東京都教育委員会は、秋田・高知・大分の各県教委と協定を結び、それぞれの県が実施する教員採用試験の受験者の「第2志望」に加えてもらい、そこから教員を採用する制度を始めました。なぜ、こんな制度が必要だったのでしょうか。背景を追っていくと、単に先生の数の確保というだけにとどまらない、深刻な課題が透けて見えます。
文部科学省の調査から、ここ10年間の全国的な公立学校の教員採用試験の推移を見てみると、2000(平成12)年度には13.3倍あった倍率が、09(同21)年度は6.1倍にまで減少しています。それでも6倍台ですから、大変な競争率です。ただし、今回協定を結んだ都県については、秋田が14.9倍、高知が11.0倍、大分が12.7倍なのに対して、東京は4.2倍です。ほかの道府県を見ても、政令市を含めた大都市圏と、それ以外では、倍率に大幅な開きがあります。
その主な原因は、今いる先生の年齢構成に偏りがあることです。一般の会社などでは「団塊世代の大量退職」が問題になりましたが、学校の場合「お客さん」は子どもです。団塊世代が就職して結婚し、その子どもである団塊ジュニア(第2次ベビーブーム世代)が「大量入学」してくれば、当然、先生も「大量採用」しなければなりません。その時に採用された世代が今後、世間とは10年ほど遅れて、大量退職していくわけです。たとえば小学校について見ると、30歳未満が11%なのに対して、今後10年の退職予備軍である50歳以上は35%と、3人に一人を占めています(07<平成19>年度、文科省調査)。
ただし、これはあくまで全国平均です。高度経済成長期は、都市部への人口集中が進んだ時期でもあります。大量退職が既に始まっている東京では、ここ数年、若い先生を大量に採用しているため、30歳未満が20%、50歳以上が37%と、20代の先生も増えてきていますが、先の3県では30歳未満が数%、50歳以上が2〜4割といった状況です。これらの県でも今後10年で大量退職時代を迎えるわけですが、小学校の先生の人数が3,000〜4,000人程度の3県に対して、東京は約2万8,000人ですから、規模が違います。しかも「大量退職」の影響で先生の半分近くが入れ替わると言われるほどですから、影響力は甚大です。
実際、東京都では、09(平成21)年度の小学校教員の採用倍率が2.6倍に落ち込みました。3倍を割ったら優秀な先生が選べない、というのが採用担当者の一致した≪経験則≫です。危機感を抱いた都教委では、10(平成22)年度の採用試験を34年ぶりに2回行ったり、地方の大学生に東京の学校を見学してもらうバスツアーを開催したりと、受験者の確保に努力しています。受験者の確保は、東京に限らず、首都圏など大都市部に共通の課題になっています。
若い先生が増えるということは、学校にとって活力源になるので、良いことのように思えます。しかし今でさえ、中堅層やベテラン層に、新人を一人前の先生に育てていく余裕がなくなり、教える技術や経験の継承が危ぶまれているのが現状です。年齢構成の極端な偏りと、その対応は、今後の「教育の質」をも左右する、大問題になっているのです。

1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。
1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。連載に「『学力』新時代〜模索する教育現場から」(時事通信社「内外教育」)など。
コメントは編集部がルールに基づき確認してから掲載します。
掲載されたコメントは、あくまでも個人の意見や考えを基にしており、内容については編集部では保証できません。
この手の記事を新聞やネットで見るたびに、いつも思うのですが
どうして自治体は採用するときに、あらかじめ対策を取らないのか
不思議でなりません。
同じ年代の人間を大量に採用すれば、普通公務員はなかなか途中で退職はしないので
30年たてばまた、同じような事が起きるに決まっています。
大量に採用すれば、全体の質が落ちるのは当然です。
そして、採用年代に当たらなかった教員志望者で、優秀で熱意のある人は
教員になりたくても枠がありません。
こんなおかしなことって、ないと思います。
もっと先を見据えた、採用計画を持ってほしいです。
上記のことも大切だと思います。
「大量採用=倍率が下がる」だけでしょうか?
今、就職をしようとしている学生や社会人が先生を敬遠している一面があると思います。
理由は想像通りです。
もっと”魅力的な仕事”となるような環境作りや意識転換が必要だと感じます。
この表現だけでは誤解を招きかねないですが、”もっと頑張れ”や批判的思考では改善する問題ではなく、これが日本の現状だと思います。
他国の教育環境はそれぞれ違うので、それには触れませんが、先生が魅力ある仕事として認識されている国を参考にするとよく分かると思います。