教育用語解説 CBT

2025.8.29

「CBT」とは——国際的に導入が進む、コンピュータ上で出題・解答するテスト方式を解説

2025年度から、全国すべての小6・中3生を対象に毎年行われる「全国学力・学習状況調査」の一部で、新たなテスト方式「CBT」が導入されたことをご存じですか?
CBTは、お子さまがこれから将来にわたって受けるテストの主流になるとされています。その概要や今後の動きを解説します。

「CBT」とは——国際的に導入が進む、コンピュータ上で出題・解答するテスト方式

「CBT」とはComputer-Based Testsを略したもので、コンピュータ上で実施されるテストのことです。これまで主流となってきた紙ベースのテスト「PBT:Paper-Based Tests」に代わる、これからのテスト方式として各方面で導入が進みつつあります。

たとえば、企業が採用選考時に行う適性検査「SPI」や、医歯学部の学生が受けなければならない全国試験「医療系大学間共用試験」などの一部はCBTです。海外では、国際的な学力テストの「PISA」や「TIMSS」をはじめ、アメリカやフランス、スウェーデンなどでは国内の学力テストのCBT化が進んでいます。

日本の学校教育関連でいうと、文部科学省が「MEXCBT :メクビット」というCBTシステムを構築。各校における一人1台端末の配備・活用状況を踏まえつつシステムを拡充中です。
全国学力・学習状況調査の一部はMEXCBTの基盤を利用して実施されているほか、公開問題の復習などにも利用されています。全国学力・学習状況調査以外にも、国や自治体、検定協会等が作成した問題(一部)が搭載されており、全国の小・中・高校で利用できるようになっています。

ペーパーレスだけじゃない! CBTは出題者と解答者の双方にメリット

従来は紙を使っていたものをコンピュータ化すると、すぐ思い浮かぶメリットといえばペーパーレス化。しかし、テストに関して言うと、もっとたくさんのメリットがあります。全国すべての小6・中3生、約200万人が受ける全国学力・学習状況調査を例に説明しましょう。

1.解答データの利活用が進む

児童・生徒が解答した内容は、ネットワークを介して即座にデジタルデータとして蓄積できるため、集計・分析するまでの時間も短くなります。分析の精度もより高めることができます。テストの振り返りは、受けてから時間がたつほど効果が落ちてしまうもの。CBT化によって、テストの結果をより早く、きめ細かく子どもにフィードバックすることが期待されます。子どもたちは自らの振り返りや学び直しの効果を高められることでしょう。
また、国としても子どもたちの学力・学習状況の基盤となるデータを抜本的に充実させることで、調査結果の活用度合いを広げることができます。

2.測定内容の充実

コンピュータを使えば、動画や音声といったマルチメディアや、表計算機能や描画などのさまざまなツール、解答形式が使えます。子どもたちが⾝に付けた力を、より多⾯的に測定できるようになり、問いたい資質・能力をよりよく問うことができます。たとえば、これまでは測定が難しかった「思考力」や「問題発見・解決能力」が測りやすくなるよう、研究・開発が進められています。

3.実施負荷の削減・効率化

いわゆるペーパーレスになるため、印刷、配送、回収にかかる経費や環境への負荷を軽減できます。学校にとっては、個人情報が含まれている冊子の確認や管理にかかる負担が減ります。また、特別な配慮が必要な児童生徒には、音声・読み上げ・文字の大きさの調整等によって対応することができます。

このように、紙のテストをCBTにすることで、学校や行政といった実施・出題者側の負荷を減らしつつ、子ども一人ひとりの学びの質向上につなげられる点が最大のメリットです。

今後は全国学力・学習状況調査をメインに各自治体でもCBT導入が広がる見込み

国が導入を進めているCBTの代表例が全国学力・学習状況調査です。
紙のテストからCBTへと段階的に導入範囲を広げています(【図】)。
2021年度からCBT化の準備を進め、2025年度は中学校の理科で実施。2026年度は中学校英語と小学校の質問調査(アンケート部分のこと)を実施。2027年度は、小・中学校すべての教科と質問調査をCBTで行う予定です。

【全国学力・学習状況調査 今後のCBT導入予定】

*質問調査はすでにオンライン方式で実施しているが、文部科学省のCBTシステム「MEXCBT」に接続して行うのは2026年度(小学校)から。

今後は、全国学力・学習状況調査だけでなく、「MEXCBT」も拡充される見込みです。
すでに一部の自治体・学校ではMEXCBTを導入した家庭学習や自習などでの活用が始まっています。たとえば、授業中に課された課題が終わった生徒には、MEXCBTに蓄積されている少し難度の高い問題を生徒のタブレットに配信。自動採点機能を使って生徒自身が正誤を確認したり、解き直しをしたりできます。このように、ふだんの学習でもCBTが活用される場面が増えていくでしょう。

まとめ~テストのコンピュータ化がゴールではない! CBTで子ども一人ひとりの力をいかに正しく把握し伸ばせるかがカギ

今後はさまざまなテストが紙からCBTになっていくでしょう。
ここで注意したいのは、CBTで測りたいのは、コンピュータを操作するスキルではないことです。たとえば、紙のテストが鉛筆で解答用紙に記入できることを前提としているように、CBTも「クリックする」「スクロールする」「文字をタイプする」といったコンピュータの基本的な操作ができることを前提として作られています。測りたい力はテストによって異なりますが、すべての受験者が同じ条件で受けられる状態ではないと、本来測りたい力を公平に、正確に測ることができません。保護者のかたは、お子さまがコンピュータでテストを受けることに今のうちから慣れるよう、支援してあげてください。大切な試験で、本当はわかっていたのに、うまくタイピングできなかったために失点……なんていう事態は避けたいですね。

また、CBT最大のメリットは「子ども一人ひとりの学びの様子を適切に把握し、学びの質向上につなげる」ことです。データの質や量が増えるほど、その価値は使い方次第。データを持つ国や自治体が、単にテスト業務を効率化するためだけだったり、学校や子どもたちを管理するツールとして使うだけだったりしては意味がありません。保護者のみなさまも、CBTが進むことで、お子さまの学びがよい方向に変わりそうかな?変わっているかな?という視点で今後の動きをチェックしてみてください。

監修者

監修スペシャリスト

こむらしゅんぺい


ベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンター長

1975年東京生まれ。全国の自治体・学校とともに、次世代の学びの実践と研究を推進。全国の教員との毎週のオンライン対話会「気づきと学びの対話」、中高生との定期的なオンライン対話会「SDGsユース」、中高生との探究的な学びのコミュニティ「ベネッセSTEAMフェスタ」を開催するなど教育イノベータが集まる場を主宰しており、学校や家庭の学びの変化や先進事例に詳しい。
これまでにさまざまな官庁や自治体の委員、大学・高専・高校の委員やアドバイザーを務めており、複数の学校設立に携わるなど初等中等教育から高等教育まで幅広く活動する。また、OECDシュライヒャー教育局長の書籍翻訳等の経験があり、国際的な教育動向にも詳しい。
研究実績一覧
監修スペシャリスト

かとうけんたろう


ベネッセ教育総合研究所 主席研究員

東京大学大学院教育学研究科修士課程修了(教育学修士)、ミネソタ大学大学院統計学科修士課程修了(統計学修士)、ミネソタ大学大学院教育心理学科博士課程修了(教育心理学博士)。ミネソタ大学在学中にEducational Testing Serviceでインターンを経験。
2009年(株)ベネッセコーポレーション入社後、種々のアセスメント商品の開発・運用に測定の専門家(サイコメトリシャン)として関わる。並行して教育測定に関する研究活動・学会活動(学術誌編集委員)や、大学非常勤(東京大学他)などの教育活動を行う。2022年より現職。

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