絵や造形の教室はたくさんあって、教え方はさまざまです。絵を描くのが主体のところもあれば、造形と体操を組み合わせたり、物語を聞かせてから絵の制作に取り掛からせたり、戸外に連れ出して絵を描かせたりするところもあります。また集団で制作したり自由に描かせたりするところ、必ず課題を与えるところもあります。
基本は集中させて制作させるところにありますが、これが難しい。
でも、良い先生は必ず子どもに集中して取り組ませています。
今回はアーティストが主宰する造形教室をご紹介します。
今回取材したのは、東京都世田谷区にある「深沢アート研究所」。美術家の山添joseph勇さんと、植物や環境をテーマにするアーティストのカブさんが主宰しています。
おしゃれな街、自由が丘からバスで10分ほど、駒沢オリンピック公園に近い小さな商店街の通りにひっそりと「深沢アート研究所」はありました。
奥まったドアを開けると、そこは高い天井と広いロフト風の空間。明るい白のアトリエです。棚にはトンカチ、画材、ペットボトルや缶、金具や糸やテープ、色とりどりの紙やモールなどがぎっしり積みあがっています。なんだかワクワクしてくるような場所です。
いったいここで何が始まるのでしょうか。
「造形活動のきっかけになるアイデアは企画します。それは毎回違うので、子どもたちは今日何を創作するのか知らないで来ます。創(つく)りながらアドバイスしたり手助けしたりします。一人ひとりをじっくり指導したいので8人までの少人数です」
ソフトな毛糸の帽子をかぶった山添さんは優しそうですが、アーティストとしての経験に裏打ちされた教え方に自信がありそうです。
その日の課題は「生まれるところから書いて」というもの。うむ。
使うのは墨に筆。筒に巻いた半紙を半分に切ってつないだ巻紙が渡されました。
山添さんにとってもこの課題は初めて。子どもたちにとっても初めての経験です。
この日の生徒は小学生たち。生まれて10年経つか経たない子たちのいわば自分史。どんな作品ができるのでしょうか。時間は夕方5時から6時50分の約2時間です。窓の外はどんどん暗くなっていきます。
丁寧に墨をすってやおら描きはじめる子、考えあぐねている子もいます。わっと泣きだした子もいました。初めての習字道具の扱いに困惑したのです。男の子6人、女の子2人。女の子のひとりは出産の日のあかちゃんから描きはじめ、もうひとりは家族に囲まれたあかちゃんを描きはじめました。川から流れてきた桃を描きはじめた男の子もいます。桃太郎生誕と自分の誕生を重ね合わせたのでしょうか。
泣きだした子は山添さんに励まされ、しばらくして猛烈な勢いで、紙からはみだし墨がしたたるのもかまわずに魔女の物語を描きはじめました。思慮深そうな男の子は文字で年代記を書きはじめたのです。静かな時間が流れます。
そうやって2時間ほど、子どもたちは「紙が足りなくなった」とか「この年、何があったのか」と尋ねたり、ちょっとおしゃべりしたりしましたが、大きなテーブルを囲んでまわりの子が何を創っているのか見えるのに、それに気をとられることなく「自分の創作」に没頭したのです。
出生の日から描いた個性的な女の子は、延々と巻紙を貼り足してもらって100歳まで描きました。家族に囲まれたあかちゃんを描いた女の子は、毎年成長する子と家族をまるで記念写真のように描きました。
年代記の男の子はシドニー五輪やゆとり教育までカブさんにパソコンで調べてもらって律儀に書いていきました。
終わったら、後片付けをして、お茶とポッキー1本のおやつ。
集中したあとの穏やかな時間で子どもたちは言葉少なです。外にはお迎えのお母さんが来ていて、作品を持ち帰りました。
「じっくりと自分の制作に集中できる時間を楽しんでくれればいいんです。そのためのさりげない声かけがとても重要です」
それから山添さんはこう付け加えました。
「造形教室に来ていてよかったなと、いつか子どもたちが思えるような場所にしたいです」
今は子どもたちに創造させることが自分の制作活動の主要部分になっていて、毎回趣向の違うアイデアがわいてくると、楽しそうに話してくれたのです。