大学「授業料後払い」提案が問い掛けるもの

大学の授業料などは、卒業後に働いて支払う……。中央教育審議会の大学分科会将来構想部会で、委員の小林雅之・東京大学教授と村田治・関西学院大学長が「授業料後払い制度」を提案しました。これが秋にも予定される中教審答申にそのまま反映されるわけではありませんが、そこには「高等教育の経費は誰が負担するのか」という、子ども・保護者のみならず一般の人にも重要な論点が含まれているようです。

保護者頼み解消には財政難の壁

授業料後払いと聞けば、自民党の教育再生実行本部が5月に授業料の「出世払い」(卒業後拠出金制度=J-HECS)を安倍晋三首相に提言したというニュースを思い出した人もいるかもしれません。実は、自民党案のもとになったオーストラリアのHECS(Higher Education Contribution Scheme)も、小林教授が紹介したものです。

日本は、高等教育費の私費(家計)負担が重い国で知られています。進学率が上がっても、政府が大学などにあまりお金を出さず、子どもの教育に熱心な保護者の負担に頼ってきた……というわけです。
一方、社会がより高度な人材を求める中、どの国も大学などの進学率が上昇しており、高等教育費負担を今後どう考えるかが共通の課題となっています。
日本も「今までが少なすぎたのだから、もっと予算を割くべきだ」というのは正論ですし、経済協力開発機構(OECD)も学生への経済的支援を拡充するよう推奨しています。ただ、国債など1,000兆円以上もの「借金」を抱える財政事情も無視できません。
また、小林教授も文部科学省検討会の主査として携わって導入された「給付型奨学金」や「新所得連動返還型奨学金制度」(いずれも2017年度から)は、恩恵が一部の学生に限られたり、将来の返済を恐れて奨学金の利用をためらったりするなど、限界もあります。

「親」から「本人」の負担へ

そうした中で小林教授らが提案した「後払い制度」は、所得制限もなく全学生を対象に、いったん授業料など(額は複数案あり)を財政投融資などで肩代わりし、卒業後は所得に応じて分割で支払ってもらいます。現実的に払えなくなった人には「帳消し制度」も導入します。現行の奨学金制度と比べシンプルで、回収などの事務コストも抑えられます。

これにより、▽世帯所得が高いほど進学率が高いという教育機会の格差を解消できる▽低中所得層や、複数のきょうだいが在学している中高所得層の負担も軽減できる▽少ない公的負担で、教育費の私的負担感を軽減できる……といいます。
何より重要なのは「授業料を学生本人が負担することで、親負担主義から本人負担主義へと教育費負担観を転換し、親依存を脱却し」「かつ教育費の私的負担感を軽減する」という点でしょう。

授業料は保護者が払うのが当たり前という風潮の中、家計が苦しい世帯では、子どもに進学をあきらめさせてしまう実態があります。子どもにとっても、奨学金とアルバイトだけで学生生活をまかなうには今や、あまりにも授業料などが高くなってしまっています。さらに卒業後の就職や返済に十分な収入が見込めるかが不安で、保護者ともども奨学金の利用をためらうケースも指摘されています。
学生への経済的支援の充実は、答申に向けた重要論点の一つです。答申でも、ぜひ思い切った提案を期待したいものです。

(筆者:渡辺敦司)

※授業料後払い制度導入の検討の必要性について
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/042/siryo/1408011.htm

プロフィール

渡辺敦司

渡辺敦司

1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。連載に「『学力』新時代~模索する教育現場から」(時事通信社「内外教育」)など。

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