コーチング専門家の菅原裕子さんに聞く、思春期への対応(4)

子どもの気持ちを勉強などに向かわせたい時も、コーチングの考え方が生かせます。子どもが自信を失っている冒頭のやりとりを例にして考えてみましょう。


ネガティブな気持ちを否定せずに受け止める

子「どうせ僕なんて、勉強してもムダだ……」

 

親「そう、自信を失っているの?それは辛いよね。何かあった?」

 

子「勉強をしても、ぜんぜん成績が上がらないし」

 

親「確かに、勉強したのに成績が上がらないのは辛いよね。まずは好きな科目からがんばってみるのはどうかな」

 

子「好きな科目なんてないよ」

 

親「そうかな。あなたは生き物を飼うのが好きで、とても詳しいよね。理科はおもしろいんじゃないの?」

 

子「生き物に詳しくても何の役にも立たないよ」

 

親「役に立つかどうかは別として、生き物について知るのは楽しいでしょう」

 

子「まあ、そうだけど」

 

親「それなら、『博士』って呼ばれるくらいまでがんばってみれば? 一緒に理科の参考書を買いに行く?」

 

子「(理科だったらがんばってもいいかな……)そうだね、行ってみようかな」

 

大切なのは、子どものネガティブな気持ちを否定しないことです。子どもが落ち込んでいたら、「あなたにはできる」などと励ましたくのもわかりますが、親が無理にポジティブな気持ちに引き上げようとすると、「そう言われても、自分にはできない」と、ますます辛い気持ちになります。まずはネガティブな気持ちに寄り添い、一緒に階段を上っていくようなイメージで、前向きな気持ちにつながりそうなことを一緒に見つけて対話を進めましょう。そのように親が子どもの気持ちに真剣に向き合うこと自体に子どもは安心感を覚え、元気を取り戻していくはずです。

 

 

子どもに夢や目標をもたせるために

 子どもに夢や目標をもたせることも、前向きな気持ちにつながります。最近の子どもは夢や目標をもたなくなったという話を耳にしますが、好きなことや、やりたいことは誰にでもあるものです。それを親のサポートによって、将来のビジョンへとつなげてあげましょう。

 

子どもが興味をもっていることに対し、大人の視点から提案できることがあるはずです。例えば、英語が好きなら海外に連れて行ったり、電車に興味があるなら電車を乗り継ぐ旅をしたり、子どもの力では実現できないことを提案してみてはいかがでしょうか。その際には、夢が将来につながるかどうかは、あまり考えないほうがいいでしょう。その時々に夢中になれる対象を大切にすることで、夢をもつ力は育まれるからです。実現不可能な夢なら、そのうち子ども自身が気づいて軌道修正するでしょう。

 

以前にお会いした保護者のかたから、中学生の息子があるサッカークラブからサッカー留学のオファーを受けた時の話をお聞きしました。留学にはお金がかかるし、一人で海外に渡らせるのは心配だし、簡単にプロの選手になれるとも思えない。しかし将来、プロの選手になれないとしても、親の事情で諦めさせるのではなく、本人がとことんやってみることに意味があると考え、経済的にも気持ちの面でも無理をして送り出したそうです。もちろん、家庭によって事情があり、子どもの要望を全て叶えられるわけではありません。それでも、子どもが興味をもつことを最大限にやらせる親の姿勢は、必ず、将来に結びつくと思います。

 

 

親自身が将来の夢をもって人生を輝かせてほしい

 さらに子どもが夢をもつために欠かせないのが、親自身が夢をもつことです。ささやかなものでいいので、「こんなことをやってみたい」と夢や目標を語ったり、資格取得の勉強をしたりする姿を見せることで、子どもは将来を前向きな気持ちで見つめるでしょう。逆に、「自分はもう歳だから」などと諦めていたら、身をもって夢をもつ大切さを伝えることはできません。

 

子どもの成長のために、そして自分自身の成長のために、ぜひ将来に明るいイメージをもって人生を輝かせてください。そのために、コーチングの考え方が少しでも役立てば幸いです。

 

 

プロフィール



1977年より人材開発コンサルタントとして、企業の人材育成の仕事に携わる。1995年、子どもが自分らしく生きることを援助したい大人のためのプログラム「ハートフルコミュニケーション」を開発。各地の学校やPTA、地方自治体などで講演やワークショップを開催する。2006年、NPO法人ハートフルコミュニケーションを設立。著書に、『子どもの心のコーチング—一人で考え、一人でできる子の育て方』(PHP研究所) 、『10代の子どもの心のコーチング—思春期の子をもつ親がすべきこと』(PHP研究所)、『コーチングの技術 上司と部下の人間学』(講談社現代新書)』(講談社)、『子育てが変わる親の心得37』(幻冬舎)など。

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