「受援力」って何? 上手に頼って子育てを楽しく

子育てと仕事の両立やワンオペ育児など、忙しい日々の中で頼れる人がおらず、つい一人で頑張ってしまう…というお母さんは多いのではないでしょうか。困ったときや自分ひとりでどうしようもないとき、周りの人の力を借りると、心がとても軽くなり、一人で頑張るより良い結果になることもあります。
人に助けを求める「受援力」のスキルをまとめた「『つらいのに頼れない』が消える本——受援力を身につける(あさ出版)」を著した産婦人科医で、5人の子どもの母親でもある吉田穂波先生に、詳しく伺いました。

勇気を出して人に頼むと、とても気持ちが楽になる

「受援力」とは、助けを求めたり助けを受けたりする心構えやスキルのこと。内閣府が、災害後に防災ボランティアの支援を生かすため、被災地側がボランティアの支援を受け入れ、上手に寄り添うことができるように、と2010年につくったパンフレットに用いられた言葉で、東日本大震災をきっかけに少しずつ知られるようになりました。

私自身のことでいえば、2004年にドイツで研修をしながら長女を出産したとき、助産師さんをはじめとして色々な方の助けを受けて、身をもって人に頼ることの重要性を感じました。4女1男の母となった今では、子育ては周囲の人の手を借りていいんだ、という意識をもてるようになりましたが、当時は初めての子育てで、我が子にとって最善の環境を提供したい、そのためには自分が頑張らなくては、という思いから、すべてを一人で抱え込んでしまっていたのです。

2005年に日本で産婦人科医として仕事に復帰してしばらくしたあと、生後6か月の長女が喘息になりました。乳幼児の喘息は重症化しやすく、長女の場合も3~4か月おきに入院を繰り返すことになり、そのたびに付き添って病院に泊まり込み、病院から出勤するという日々を送っていました。夫婦ともに実家は遠方にあり、自分の子どもの看病を両親に頼るのもためらわれ、その一方で、自分が仕事を休んでほかの人に代わってもらうと「他人に迷惑をかけた」という罪悪感でいっぱいになる、その繰り返しでした。看病と仕事の両立に疲れ果てて、もう仕事を辞めてしまおうとさえ思っている、と母に弱音を吐いたところ、「自分の力だけで無理なことは人に頼ったらいいの。もっと人を頼りなさい」と言われ、目からウロコが落ちるような気がしました。

それまで、私にとって自分一人でできずに誰かに頼ることは「非力」「敗北」というイメージだったからです。入院中のわが子の付き添い、という大切な母親業を他人に頼むのは勇気がいることでしたが、私は母の後押しもあり、思い切って電話帳をめくってヘルパーさんの派遣会社に電話をしかけ、初めてシッターさんを頼むことにしました。

実際に、力を貸してもらえるシッターさんという存在を見つけられたことで、私一人が仕事と子どもと、両方への義務感に引き裂かれることがなくなり、すごく心が楽になりました。本当に肩の荷が下りて楽になったので、本心から感謝の気持ちを伝えると、シッターさんも、とても喜んで下さいました。もっと早く人に頼ればよかった、人は、本当は頼られるのを待っている。こちらが無理をして倒れるよりは、人に頼ることで事態を打開するのだ、という貴重な経験となりました。

その後も、私自身、仕事や子育てを通じてたくさんの人に頼ってきましたし、仕事や家庭以外でも、頼る力や助けを求めるスキルが必要だという場面にもたびたび遭遇しました。例えば災害時も同じように、「ほかの人も大変だから」「自分よりもっと大変な人がいるから」と、我慢してしまいSOSを出せずにいる子育て中の母親はもっと人に頼ってほしい。頼ることは本人にとっても、サポートしたい人にとっても、子どもたちにとってもプラスに働くのです。

「頼られると嬉しい」気持ちを思い出して意識を変える

「人に助けを求める」と言うと、「甘えている」「弱虫」など、ネガティブなイメージを持つかもしれませんが、そうではありません。
今まで、あなた自身が誰かを助けてあげたときのことを思い出してみて下さい。どんな気持ちになりましたか?きっと「私が役に立ててよかった」「頼られて嬉しかった」と感じた人がほとんどなのではないかと思います。

私たち人間は、古来から周囲と助け合いながら社会を発展させてきたため、小さな頃から「困っている人がいたら助けるんだよ」という教育を受け続けてきました。ただ、「上手に助けられる」「お願い上手になる」という教育は受けてこなかったように思います。
人に頼るのが苦手ですべてを自分でやり遂げたいと思っている人や、これまでも助けを求めずにやってきたから、これからもきっとやっていけるはず、と思っている方もいるかもしれませんが、子育て世代なら特に、「助けられ上手になる力」は必須アイテム。親が頑張れると思ったとしても、知らず知らずのうちに心身が疲弊して、子どもへの愛情が枯渇してしまうこともあります。

インターネットで調べればすぐわかるようなことでも、身近な人に聞いてみる(たとえば、「お子さんの習い事バッグどこで買ったんですか?」など、ちょっとしたことを質問してみる)など、まずは小さなことから人に頼る練習をすれば、「困りごとを口に出すだけで気持ちが軽くなった」、「話を聴いてくれる人がいるというだけでほっとした」、など、体験しながら「頼る」ことへの意識をポジティブに変化させていくことができます。

私たちは小さなころから「自分一人で何でも出来るように」と自己責任論を教えられてきましたが、子どもを持ってからは、子どもの味方をたくさん作るスキルを身に付ける必要があります。それは、「困っていても助けを求めず一人でやりぬく」ことではなく、「ここまでは一人で出来るけれど、ここからはほかの人の力を借りた方がいい」という生活力でもあります。

まずは、「頼る」ことへのハードルを下げて、小さなことでも気軽に相談することからはじめてみましょう。

*出典:内閣府パンフレット「地域の『受援力』を高めるために」https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201101/2.html

『「つらいのに頼れない」が消える本-受援力を身につける』
吉田穂波(著)/あさ出版/1,404円(税込)

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プロフィール


吉田穂波

産婦人科医、医学博士、公衆衛生士。
三重大学医学部卒業後、聖路加国際病院で臨床研修ののち、2004年、名古屋大学大学院医学系研究科で博士号を取得。その後、ドイツとイギリスで産婦人科及び総合診療の分野で臨床研修を行い、帰国後は産婦人科医療と総合診療の視点をあわせ持つ医師として女性総合外来の創設期に参画した。2008年、ハーバード公衆衛生大学院に留学し公衆衛生修士号を取得、同大学院のリサーチフェローとして政策研究に取り組む。2011年の東日本大震災では産婦人科医として妊産婦や新生児の救護に携わる。このとき、「受援力」の大切さを痛感し、多くの人に役立ててもらいたいとの思いから、無料でダウンロードできるリーフレット『受援力ノススメ』を作成。国の検討会や多数の講演に呼ばれるほか自治体研修等で「受援力」を学ぶ場作りに取り組む。著書に『「つらいのに頼れない」が消える本』(あさ出版)などがある。現在、神奈川県立保健福祉大学ヘルスイノベーションスクール設置準備担当教授。4女1男の母。

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