学力格差研究の課題 まとめにかえて
耳塚 寛明 (お茶の水女子大学大学院・教授)
ここまで、学力の地域間格差、家庭的背景による格差、効果のある学校などの観点から、分析結果を示してきた。最後に、調査研究の意義、課題と格差是正方策のあり方について述べて、報告書を閉じることにしたい。
1.行政による学力格差調査
1990年代末期以降、高等教育研究者の危機感に端を発する学力低下論争が高まりを見せる中で、私たち教育社会学研究者は、学力が低下したか否かという「学力の水準問題」から「学力の格差問題」へと関心をシフトさせるようになった。その後、研究者の学力格差への関心は、さまざまな領域での社会的格差への関心の高まりとともに、メディアや世論にも共有されるところとなった。しかるに文部科学行政はこれまで、学力格差についての測定、とりわけ家庭的背景と学力の関連についての基礎的データの蒐集作業を行って来なかった。その結果、いかにして学力格差を是正するかについて、データを根拠とした方策を提示することが困難な状況に置かれたままであった。
この調査のような家庭的背景にまで踏み込んだ調査研究は、平成19年度からはじまった全国学力・学習状況調査の枠組みに取り入れられることは将来にわたってないだろう。しかし文部科学省が、新教育システム開発プログラムのひとつとして、「教育格差の発生・解消メカニズムの調査研究」を採択したことは、本格的に学力格差の測定と是正方策の検討に着手したという意味で、おそらくは歴史に残る画期的できごとだと認識している。
ただし、国あるいは都道府県等が、学力格差の現状について、定点観測を行い、格差状況を監視する仕組みを持っているわけではない。本研究の知見が明らかにしているように、家庭的背景と結びついた学力格差の大きさは、けっして無視できるものではない。その現状を踏まえたモニタリングの仕組みを整備すべきだろう。私たちが実施した調査は、複数の地域の多様な小学校を対象にしているという意味で、これまでにない知見を提供することを可能としているが、対象が小学校に限られ、また無作為標本抽出によるものではないため課題が残る。むしろ出発点として位置づけるべきと思う。
