大学生の自学一日1時間…でよいの?

新学期が始まって1か月。「五月病」という言葉も聞こえてきます。
ところで最近の大学生は昔と違って、まじめに授業に出席する傾向が強まっています。それは結構なのですが、家でほとんど勉強しなかったり、3年生までにほとんどの単位を取得したりする傾向だけは、昔と変わらないようです。本当にそれでよいのでしょうか。

1・2年生の授業出席は週20時間なのに

大学生(学部昼間部)の学習状況を、先頃公表された国立教育政策研究所の2016年度調査結果から見てみましょう。
予習・復習の週当たり平均時間は、1年生4.9時間、2年生5.4時間、3年生5.0時間と、いずれも5時間前後。授業でさまざまな課題やレポートが課せられているはずですが、平日1時間程度というところでしょうか。授業の少ない4年生は2.9時間となっています。

授業以外の学習に費やす平均時間は、学年順に2.1時間、2.6時間、4.0時間、4.8時間ですが、ゼロというのも多くを占めています。同研究所では、公務員試験や資格取得、進学などを希望する学生が集中的に勉強し、平均値を押し上げていると見ています。
授業の平均出席時間は、週に各20.0時間、19.4時間、15.5時間、5.4時間。最初のうちに一日4コマ目いっぱい単位を取っておき、3・4年生では徐々にゼミや卒論に比重を移す……という4年間のサイクルに変わりはないようです。もっとも最近は、土曜日なども授業があるのは当たり前ですし、就職活動に充てる時間は保護者世代の比ではありませんから、学生生活は昔以上に忙しいと言えるでしょう。
ただ、本当にこのままでよいのでしょうか。

アクティブ・ラーニングも増えるなかで

大学の単位は本来、授業1時間に対して2時間の予習・復習をすることを前提に設計されています。本来なら一日4~5コマを履修するのは、とても大変なはずです。
何を今さら……と思われるかもしれませんが、中央教育審議会は2012年8月の答申で、そうした大学教育の在り方を本来の姿に戻すよう提言していました。ちなみに同答申は、大学入試改革を含む「高大接続改革」の火付け役ともなりました。

大学教育にアクティブ・ラーニング(AL、高等教育の用語としては「能動的学修」と訳す)を取り入れるよう提言したのも、同答申です。調査を見ても、グループワークなど学生が参加する機会がある授業が「よくあった」「ある程度あった」は計64.8%を占めています。しかし授業時間にALが増えれば、事前に知識を身に付けておくなどの予習や、自分なりに整理する復習が今まで以上に必要になるはずですが、その気配はなさそうです。

大学進学率が50%を超えた現在、厳しい大学入試で学生の質を担保することはできません。入学後の4年間の教育を通して、社会で活躍できる「汎用的能力」をしっかり身に付けさせることが、ますます求められます。それには学生にも、もっと自主的な学習を増やしてもらわなければなりません。
もちろん、それには学生が安心して勉強に打ち込めるだけの経済的支援が不可欠です。また、3年生の学習が終わらないうちに就職内定を出してしまうような、大学教育軽視とも言うべき企業の在り方も問われなければいけないでしょう。

(筆者:渡辺敦司)

※2016年度 大学生等の学習状況に関する調査研究−結果の概要(大学昼間部)−
http://www.nier.go.jp/05_kenkyu_seika/pdf_digest_h29/gaiyou.pdf

※中教審答申「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~」(2012年8月)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1325047.htm

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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