世界的な学力テスト「PISA」で日本が好成績!結果のポイントと好成績の理由を解説

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4年ぶりに行われた世界的な学力調査「PISA」の結果が2023年12月に発表されました。日本の子どもの学力はこれまでも世界でトップレベルでしたが、今回も同じくトップレベルにあることがわかったのです。世界81か国・地域から約69万人の15歳が受検したPISA。日本の好成績の要因を解説します。

日本の学力は世界トップレベル! 世界全体は低下

2023年12月に結果が発表されたPISAは、2022年に行われたテストです。前回は2018年で新型コロナウイルス感染症が流行してから初めての実施。「コロナ禍の影響で子どもの学力はどうなっているのだろう?」と世界中が注目していました。結果は、国際的に学力がやや下がっている中で、日本は前回同様の学力をキープし、国別の順位が世界トップレベルでした。

テストについて少し詳しく言うと、PISAでは「数学的リテラシー」「読解力」「科学的リテラシー」の3分野について、コンピュータを使ったテスト形式で子どもの学力を測ります。前回の2018年調査と比べると、参加した国々の全体的な平均得点は下がったのですが、日本は3つの分野すべてで前回の平均よりも点数が上がっていました。国別の順位を見ると、数学的リテラシーが参加国中5位、読解力3位、科学的リテラシー2位だったのです。特に、数学的リテラシーの成績は世界的な平均得点が大きく低下する中、日本は高水準で安定しています。しかも、得点が低い生徒の割合は少ないまま、得点が高い上位層の割合が増加。私たちは、この結果に胸を張ってよいのではないでしょうか。

日本の成績が高かった理由は?3つのポイント

ではなぜ、日本は好成績だったのか? 理由は1つではなく、たくさんの要因が絡み合っています。しかし、確実に言えるのは、コロナ禍で大変な状況の中、子ども、保護者、先生、皆ががんばったからこそ、今回の結果が生まれたということです。3つの視点から、もう少し具体的に見てみましょう。

1.コロナ禍で休校した期間が短かった~学校での学びを止めなかった日本~

PISAを主催する国際機関(OECD:経済協力開発機構)によると、コロナ禍による学校の休校期間が長い国ほど、PISAの成績が低い傾向が見られました。また、日本は他の国々よりも休校期間が短かった(*1)ため、コロナ禍でも学校での勉強時間が確保され、学力低下を食い止めることができました。感染拡大を防ぐために勉強の内容や方法は大きく制限されましたが、学びを止める期間を最小限に抑え、先生方の創意工夫によって授業が続けられたことが日本の好成績を支える大きな要因となりました。

2.学校の授業の質が高まった~学習指導要領の学びはPISAに通じる~

2018年度から始まった(*2)現在の学習指導要領は、AIの進化などにも対応できる、将来にわたって生きて働く学力の育成を重視しています。学校は、学習指導要領の方針に合わせて授業をよりよいものにしようと進歩させています。

PISAで測られる力はまさに「社会に生きて働く力がどのくらい身についているか」。日本が新しい学習指導要領で育もうとする力と似ています。また、日本は、これからの社会で活躍するために重要な学力やスキルを検討するOECDのプロジェクトに当初から参加していました。つまり、日本の学習指導要領は国際的な議論で得られた知見をふまえて作成されたといえますし、日本が国際的な教育の枠組みづくりに貢献してきたとも言えます。PISAが日本の教育とまったく無関係なものではないと分かりますね。
このように、子どもが未来を生きるために大切な力を付けようと、日本の学校や先生が授業の質を高めていったことが、PISAの好成績にも表れたと言えます。

図1 教科の授業方法(2020年から2022年の経年比較)

※「あなたは教科の授業において、次のような授業をどれくらい行っていますか」と尋ねている。
※グラフは「よく行っている」+「ときどき行っている」の割合。
出典:ベネッセ教育総合研究所「小中高校の学習指導に関する調査2020-2022」
https://berd.benesse.jp/shotouchutou/research/detail1.php?id=5812

小中学校の授業は変わってきています。例えば、2020年からの2年間で「教師主導の講義」は減少。一方で、対話的、活動的な授業~「グループで話し合う」「自分で調べたり考えたりしたことを発表する」「体験的な学びを取り入れる」など~は大きく増えています。この結果から、学校の授業は、先生から言われたことを受け身でこなすだけでなく、社会に出てからも役立つように、課題解決に向けてさまざまな方法を用いたり、体験型の学びから社会とのつながりを実感したりする指導が増えていることが分かります。学習指導要領のねらいであり、PISAで測ろうとしている「社会で生きて働く力」を意識した指導がされている様子を表しています。

3.子どもたちがICT機器に慣れてきた~GIGAが後押し~

2019年に打ち出された「GIGAスクール構想」によって、全国すべての小・中学校で1人1台端末が配られ、インターネット環境が整備されました。授業でのICT活用も進みつつあり、家庭での利用も含めると、この3年間ほどで子どもがICT機器を使うケースがとても多くなりました(図2)。端末を使った宿題も増え、保護者のかたも、お子さまのメディア利用について心配したり声をかけたりする機会が増えたのではないでしょうか。
PISAは、コンピュータ上で出題され、答えも画面に入力して回答します。この「CBT」というやり方は2015年から始まりました(それまでは紙と鉛筆による出題・回答)。他国と比べてICT機器に慣れていなかった日本の子どもは、問題を解くだけの十分な力があっても、回答に必要なコンピュータの操作に不慣れなために力を発揮しきれなかったとも言われます。2022年の今回の調査では、GIGAによってCBTに慣れている子どもが増えたため(図3)、もともとの力を発揮できたと考えられます。

図2 学校の授業でICT機器をどのくらい使っているか

※「あなたは授業のなかでICT機器をどれくらいの頻度で使用していますか」と尋ねている。
※「毎回の授業」+「7~8割程度の授業」 +「半分程度の授業」の割合を示している。

出典:ベネッセ教育総合研究所「小中高校の学習指導に関する調査2021-2023」

図3 学校でデジタル機器を使ってすること

出典:東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所共同研究
「子どもの生活と学びに関する親子調査2022」
https://berd.benesse.jp/up_images/research/pdf_oyako_tyosa_2022_230703.pdf

まとめ & 実践 TIPS

日本に暮らし、日本の価値観や順位づけだけに目が向いていると、世界的に見た私たちのよさや特徴までわからなくなってしまいがちです。しかし、PISAの調査結果によって、日本の学校教育の強みが改めて浮き彫りになり、国際的にも評価されました。もちろん、学校だけでなく、ご家庭での保護者の関わりや、お子さま自身のがんばりも大いに評価されるべきです。

今は手元のスマートフォン1台で世界中の動きがわかる時代。しかも、翻訳ソフトを使えば、たとえ言葉がわからなくても情報を得たりコミュニケーションをとったりすることができます。今回のPISAの国別の結果も、OECDのウエブサイトで見ることができます。お子さまとも、日本と世界の高校生の違いを話してみたり、世界で話題になっている面白いニュースや出来事について話してみたりするのもよいでしょう。お子さまにグローバルな感覚を身につけてほしいと願う保護者のかたは多いと思います。そのためにも、ご家庭で「○○は世界ではどうなっているんだろう」「ほかの国の○○を見てみよう」といった世界への好奇心を、保護者のかた自身が持ってみることから始めてみてはいかがでしょうか。

*1 OECD PISA2022ファクトシートより、新型コロナウイルス感染症の影響で学校が3か月以上閉鎖された割合は、日本16%、OECD諸国平均51%。

*2 現在の学習指導要領は、2016年度に改訂され、2018年度に小・中学校で先行実施、2020年度に小学校で全面実施、2021年度に中学校で全面実施された。PISA2022を受検した15歳が新しい学習指導要領に基づく授業を受け始めたのは小学校6年生の時。ただし、初めの3年間は先行実施期間であったことや、途中、コロナ禍によって授業の中身や方法に制限があった点に注意。
比較可能なデータがある加盟国について2020年1月~21年5月20日の休校日数を集計したところ、幼稚園などの就学前教育は平均で55日、小学校は78日、中学校は92日、高校は101日だった。
小学校の休校日数を国別に見ると、最も長かったのはメキシコの214日だった。コスタリカの175日、コロンビアの152日が続いた。50日以下だったのはニュージーランド(24日)やオランダ(36日)、フランス(34日)、スペイン(45日)など10カ国。スウェーデンは加盟国で唯一、1日も休校しなかった。
日本では20年春に一斉休校が実施され、都市部では休校が最長約3か月に及んだ。OECDに対しては、国として全国の小中高校などに要請した休校日数は約3週間と報告したが、春休み期間などを含むため「各国と単純比較はできない」(文部科学省)としている。OECDの集計にも含まれていない。

プロフィール

小村俊平

小村俊平 こむらしゅんぺい
ベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンター長

1975年東京生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。全国の自治体・学校とともに、次世代の学びの実践と研究を推進。全国の教員や中高生とのオンライン対話会を毎週開催しており、学校や家庭の学びの変化や先進事例に詳しい。
これまでにさまざまな自治体・大学・高専のアドバイザー、複数の学校設立に携わるなど初等中等教育から高等教育まで幅広く活動する。また、OECDシュライヒャー教育局長の書籍翻訳等の経験があり、国際的な教育動向にも詳しい。

活動実績一覧
他に岡山大学 学長特別補佐(教育担当)、日本STEM教育学会幹事、 日本教育情報化振興会理事、内閣府子ども・若者調査委員、信州WWLコンソーシアム座長、仙台第三高校スーパーサイエンスハイスクール運営指導委員等を兼任。

プロフィール

加藤健太郎

加藤健太郎 かとうけんたろう
ベネッセ教育総合研究所 教育基礎研究室長/主席研究員

東京大学大学院教育学研究科修士課程修了(教育学修士)、ミネソタ大学大学院統計学科修士課程修了(統計学修士)、ミネソタ大学大学院教育心理学科博士課程修了(教育心理学博士)。ミネソタ大学在学中にEducational Testing Serviceでインターンを経験。
2009年(株)ベネッセコーポレーション入社後、種々のアセスメント商品の開発・運用に測定の専門家(サイコメトリシャン)として関わる。並行して教育測定に関する研究活動・学会活動(学術誌編集委員)や、大学非常勤(東京大学他)などの教育活動を行う。2022年より現職。

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