小学校英語の実態、小1から開始する自治体も

2020(平成32)年度から始まる次期学習指導要領では、高学年(5・6年生)の「外国語活動」を教科「外国語(英語)」に格上げして授業時間数も倍増(年間35時間から70時間へ)するとともに、現行の外国語活動を中学年(3・4年生)に前倒しします。一方で、既に低学年(1・2年生)から外国語に触れる教育活動を行っている学校は少なくありません。次期学習指導要領への取り組みと相まって、小1からの外国語教育に力を入れる自治体や学校が今後、増えていくものと見られます。先進自治体では、どうなっているのでしょうか。

十分に慣れ親しむことを目指して、独自カリキュラムを実施する自治体も

2006(平成18)年度から自治体を挙げて4・3・2制の小中一貫教育に取り組む東京都品川区教育委員会では、小1から独自教科「英語科」を実施しています。1~4年生を「英語によるコミュニケーションに『親しむ』」段階、5~7年(中学1年)生を「英語によるコミュニケーション能力を『身に付ける』」段階、8~9年(中2~3)生を「英語によるコミュニケーション能力を『活用する』」段階と位置付けています。一方で、年間の授業時間数は、1~2年生が20時間、3~6年生が35時間(週1コマ相当)、7~9年生は140時間(中学校の標準時間数と同じ週4コマ相当)としており、1~4年生の段階でも徐々に英語に触れる時間を増やす配慮をしています。
2017(平成29)年度から全校実施している新カリキュラムでは、小学校の1~2年生をALT(外国語指導助手)と学級担任のチーム・ティーチング(TT)で実施し、英語に親しませることを重視。3~6年生では日本人で英語指導の資格を持つ「小学校英語専科指導員」(JTE)と学級担任のTTとして初歩的な英語コミュニケーション能力を着実に身に付けさせ、中学校の7~9年生では教科担任による授業を中心とします(一部ALTとのTT)。
品川区と同様、2012(平成24)年度から小中一貫教育を全校で行っている横浜市教育委員会でも、小学1年生から「横浜国際コミュニケーション活動」(YICA)を実施しています。年間授業時数は1~4年生で20時間、5~6年生は標準どおり35時間です。低学年では歌やゲーム、リズム遊びなどを通じて、楽しみながら英語に触れる活動を行います。中学年では英語で質問するなどしてコミュニケーション活動を楽しみ、高学年では自己表現を大切にして、考えたり感じたりしながらコミュニケ—ション活動を楽しむことを目指します。そうして十分に英語に慣れ親しませたうえで、中学校で「聞く・読む・話す・書く」の総合的なコミュニケーション能力を育成しようという考え方です。

単なる早期教育ではなく、英語でコミュニケーションを目指す

両自治体に共通しているのは、子どもの発達段階に応じて徐々に英語に触れて慣れ親しませる機会を増やしている点、コミュニケーション能力の素地を十分に培ったうえで中学校段階の学習につなげている点にあると言えるでしょう。
日本では中学校からの6年間、あるいは大学も含めて10年間にわたって英語を勉強しても、ちっとも使えるようにならないと、よく指摘されます。その理由としては、まず、教師も子どもも入試などペーパーテスト対策に関心が集中しがちで、外国語教育で本来目指すべきはずのコミュニケーション能力の育成が十分に行われていないことが挙げられます。それとともに無視できないのは、そもそも日本人は日常的に英語を使う必要性に迫られず、また恥ずかしがり屋な国民性から、どうしても学んだ英語を使うのをためらってしまう側面があることです。次期学習指導要領で外国語教育を小3からに前倒しするのも、そうした課題を克服しようとしてのことです。
小1から実施する先進自治体の取り組みは、たとえ外国人だろうと物おじしない小さなうちから、積極的にコミュニケーションを取ろうとする態度を育てていこうという取り組みであり、決して単なる中学校英語の「早期教育」でないことに注意する必要があります。

(筆者:渡辺敦司)


2019年11月1日、文部科学省より2020年度(令和2年度)の大学入試における英語民間試験活用のための「大学入試英語成績提供システム」の導入を見送ることが発表されました。

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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