特別リポート


 

これからの日本の教育を考える 〜PISA2006の結果公表を受けて〜

Benesse教育研究開発センター 鎌田恵太郎 (2007/12/12更新)

 00年、03年に続いて06年に3回目の教育に関する国際調査「PISA」(OECD生徒の学習到達度調査)(*文部科学省へ)が行われ、今年12月4日にその結果が公表されました。日本の特徴は、
    1. 読解力はOECD平均に近く、数学的リテラシーは先頭集団から第2集団に後退した。
    2. 3つの試験すべてで上位層が減少し、下位層が増加している。特に数学的リテラシーの
      落ち込みが大きい。
    3. 学習したことの将来への役立ち感が低い。
 などが挙げられます。
 この結果をみると日本の子どもの力の低下に歯止めがかかったとは言えません。しかし子どものどのような力に問題があるかをはっきりさせないまま「学力低下」という一言でくくって議論をしてしまうと問題の本質を見失います。PISAは15歳のどんな力を測っているのでしょうか。


 
参考資料: ※クリックすると別窓が立ち上がります。
学習到達度調査(PISA2006)TOP10




 これまで日本で行われてきた教科教育は簡単にいうと「知識を分析して構造化し、効率的に伝達することによる基礎・基本の知識の習得」と「その基礎・基本の知識をベースにして、より論理的な文章を深く読んで考察し解答を導き出す力の育成」の2つに分けることができます。ベネッセ教育研究開発センターが過去に行ったテストでは前者は指導要領で削除になった項目以外は低下しておらず、後者が低下しています。特に国語で内容を深く読解しないと解答できない設問や、数学の文章題、理科の物理・生物分野の応用問題は、すでに00年の調査時点で大幅な下落が見られていました。中には94年の調査時点と比較して6年間に10%も正解率が下がったものもあります。高校や大学の先生が感じた力の低下は主にこの部分だったと考えることができます。この点に関して言えば教科書をわかりやすくした結果子どもが論理的な文章を読む機会を失ったことも影響していると思います。

 一方PISAは、「社会に出てから必要なコミュニケーションの基礎となる力」を測っています。これは様々な現代社会や日常のテーマ・課題の中で与えられた多様な素材を読み解き、自分がもっている知識・経験を使って考え自分の意見を相手に論理的に伝える事ができる力です。題材や必要な知識・経験が数学的であれば数学的リテラシー、科学的であれば科学的リテラシーと分類されています。そして出題には次の3つの特徴があります。

 まず一つ目はテーマの多様性です。現代社会や日常の文脈の中で問われますから、例えば科学的リテラシーでは必然的に教科書では扱いの少ない環境・生命科学・テクノロジーなども幅広く扱われることになります。二つ目はテキストの多様性です。与えられる素材は一般的な文章だけでなく、マニュアル・ちらしなどの文章や図・表・資料などの文章でないテキストも合わせて情報が与えられます。そして最後は答の多様性です。読み取った内容に自分の知識や経験を加味して考えることによって、各自の意見を構築しそれを相手に論理的に伝えなければならない設問も含まれます。その場合、各人の意見とその理由の論理的な一致が求められ、当然答は一つではありません。これがPISAで測定している能力とその問題の特徴です。

 日本の子どもは教科書の知識の定着が比較的しっかりしているため救われている面がありますが、諸外国と比較するとこのような問題で測定された能力値はあまり高くありません。それを克服するために実は現行の指導要領下では総合的な学習の時間がその役割を果たすはずでした。しかし残念ながらねらいが徹底されず、一部の先進的な取り組みを除くと十分機能しなかったのが実情です。次の教育課程ではその点を補うために、言語力という名称ですべての教科にわたってコミュニケーションの基礎となる力を育成しようとしています。ただいくら授業時間を増やすといっても、教える知識の量を再び増やした上で新たに言語力を育成するというのは容易なことではありません。次の指導要領を成功させるためには、これまでの日本の伝統的な学習理論と、PISAに代表される欧州の学習理論の違いを知った上で両者の良いところをうまく取り入れる必要があります。


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