本調査の意義と今後に向けた展望
Benesse教育研究開発センター センター長 新井 健一
Benesse教育研究開発センター センター長 新井 健一
■1.メディアの変遷と子どもたち
新たなメディアの登場と子どもたちとのかかわりは、これまでも常に議論の的になってきました。今から50数年前に一般向け放送が始まったテレビは、映像情報が多くの情報量をもつことから瞬く間に家庭に浸透し、大きな影響力をもつようになりました。家庭に届くさまざまな情報は、子どもたちにも多くの影響を与え、教育への影響も常に話題となってきました。普及するにつれて、よりインパクトのある情報がかつてない速さで伝わるため、生まれた時からテレビで育った世代とそれ以前の世代とでは行動や考え方が異なり、そのことが新たな文化を生み出したと同時に、世代間ギャップも生み出しました。1980年代になると、テレビに接続するタイプの家庭用ゲーム機が登場し、テレビは見るだけのものから、相方向性をもつものとなり、役割が進化しました。そのテレビ世代も親となった現在、メディアはテレビ以外にも多様化してきています。多様なメディア環境のなかで、子どもたちは新たな文化を創り出し、そのことが新たな世代間ギャップを生み出しています。進化するメディアの環境と子どもたちとのかかわりをどう考えていくべきかが、ますます重要な課題になってきています。
■2.メディアの進化が生み出す光と影
今回の調査で主な調査対象としたパソコンと携帯電話の普及は1990年代からで、とくに注目すべき進化は、インターネット利用の普及といえます。パソコンでは1995年に「Windows95」が発売されてから普及が加速し、携帯電話では1997年にメールサービスの開始、1999年に「iモード」が開始されたことによって、ネットワーク端末としてその役割を進化させてきました。
本来、計算機であるコンピュータも、音声通話の道具である携帯電話も、ネットワークに接続されることによって、玉石混交のさまざまな情報に容易にアクセスできるようになり、わずか10数年で、こうした情報機器の向こう側にある情報量は、テレビから放映される情報をはるかに凌ぐものとなりました。情報との関係も、テレビ世代が主に受け手であったのに対し、パソコンや携帯電話の世代は受け手でもあり発信者でもあるという新たな関係が生まれ、コミュニケーションのあり方が大きく変化してきました。さらに、機能の進化とともに、使い手の行動や意識も変化してきました。今回の調査でも、携帯電話の利用機能の第1位は、小・中・高校生のいずれの学校段階でも「カメラで写真をとる」となっているように、2000年から始まったカメラ付き携帯電話は、日常的な風景を切り取って情報発信することを可能にし、携帯電話はこれまでの電話という概念から、大きく役割を拡大しました。また、絵文字を編み出したことによって、文字だけでは伝わらないニュアンスや感情を、非同期のコミュニケーションで表現することを可能にしました。
新しい世代は、かつてない情報の洪水のなかで、確実に新しいメディア環境に適応し、スイスイと泳ぎながら、新たな文化を創っているように見えます。
しかし一方で、問題がないわけではありません。パソコンや携帯電話利用の若年化は、見方を変えれば、見知らぬ街の繁華街を子どもひとりで歩かせるようなもので、安全な利用環境や情報に対する姿勢の育成などが重要となります。今回の調査で「コンピュータの発達の功罪」については、中学生、高校生ともにほぼ5割が、「コンピュータが発達すると、失われるものが多い」と回答していることは興味深い結果でした。活用しながらも、半数は課題意識をもっているということになります。
