我が子に「自分は幸せ」と思える生活を送ってほしい!そのポイントは?【調査研究データより】

  • 育児・子育て

近年、日本はもちろん世界中で、人が幸せで充実した状態であること=「ウェルビーイング」であることの大切さが言われています。
教育の世界でも、個人や社会全体のウェルビーイングを実現するための学びあり方が各国で議論されています。ウェルビーイングの要素はいろいろありますが、その一つが、自分が幸せだとその人自身が思えていること。お子さまやご自身が「自分は幸せ」と思えるヒントになるような、最新調査研究データをご紹介します。

この記事のポイント

「今、幸せだ」と感じている子は約8割。年齢が上がると下がる傾向

自分のことを「幸せだ」「将来、幸せになるだろう」と思えることは、大人だけでなく子どもにとっても大切です。
しかも、衣食住に困らず身体が健康であるといった、誰もが「そのほうがよいに決まっている」と考えることに加えて、その子自身の考えで「自分は幸せだ」と思えていることも重要です。
良好な身体状態や生活環境は幸福感につながり、逆に、幸福感は心身に良い影響を及ぼすからです。
いま、お子様は、自分のことを幸せだと思っていそうですか?将来は幸せになれると思っているでしょうか?

ベネッセ教育総合研究所と東京大学社会科学研究所が共同で行った調査研究によると、約8割の子ども(小4~高3)が、「自分は今、幸せだ」と思っていることが分かりました。
同様に、「自分は将来、幸せになれる」と思っている割合も約8割でした。いずれも、年齢が低いほど「今が幸せ、将来は幸せ」と思う割合が高く、年齢が上がるにつれて割合が下がる傾向が見られます。

子どもの「幸せ実感」に影響する主な要因は?(1) ~子ども自身や学校生活の様子~

では、子どもが「今、幸せだ」「将来、幸せになれる」(以降、これらをまとめて「幸せ実感」と言い表します)と思えるのは、年齢以外でどのようなことが関係しているのでしょうか。調査研究結果によると、大きく分けて「(1)子ども自身や学校生活の様子」と「(2)保護者の様子・かかわり」の2つが関係しています。

まず、(1)の子ども自身や学校生活の様子について見てみましょう。

(1)-1 学校生活

学校が好きだ、授業が楽しいなどと感じていたり、尊敬できる先生がいたりすると、「幸せ実感」が高い傾向が見られます。
例えば、幸せ実感を「高群」「中群」「低群」の3群に分けたところ、「自分の学校が好きだ」と思っている子どもは、そうでない子どもに比べて「高群」の出現が多い傾向がみられました。楽しく充実した学校生活を送れることが、子どもの「幸せ実感」の向上に効果的と言えそうです。

出典:東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所「子どもの生活と学びに関する親子調査2023」結果速報
*小4~高3生の子どもの回答。子ども全体の数値は、小4~6生:中学生:高校生=1:1:1になるように重みづけを行った。
*幸せ実感は、「自分は今、幸せだ」と「自分は将来、幸せになれる」について「とてもそう思う」4点~「まったくそう思わない」1点として合算し、8~7点を「幸せ高群」、6点を「幸せ中群」、5~2点を「幸せ低群」とした。
*肯定群は学校生活についての質問に「とてもあてはまる」「まああてはまる」と回答した子ども、否定群は「あまりあてはまらない」「まったくあてはまらない」と回答した子ども。

(1)-2 友だち関係

安定した友だち関係を築くことも、「幸せ実感」を高める効果があります。
「友だちと一緒にいるのが楽しい」「悩み事を相談し合う友だちがいる」など、友だちとポジティブな関係を築いている子どもほど幸せを実感しています。
逆に、友だちとの関係に疲れている子どもは、「幸せ実感」が低い傾向にあります。もし、いま通っている学校での友だち関係に何らかの問題がある場合は、塾や地域、母校など、学校以外の場所でもよいので、楽しく過ごせる友だちがいたり、自分が心地よいと思えたりする居場所があるとよいかもしれません。

(1)-3 学びの状況

勉強が好きで、勉強の工夫をしている子どもは「幸せ実感」が高いです。
一方、学習意欲が低かったり、学習方法がわからなかったりする子どもは「幸せ実感」が低い傾向が見られます。
学習意欲を高めたり、自分に合った学習方法を見つけたりすることは、幸せ実感にもよい影響を及ぼすだけでなく、学力向上にも効果があります(*)

(1)-4 非認知能力

「自分に自信がある」「一度決めたことは最後までやり遂げる」「挑戦心をもつ」など、いわゆる非認知能力と言われる資質・能力も「幸せ実感」と関連しています。
非認知能力を高めていくことが、「幸せ実感」を向上させるために効果があると考えられます。

*東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所「子どもの生活と学びに関する親子調査2023」より

子どもの「幸せ実感」に影響する主な要因は?(2) ~保護者の様子・かかわり~

もう一つ、子どもの「幸せ実感」に関連するのが、最も身近な存在である保護者です。「幸せ実感」と特に強く関連している二つのポイントをご紹介します。

(2)-1 保護者の「幸せ実感」

保護者が幸せだと子どもの「幸せ実感」が高く、保護者が幸せでないと子どもの「幸せ実感」は低くなります。加えて、保護者の「幸せ実感」が高いと、3年後の子どもの「幸せ実感」が高く、その3年後に保護者の幸せ実感が高いという「幸せ実感スパイラル」があることも分かりました。

しかも、保護者が幸せであることは、保護者の学歴や家庭の年収が高いことよりも、子どもの「幸せ実感」に強く関係しています。子どもにとってご家庭の経済的・物質的な豊かさよりも、保護者の在り方そのものが大切であるとも言えるでしょう。

(2)-2 保護者の働きかけ

保護者が子どもに寄り添うような働きかけをしていると、子どもの「幸せ実感」が高い傾向が見られます。
たとえば、保護者が「勉強で悩んだときに相談に乗ってくれる」「結果が悪くても努力したことを認めてくれる」と答えた子どもは、そうでないと答えた子どもと比べて、「幸せ高群」が10ポイント程度高い結果が出ました。また、親とよく会話している子どもは、「幸せ実感」が高いこともわかりました。

出典:東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所「子どもの生活と学びに関する親子調査2023」
*小4~高3生の子どもの回答。子ども全体の数値は、小4~6生:中学生:高校生=1:1:1になるように重みづけを行った。
*幸せ実感は、「自分は今、幸せだ」と「自分は将来、幸せになれる」について「とてもそう思う」4点~「まったくそう思わない」1点として合算し、8~7点を「幸せ高群」、6点を「幸せ中群」、5~2点を「幸せ低群」とした。
*「結果が悪くても努力したことを認めてくれる」について:肯定群は保護者の教育的な働きかけについての質問に「とてもあてはまる」「まああてはまる」と回答した子ども、否定群は「あまりあてはまらない」「まったくあてはまらない」と回答した子ども。
*「学校での出来事」について:肯定群は母親との会話をたずねる質問に「よく話す」「ときどき話す」と回答した子ども、否定群は「あまり話さない」「まったく話さない」と回答した子ども。

これらの結果から、保護者の働きかけは、「勉強を教える」「一緒に○○する」といった直接的なかかわりである必要はなく、子どものことを共感的に受け止め反応することのほうが、子どもの幸せ実感によい影響を及ぼすと言えます。つまり、いつもすぐ隣りにいて何かをしてあげるというよりも、寄り添い、見守り、何かあったときにサポートするようなかかわりが重要です。

まとめ:寄り添うように子どもに接しつつ、自分のことも大切に

子どもの「幸せ実感」にかかわる要素はさまざま。勉強も、保護者や友だちとの関係も、子どもにとっては毎日最も身近で大切な生活の要素ばかりです。

今回の調査研究結果からは、どれか一つが抜きんでて「幸せ実感」と強いつながりがあったわけではありませんでした。また、「幸せ実感」の強さは、物質的な豊かさと関係しているわけでもありませんでした。むしろ、学校や家庭など、お子さまを取り巻く人間関係が全体的に温かく、心地よい居場所であることの方が大切です。

また、保護者の存在が子どもの「幸せ実感」に強くかかわってはいるものの、それだけで子どもの幸せが決定するわけではありません。子どもとのつながりを密にすることだけにこだわらず、「子どもの話を聞く」「子どもを認める」「大人の価値観を押し付けない」といった間接的なかかわりを意識しながら、必要なタイミングで声を掛けるようにしてはいかがでしょうか。

そして、保護者のかたご自身も、日々の生活や子育てに神経質になり過ぎず、好きなことをする時間をつくるなど、ご自身がハッピーな気持ちで毎日を過ごすことが、ひいてはお子さまの「幸せ実感」アップにもつながるのではないでしょうか。

取材・執筆:神田有希子

出典:
調査名:「子どもの生活と学びに関する親子調査2015-2023」(第1-9回)
調査テーマ :
【子ども調査】 子どもの生活と学習に関する意識と実態
【保護者調査】 保護者の子育て・教育に対する意識と実態 ※小1~3生は保護者のみ実施
調査時期 : 各年7~9月
調査方法 :
2015年は郵送調査とWEB調査の併用。2016~20年は郵送調査、2021年は郵送調査とWEB調査の併用、2022~23年はWEB調査
調査対象:
全国の小学1年生~高校3年生の子どもとその保護者(小1~3生は保護者のみ回答)約2万人

ニュースリリースはこちら
 
詳しい資料は、ベネッセ教育総合研究所のホームページにも掲載されています。
https://berd.benesse.jp/special/datachild/datashu05.php

プロフィール


木村治生

上智大学大学院(教育学修士)、東京大学社会科学研究所客員准教授(2014~17年)・客員教授(2021~22年)、追手門学院大学客員研究員(2018~21年)、横浜創英大学非常勤講師(2018年~22年)。
これまで、文部科学省、経済産業省、総務省などからの委託研究に携わるとともに、文部科学省審議会委員、独立行政法人国立青少年教育振興機構事業選定委員、内閣府調査企画委員会委員、埼玉県草加市教育委員会専門部会委員などを務める。
教育スペシャリスト紹介

プロフィール


福本 優美子

上智大学大学院文学研究科博士前期課程修了(教育学修士)。初等・中等教育領域を中心に、子ども、保護者、教員を対象とした調査研究や、自治体との共同研究、文部科学省、経済産業省などからの委託研究に携わる。

プロフィール


小村俊平

1975年東京生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。全国の自治体・学校とともに、次世代の学びの実践と研究を推進。全国の教員や中高生とのオンライン対話会を毎週開催しており、学校や家庭の学びの変化や先進事例に詳しい。
これまでにさまざまな自治体・大学・高専のアドバイザー、複数の学校設立に携わるなど初等中等教育から高等教育まで幅広く活動する。また、OECDシュライヒャー教育局長の書籍翻訳等の経験があり、国際的な教育動向にも詳しい。
教育スペシャリスト紹介

活動実績一覧
他に岡山大学 学長特別補佐(教育担当)、日本STEM教育学会幹事、 日本教育情報化振興会理事、内閣府子ども・若者調査委員、信州WWLコンソーシアム座長、仙台第三高校スーパーサイエンスハイスクール運営指導委員等を兼任。

  • 育児・子育て

子育て・教育Q&A