「存在価値」が感じられると子どもは変わる[やる気を引き出すコーチング]

「学校に行きたくない」と言い出して、不登校気味になっていた小学4年生のA君。お母さんはとても心配しました。「4年生になって、勉強が難しくなってきたとは言っていたけれど、いったい何があったのだろう?原因は?」と考えましたが、コーチングを思い出したそうです。

原因追求の前に、A君の気持ちを聴いてみることにしました。
「どうしたいの?」
「もう勉強はしたくない」
「そうなんだ。何だったらしてみたい?」
ややしばらくして、「サッカーがしたい」という答えが返ってきました。
「この子は決して運動が得意というわけではないんだけど」と思いながらも、お母さんは、近所のサッカーチームに入れてみることにしました。その結果、思ってもみなかったことが起きたのです。

今日のMVPは・・・

A君が入ったサッカーチームには、ユニークな習慣がありました。練習後、コーチが「今日のMVPを発表します!」と言って、その日活躍した子どもの名前を挙げて、全員で承認する時間があるのです
「今日のMVPは、一番元気よく声を出していた○○君!」
「今日のMVPは、一番早く来て準備をしていた○○君!」
「今日のMVPは、一番丁寧に後片づけをした○○君!」

プレイが光っていた子どもも、もちろん承認しますが、練習以外の部分でがんばっている子、気配りをしている子も見逃さずにヒーローにします。そのことによって、練習以外の掃除や挨拶などにも子どもたちは手を抜かないようになっていくのだそうです。

A君も、自分では気づいていなかったことで、コーチからMVPをもらい、サッカーに通うのがますます楽しくなってきました。「今日ね、皆の動きをよく見てるって言われたよ!」と嬉々として報告するのです。
すると、学校に行くことに対しても、以前ほど、抵抗を示さなくなりました。「学校よりサッカーのほうがずっと楽しい」とは言っていますが、「学校に行きたくない」と言わなくなりました。サッカーの練習に行くために、宿題も、自発的に早く終わらせるようになったのです。これには、お母さんもびっくりでした。

「存在価値」が実感できる体験を

勉強でも、スポーツでも、どうしても得意な子、そうでない子がいます。スポーツチームですと、足が速い子、ボールさばきが上手な子にどうしてもスポットライトが当たりがちです。そして、試合中にいかに活躍するか、いい結果を出すかが、その子どもの価値を決めるようなところがあります。そうすると、ちょっと苦手な子は、たちまち劣等感を抱きます。得意な子は、「自分はレギュラーなんだから」と準備や後片づけをないがしろにしたりします。

ところが、このチームのコーチは、プレイ以外でも、各々の子どもの強みを観察し、力を入れていることを認め、皆の前で称えます。「自分はチームの役に立っている」「皆に認めてもらえている」と思うと、自分の存在価値を感じることができます。
A君が学校の勉強にも意欲を取り戻せたのは、こんな体験があったからではないかとお母さんは感じました。

多様性を認める

言うまでもなく、子どもは一人ひとり皆違います。各々に個性があり、得意分野があります。皆同じことができなくてもいいのです。「勉強ができない子はダメ」「運動ができない子はダメ」と限られた尺度で評価されることは、「多様性を認め合おう」という時代にあっては、もはや、時代遅れと言うべきでしょう。

「勉強ができる子がいい子」という評価だけでは、子どもたちは前向きな気持ちになどなれません。一つのものさしで、子どもを測るのではなく、様々な角度からスポットライトを当て、その子ならではの価値を認めてあげる。そんなアプローチが、これからの時代を生きる子どもたちには、ますます必要なのではないかと私は思います。

プロフィール


石川尚子

国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ。ビジネスコーチとして活躍するほか、高校生や大学生の就職カウンセリング・セミナーや小・中学生への講演なども。著書『子どもを伸ばす共育コーチング』では、高校での就職支援活動にかかわった中でのコーチングを紹介。

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