビジネス業界も、大学への情報提供を行い理解を深める活動を怠っているわけではない。しかし、まだ大学側の理解が進まない、あるいは理解してもらっているのかもしれないが、学生を紹介してもらえないという状況にあるようだ。大学によっては最初から求人自体を受け付けないというところもある。
大学内部の課題もありそうだ。新卒派遣に対する理解は、大学ごとの相違というよりも、窓口になった職員の個人的な差が極めて大きいという。担当者が変われば大学側の対応が変わる場合もあるらしい。就職支援は大学が最も力を入れる学生サービスの一つだ。しかし、ダイレクトに正社員になるための支援ツールは開発できていても、多様な働き方に対する支援体制は遅れているのかもしれない。もちろん、たまたまローテーションで就職課を担当することになったという、職員配置の手法自体の課題も否定できないだろう。
他方で、認知が進めば良いとばかりもいえない。新卒派遣の歴史は10年にも満たないが、応募する学生の質は変遷しているようだ。新卒派遣が開始された90年代半ばは、職種別の採用がないため、派遣という形態ながら自身のやりたい仕事に就けるという、目的意識の明確な応募者が多かった。また、就職率がまだ一定の水準を保っていたため、未就職者になってはいけないという危機感から、就職に対する必死さがあったという。
しかし、就職できないことがある意味で常態化してしまった今、ハングリーさに欠ける学生も目立つようになったと聞く。正社員になりたい気はあるが、その一方でうまくいかない場合には、こういうご時世だから仕方がないとあきらめも早い。新卒派遣の認知が進むにつれて、派遣だったら就職が楽なのではないかという安易な学生も増えているようだ。新卒派遣への需要は増加している。派遣会社への応募者も少なくない。しかし、受け入れるキャパはあるのに派遣会社に登録が決まらない学生が多いのもまた事実である。正社員と比べて派遣業務の水準が低いとは一概にはいえないが、仮に低いとすれば、派遣業務にすら送り出せない学生が多いということになる。大学は派遣という働き方を問題視しているようでありながら、結局問題は大学教育の在り方に返ってしまう。 |
| 新卒派遣をどう見るか |
新卒派遣に対しては、現状認識そのものが十分進んでおらず、ここで結論めいたことを言える段階にはない。だが、敢えて大学の就職支援あるいは大学教育に対するインプリケーションを抽出するならば、私は以下のように考える。
(1)学卒無業の救世主?
まずは学生に対するメッセージである。現在、多くの議論が正社員か学卒無業かという1 or 0の枠の中にある。0にならないための議論、1になるための議論は多い。それはそれで悪くないのだが、正社員というカテゴリー自体が絶対的なものでなくなりつつある。正社員にも無業化予備軍はたくさんいる。正社員か否か、という区分は処遇の問題を考える上では確かに大事だ。しかし、働きがいや知識・技能の習得という点では、唯一無二の基準ではない。
学卒無業の救世主とはいわないが、20代前半の若い時期に、0.5という働き方もあることを学生は知っていてもいいのではないか。断っておくが、最初から積極的に新卒派遣を目指しなさいという意味ではない。しかし、0.5の存在を知った上での1 or 0に対する見方は、1 or 0しか知らない時の見方とは明らかに異なってくるだろうし、スタート時点としては0.5という働き方がフィットする学生もいるはずだ。
(2)就職課の終焉?
学生は通常の就職活動と同様のプロセスを経て派遣会社に登録される。だから、新卒派遣も1企業への就職である。だが、その機能面に着目するならば、従来大学が担ってきた就職支援の外部化と捉えることも可能だ。これまで、学生の就職支援は各大学の就職課の専売特許とみられていたかもしれないが、機能上の競合組織が学外に台頭しているともいえる。現時点では派遣という非常に限定的な領域での展開だが、今後の動向次第では、就職課の機能をアウトソースする大学が出てくる可能性もある。ある派遣ビジネス業のホームページに、新卒派遣は「校外の就職部」とある。
大学の就職支援の強みは、在学生に4年間接することで得られる学生理解にある。ただしそれは、就職課と学生の関係が濃密であればという前提である。他方で派遣会社の強みは、派遣先の企業や職務に精通している点と研修の充実という点にある。派遣後のミスマッチが少ないといわれるのも、学生が派遣先の仕事をよくわかった上で就職するからである。
求職者に強い大学と求人者に強い派遣会社。このように考えれば、競合関係と捉えるのではなく、二人三脚で就職支援に取り組むことも可能だ。一つのヒントは、新卒派遣以外の機能にも目を向けることである。例えば、
(1)学生のタイプに応じた就職支援プログラムの企画・実施のアドバイス
(2)業界・採用支援動向の把握やカウンセリング・スキルの向上を目的とした就職課職員の研修
(3)内定をもらった学生に対する卒業前研修
などで派遣会社に協力を仰ぐことも想定し得る。
(3)面倒見の良い大学のパラドクス
派遣会社への登録プロセスで行われる面接や、採用後の研修では、学生に対して厳しく対応することも少なくないという。時には学生を叱ることもあり、叱られた経験が少ないため動揺する者もいるようだ。自社のブランドイメージを高めるためには、できるだけ優秀な社員に育てたいし、派遣先での評判も得たい。社会人として鍛えなければ、学生にとってマイナスで、それがひいては自社にとってのマイナスに繋がる。
大学に目を転じると、学生の面倒見のいい大学が良い大学だ。この「面倒見のいい大学モデル」は、長期的視野に立ってゼロから教育訓練を施してくれる「企業内教育モデル」とは適合していたと思う。しかし職場では、自律的なキャリア選択や知識・技能の習得が期待されるようになっている。大学が学生を顧客とみなし、良かれと思って実践してきた手取り足取りの面倒見の良い就職支援は、逆に依存型の学生を増やしているのかもしれない。それは、企業世界で求められるようになっている態度・性向とは逆の方向を向いており、両者の接続を考えるとき、不適応を起こす可能性がある。
派遣会社の面倒見もいいと思う。だがそれは、必ずしも手取り足取りではない。派遣会社に登録されれば、彼ら彼女らは顧客ではなく商品である。粗悪品を出すわけにはいかない。他人からお金をいただくことの意味、ビジネスという世界の常識や厳しさも教え込む。「大学の就職課はどこまでやろうとしているのかが見えてこない」。ある派遣会社の人の言葉だ。派遣会社と同じことができる、あるいはしなければならない、ということでは必ずしもない。でも、就職課の目的は何かをあらためて問い直してみる必要がある。
(4)働くためのミニマムリクワイアメント
コミュニケーション能力の欠如。派遣会社から見た一つの学生像である。何も難しいこと、立派なことを論理的にきちんと説明できるという意味ではないらしい。あいさつ、呼ばれた際の返事、言葉遣い、質問意図の理解、自分の意見をまとめる等々。エントリー段階で不合格となり、面接を経験していない学生が多いことにもよるだろう。また、そんなことは大学教育以前の問題という感覚もあるだろう。しかし、人材の育成を目標に据えるのであれば、大学教育を通じてコミュニケーション能力をつけさせることは大事である。相手への関心、文脈に応じた理解力と説明力、語彙力……。就職課の努力だけでは限界だ。就職課のスタッフは、それを教員に伝える義務があり、教員はその育成を授業の中に意識的に取り込んでいく責務がある。講義という授業形態も見直さざるを得ない。
安易な資格主義、専門主義に陥り、例えば英語を使う仕事がしたい、という学生も結構多い。しかしどのような仕事も、まずおのおのの職務に必要な知識・技能があることが前提となる。そのことを派遣会社の面接で初めて気づく学生も多いという。まず英語力ありきではない。情報は氾濫しているが本当に必要な情報に触れる機会は意外と少ない。即戦力やプロフェッショナル、仕事による自己実現といった美辞麗句にも同じことがいえるのかもしれない。勉強しない学生も問題だ。だが、20歳前後で仕事の世界を知り、間違いのない職業選択をしなさいというのも無理がある。正確な情報に基づかない若者へのプレッシャーの与え過ぎもまた、すぐに合わないといって辞める者を粗製濫造しているのかもしれない。
学生のための就職支援が、大学のための数合わせの就職支援になっていないだろうか。何が何でも正社員、就職率は100%。それは学生が本当に望んでいることなのだろうか。新卒派遣で働いている人たちを見ていて、ふとそんなことを感じた。 |
| ※本稿の一部は、複数の派遣会社の方へのインタビューに基づいて書かれている。協力をいただいた方にこの場を借りて感謝の意を申し上げる。 |
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