保護者の7割が望む土曜授業──その実現のために考えるべきこと‐木村治生‐

土曜授業に対する保護者の思い

自民党の政権公約には「土曜授業の実現」が明示されています。下村博文文部科学相も学校週5日制の見直しを言明しており、その検討が進められようとしています。学校現場からは、新しい学習指導要領で授業時数が増え、学校行事の準備や児童会・生徒会活動など、平日に行う活動のための時間の余裕が少なくなったという声を聞きます。グローバル化が進み、変化が激しい社会を生き抜くためには、高い学力を備える必要もあります。「土曜日を活用することで、平日のゆとりを回復すると同時に、子どもたちの学力も維持しよう」。土曜授業の実現には、そんなねらいがあります。

では、小中学校に子どもを通わせている保護者は、土曜授業が復活することをどう考えているのでしょうか。ベネッセ教育研究開発センターが朝日新聞社と共同で行った調査によると、7割を超える保護者が「完全学校週6日制」(土曜日の完全復活)か「隔週学校週5日制」(隔週での土曜日復活)のいずれかを選んでいます。毎週か隔週かの違いはあれ、土曜授業を望む保護者が多いことがわかります。今までどおりの「完全学校週5日制」(週休2日)を支持する保護者は、わずか17.9%でした。


【図】学校週5日制に対する意見

公立学校の完全学校週5日制を、完全学校週6日制に戻したほうがよいという意見があります。これについて、あなたはどう思いますか。

 ※「すべての土曜日を休みにするのがいい(完全学校週5日制)」「月に2回くらい、土曜日に学校があるのがいい(隔週学校週5日制)」「すべての土曜日に学校があるのがいい(完全学校週6日制)」とたずねている。
出典:ベネッセ教育研究開発センター・朝日新聞社共同調査「学校教育に対する保護者の意識調査」



隔週の土曜授業を望む声が最多の意味は?

このことは、何を意味するのでしょうか。データを詳細に分析すると、次のようなことがわかりました。

まず、土曜授業を望むのは、経済的なゆとりが「ない」と答えている保護者に多いなど、家庭の状況による違いが影響しているという点です。土曜日を有効に活用することが難しい家庭があり、そうした保護者は土曜授業を歓迎する傾向があります。とはいえ、保護者は学校が子どもを預かってくれると楽だから、といった都合で土曜授業を支持しているわけではない様子もうかがえます。母親の職業別にデータを見ても、「専業主婦」「パートやフリー」「フルタイム」の間に数値の違いはありません。また、学年別に見ても、意見の差はほとんどありません。母親が働いているから、もしくは子どもが小さいから子どもの面倒を見てほしいといった理由で土曜授業を考える要素は、それほど大きくないようです。

また、「完全学校週6日制」を支持する保護者は23.4%で、毎週の土曜授業を望んでいる保護者も少数です。社会的に週休2日が定着するなかで、子どもだけ土曜日に登校することへの抵抗や、土曜日を体験的な活動に使うことの利点も感じているのでしょう。結果として、もっとも支持を集めたのは「隔週学校週5日制」でした。子どもとともに自由に使える土曜日の必要性を感じつつも、もう少し勉強してほしい。そんなところが、保護者の本音でしょうか。一定程度の土曜授業を望むが、大きな変更は避けるという合理的でバランスの良い選択をしている印象を受けます。



子どものための改革かという視点での検討を

制度を変更するのであれば、ぜひとも持っておきたいのは「本当に子どものための改革か」という視点です。そもそも、学校5日制の実施のときも、「子どものため」ということが言われており、その背景の一つには、教員の週休2日を実現するという労働問題がありました。しかしそれよりも、子どもたちが知育偏重で体験が不足しているため、家庭や地域で活動するゆとりを取り戻そう、という「子どものため」の改革であることが強調されていたのです。習得した知識を活用する機会が家庭や地域で十分に準備されていたとしたら、それは理にかなった選択です。しかし、そのような対策が同時に取られていたかというと、残念ながら十分ではなかったように思います。

それでは、今回検討されている学校週6日制はどうでしょうか。
一つには、平日の忙しさを解消して、子どもたちに多様な体験をする時間を確保するねらいがあります。一方で、学習時間を増やして、いっそうの学力向上を図ろうという思惑も透けて見えます。どちらも誤りではありませんが、平日の忙しさはそのままで、土曜授業が加わるだけではないのか。子どもたちが、じっくり考えを深め、仲間と切磋琢磨(せっさたくま)したり試行錯誤したりする時間が確保できるのか、といった疑問も生じてきます。「子どものため」という視点での活動の吟味が必要そうです。

さらに、教員の負担の問題も気になる点です。教員の勤務実態に関するわれわれの調査では、平均の勤務時間が増えています。事務的な仕事に追われ、本来やるべき学習指導や生活指導の時間が十分に取れないといった悩みを抱える教員もたくさんいます。土曜授業の実施で、教員の余裕がさらに失われるとしたら、それは子どもたちのためになるのでしょうか。子どもの多様な体験を保障し、保護者や地域を巻き込んだ充実した土曜日の活動を実現するためには、教員を増員したり、教育活動を支えるコーディネーターを導入したりといった対応が必要となるでしょう。単に制度を変更するだけでなく、そこに本腰を入れた投資を行えるのかが、学校週6日制の成否を左右すると言えそうです。


プロフィール


木村治生

東京大学社会科学研究所客員准教授(2014~17年)・客員教授(2021~22年)、追手門学院大学客員研究員(2018~21年)、横浜創英大学非常勤講師(2018年~22年)。
これまで、文部科学省、経済産業省、総務省などからの委託研究に携わるとともに、文部科学省審議会委員、独立行政法人国立青少年教育振興機構事業選定委員、内閣府調査企画委員会委員、埼玉県草加市教育委員会専門部会委員などを務める。
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