1万円札の新しい顔、渋沢栄一とは何をした人?
2024年から一新される日本銀行券(日本の紙幣)。1万円札の図柄に選ばれたのは、江戸、明治、大正、昭和の時代を生き抜き、かつて「近代日本資本主義の父」と呼ばれた渋沢栄一(しぶさわ 栄一)です。
戦前・戦後を通じて初めて日本銀行券に登場する渋沢は、日本の経済とどのように関わった人物だったのでしょうか。
渋沢栄一の生い立ちと青春時代
渋沢は1840年(天保11年)、現在の地名でいうと埼玉県深谷市の農家に生まれました。 幼いころは父から、大きくなってからは従兄弟の尾高惇忠(おだか あつただ)から論語や史記などの漢学を学びます。
さらに、1861年から3年間は江戸で文武を学びました。 渋沢の武道の師匠は、坂本龍馬が師事したと言われる千葉定吉(ちば さだきち)の甥、千葉栄次郎(ちば えいじろう)です。
千葉栄次郎の道場には、尊皇攘夷思想を持つ若者が多く在籍していたことから、渋沢も大きな影響を受けます。一時は高崎城を攻略して、倒幕の一助にしようと試みたほどです(尾高の説得により中止に)。
しかし志士活動に行き詰まり、翌年には一橋慶喜(ひとつばし よしのぶ)に仕えることに。一橋家では財政立て直しで才覚を発揮し、しばらくして慶喜の弟とともにヨーロッパへ渡ります。
ヨーロッパ諸国を訪問して学んだことが、のちの活躍の基礎となります。渋沢はヨーロッパ滞在の記録を三つの日記に記していて、鉄道や工場、水道や博物館、銀行や造幣局など、近代化の基礎となる施設について興味深く査察していたことがうかがえます。
フランスからの帰国、実業家としての活動
帰国した渋沢は、徳川家のおひざもとである静岡で商法会所を設立します。 商法会所とは、いまでいう金融商社です。
その後、大蔵省で国立銀行の設置に尽力。大蔵省を退官したあとは、国立第一銀行(現在のみずほ銀行)の総監役(現在の頭取)になりました。
さらに渋沢は、富岡製糸場やのちに王子製紙となる企業の設立に関わります。 また、現在の一橋大学を創立したのも渋沢です。
渋沢は500以上の企業、団体の設立に関わっています。そのなかから代表的なものを挙げておきます。
- 抄紙会社(しょうしがいしゃ)……のちの王子ホールディングス
- 東京商法会議所……のちの東京商工会議所
- 大阪紡績会社
- 日本郵船会社……のちの日本郵船
- 東京瓦斯(がす)……のちの東京ガス
- 日本女子大学
- 石川島造船所
- 東京株式取引所
- 日本興業銀行
- 京都銀行
「近代日本資本主義の父」の名にふさわしい並はずれた功績ですね。渋沢はその功績を称えられ、昭和4年(1929年)1月に明治天皇より銀盃が下賜されています。また、『官報』の「叙任及辞令」によれば、たくさんの勲章も授与されています。
またあまり知られていませんが、渋沢は最後の江戸幕府将軍徳川慶喜の伝記も編纂しています。
実業界において これだけの実績を残しながらの 伝記編纂活動は、さぞかし骨が折れたことでしょう。実業家渋沢の意外な一面と言えそうです。
論語と算盤(そろばん)
渋沢はバイタリティと才能あふれる実業家であったと同時に現代でも通用する優れた経済理念の持ち主でもありました。
道徳経済合一説に基づいた「論語と算盤」
そのことを象徴するのが、「論語と算盤(そろばん)」という考え方です。渋沢が残した名言のなかでも最も有名なものの一つに数えられ、今なお多くの経営者たちに支持されています。
道徳と利益の追求は相反するものであると考えられがちです。ところが渋沢は、これらを両立させることができるはずだと考えていました。
利益を得ようとして道徳に反することを行えば、遅かれ早かれ、利益が失われ事業がダメになってしまいます。
逆に、持っているお金が少なければ、道徳的に行動し続けることは難しいでしょう。
利益を生んで豊かになれば社会がより道徳的になり、人々は精神的にも健やかに暮らせるようになると渋沢は考えていたわけです。
論語と算盤を実現するための社会奉仕活動
また、人々の役に立つことで利益を出すことができれば、事業活動自体が社会貢献となります。
渋沢が手がけた事業には、当時日本に普及していなかった社会インフラ(産業や生活の基盤)がたくさん含まれています。この思想をとても大切にしていたことが伺えますね。
また、渋沢は慈善活動や文化支援活動にも力を入れていました。 たとえば、関東大震災があった際には、大震災善後会副会長となり、復興に尽力します。社会福祉活動に熱心で、老人や身寄りのない子どものための施設の運営にも力を注ぎました。
現在の日本赤十字社である博愛社の設立にも深く関わっていたと言われています。 渋沢が幼いころに学んだ論語の教えは、大人になってからも考えの原点であり続けたということですね。
道徳と経済を両立させてこそ、円滑な経済活動が可能に【教え】
そんな渋沢の教えは、現代の社会にも通じるように思えます。
「儲かりさえすれば、他人のことはどうでもいい」と考え、道徳を無視して利益だけを追求して失敗した企業もあるでしょう。
また、道徳的に正しいことをしていても、利益が得られなければ、その活動を続けていくことは難しくなってしまいます。
つまり、利益を追求することは決して卑しいことではなく、社会を豊かにするためにはとても大切なことなのです。
道徳なくして経済なし、経済なくして道徳なし。いつか商売を始めたり、会社を作ったりするとき、誠実に商売してこそ、持続的な利益を安定して手に入れることができるという渋沢の考えを思い出してくださいね。
また、友達や家族との関わりのなかでも、自分のためだけでなく人のためになる行動ができないかどうか、考えてみるのもよいかもしれません。
渋沢栄一記念館に行ってみよう
渋沢の生まれ故郷、埼玉県深谷市には渋沢栄一記念館があります。渋沢栄一自筆の書や、写真、資料などが展示されているので、さらに詳しく渋沢の功績や考え方を学ぶことができます。
講義室では、渋沢栄一アンドロイドによる講義も受講可能。毎時10分と40分には解説員による資料解説を受けることができます。
また、深谷市は渋沢が創設した日本煉瓦製造会社発祥の地であることから、レンガの町としても知られています。渋沢の情熱を引継ぎ、美しい町を次世代へと渡すために、深谷市ではレンガを用いた施設づくりに力を入れているとのこと。
渋沢栄一記念館だけでなく、渋沢の息吹を今に残す深谷市を探索してみてください。
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アクセスマップ
名 称:渋沢栄一記念館
時 間:9時00分〜17時00分。アンドロイド講義9時30分〜16時00分。
休 日:年末年始
料 金:資料室、講義室は無料
住 所:埼玉県深谷市下手計1204
電 話:048-587-1100
※情報は変更されている場合があります。
監修者プロフィール
門川 良平(かどかわ
りょうへい)
教育コンテンツ開発者。教材編集者・小学校教員・学習事業のプロデューサーを経て、現在は、すなばコーポレーション株式会社代表としてゲーム型ワークショップや学習漫画、オンライン授業などの開発を行う。オリジナル開発したSDGs学習ゲームなどの教育コンテンツを軸に日本各地の自治体と連携を進めている。