【専門家監修】子どもにもできるアンガーマネジメント イライラや怒りと上手に付き合おう

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「小1の長男は、いったん怒り出すと手がつけられなくて……」
「穏やかでいたいのに、忙しい朝はついイライラして子どもに当たってしまう……」
子育て中のかたなら、多かれ少なかれお子さまやご自身の「怒り」について、気になるときもあることと思います。
そこで、小学生のお子さまがいるご家庭を対象にした「アンガーマネジメント(怒りと付き合うための心理トレーニング)」について、日本アンガーマネジメント協会代表理事の安藤俊介さんに教えていただきました。

お子さまも保護者のかたも、イラッとすることはあって当然。今日からできる、怒りとの上手な付き合いかたをご紹介します。

この記事のポイント

「アンガーマネジメント」はなぜ大事?

「アンガーマネジメント」は、「怒り(anger)」と上手に付き合うための手法で、1970年代にアメリカで生まれたとされています。
犯罪者のための矯正プログラムとして開発が進みましたが、現在は一般にも普及し、ビジネスや教育など幅広い分野で活用されています。
日本アンガーマネジメント協会でも、企業研修の他、親子でアンガーマネジメントを学べるイベントなどを多数開催しています。

ここで1つお伝えしたいのは、「怒るのは決して悪いことではない」ということです。
適切な場面で怒ることで、「自分が大切だと思う信念や感情を相手に伝えられる」といったメリットが得られます。
子育ての面でも、社会生活を送るうえで大切なルールを子どもに教えたいときは、怒ることも必要です。

ただし、怒りに振り回されてしまうと、例えば保護者のかたなら「ついイライラして子どもにひどい言い方をしてしまった」といった後悔が残るでしょう。
お子さまにしても、ただ怒って泣いたり暴れたりするだけでは「何を、どうしてほしいのか」が周りの人に伝わらず、状況を改善させられません。

自分の怒りを見つめて上手に付き合い、よりよい人間関係を築くための手法が「アンガーマネジメント」なのです。

「怒り」について正しく理解することから、アンガーマネジメントを始める

怒りとは?

そもそも「怒り」とは何でしょうか?
私たちは怒りが生まれる仕組みを、ライターで火をつけるプロセスを使って説明しています。
ライターで火をつけようとするときは、まずバチッと火花を散らし、そこにガスを送り込んで炎を燃え立たせます。
炎を怒りに例えるなら、火花は「こうしたい」「こうあるべき」といった願望、理想が裏切られた時に散ります。
そしてガスは、不安やストレス、「つらい」「苦しい」などの感情、身体の不調などマイナスの感情・状態です。
願望や理想が裏切られたとき、「イラッとする(火花が散る)」→「マイナスの感情・状態がイラッとした気持ちを助長する(ガスが送り込まれる)」→「怒りの感情がわき起こる(炎が燃え上がる)」といったプロセスによって怒りが生まれるのです。

子どもの怒りも大人の怒りも仕組みは同じ

大人の怒りも子どもの怒りもライターの炎に例えることができますが、火花となるものは違います。
年齢によっても変わりますが、子どもの怒りは「あのおもちゃが欲しい」「もっと食べたい」「遊びたい」といったシンプルな欲求と結びついており、その欲求が満たされないときに怒りの感情が生まれます。

それに対して大人は、社会的な経験の中で培われた「こうあるべき」といったものが裏切られたときに怒りを感じます。
例えば子育てに関してなら、「子どもは保護者の言いつけを守って社会生活のルールを身に付けるべき」などといった無意識の思いがかなわず、かつ「子どもが危険な目に遭ったらどうしよう」といった不安などがあると、怒りに発展するわけです。
保護者のかたが怒りたいわけではないのに怒ってしまうのは、お子さまを思えばこその結果でもあると言えますね。

子どものうちからアンガーマネジメントを学ぶ重要性

アンガーマネジメントの手法を身につけておけば、怒りに振り回されず、自分の思いを適切に相手に伝えられるようになります。

ただ、怒りの感情をマネジメントするのは簡単ではありません。
だからこそアンガーマネジメントの手法を知って、筋トレと同じように何回も実践しながら身につけていく必要があるのです。
アンガーマネジメントは、大人はもちろん子どもでも習得が可能です。

むしろ、経験値が少なく「こうあるべき」という固定観念を持っていない子どもの方が、アンガーマネジメントの手法をスムーズに吸収しやすいとも考えられるのです。
子どもの頃から怒りをコントロールできるようになっていれば、心の状態が安定しやすく、勉強や習い事なども身に付きやすくなると期待できます。
心が柔らかい小学生の時期からアンガーマネジメントを覚えられるよう、保護者のかたがサポートしてあげましょう。

子どもにもできる アンガーマネジメントの方法5選

アンガーマネジメントの具体的な手法はたくさんありますが、ここではお子さまにもできる方法を5つご紹介します。

お子さまが怒りをぶつけてきたときには、保護者のかたが「やってみると落ち着くよ」と声をかけながら一緒に実践してみましょう。
初めはうまくできなくても、繰り返し行って習慣づければ、一人でもできるようになります。

もちろん、保護者のかたがご自身のイライラを静めたいときにもお試し下さい。

1 6秒数える

怒りを感じたときは、ゆっくり6秒数えるのがおすすめです。
怒りの感情は脳の中心にある「扁桃体(へんとうたい)」という部分で発生し、その感情が前頭葉(理性をコントロールする部分)に伝わるのには数秒かかると考えられています。
お子さまが怒り始めたら「一緒に6秒数えよう」と誘って、「1・2・3……」とカウントしながらようすを見ましょう。

2 深呼吸をする

6秒数えるのとあわせて、深呼吸をするのもよいでしょう。
怒りに支配されているときは呼吸が乱れがちですが、「深く息を吐く→吸う」に集中することで、怒りの感情から気をそらしやすくなるはずです。

3 手をグーパーする

両手でグーとパーを交互につくるだけでも、怒りから注意をそらすのに役立ちます。
「グー・パーを5回ずつやるよ」などと声をかけて、一緒に取り組んでみてください。

4 姿勢を正す

人が怒っているときは、姿勢が崩れていることが多いものです。
逆に言うと、姿勢を正すことは、気持ちを整える意味合いもあるのです。
お子さまには「背中を伸ばして、顔を上げようね」などと具体的に指示してあげるとよいですね。

5 笑顔をつくる

人は笑いながら怒るのは難しいものです。
また、楽しい気分でなくても笑顔をつくると、脳は「今、自分は楽しいんだ」と錯覚するともいわれています。
この作用を利用し、怒っているお子さまに笑顔を向けて笑いを促してみましょう。

保護者ができる、子どものアンガーマネジメントのサポート

特に低学年のお子さまだと、自分の怒りに過度に振り回されて感情を爆発させてしまうことも考えられます。
そこで保護者のかたには、お子さまが自分の怒りを見つめられるようサポートしてあげることが求められます。
自分の感情に気づくことは怒りのコントロールにつながるため、アンガーマネジメントにおいてはとても大切です。

お子さまが「自分はどうして、どのくらい怒っているんだろう?」と考えるのに役立つ、保護者のかたができるサポート例を知っておきましょう。

自分の気持ちに気づかせる声かけをする

お子さまはふだん、自分の気持ちを改めて考えてみる機会はあまりないかもしれません。
でも、「今、どんな気持ちだろう?」と振り返ってみることは、自分の怒りを俯瞰(ふかん)する手助けになります。
これは「リフレクション」と呼ばれる手法です。
お子さまが怒っているときに限らず、ふだんの会話の中で、折にふれて「どう思った?」「今、どんな気持ち?」と質問して、自分の気持ちに気づきやすくなる手助けをしてあげるとよいでしょう。

「どれくらい怒っているか」を数値化する

子どもが怒りの感情をぶつけてきたとき、「怒っているな」とはわかっても、「どれくらい激しい怒りなのか」はわかりにくいものです。
そこで、お子さまが怒り出したら「10点が一番上だとしたら何点ぐらい?」などと質問して、怒りの強さを数値化するよう声をかけてみるのも効果的。
うまく点数で言い表せなくても、「何点ぐらいかな?」と考えてみることは、怒りの客観視につながります。
私たちは親子のためのアンガーマネジメントイベントも定期的に開催していますが、そこではお子さまに、怒りを「見える化」するためのさまざまなワークに取り組んでもらっています。
例えば、「自分の怒りの形をつくってみよう」と呼びかけて粘土を渡し、思い思いの形に仕上げてもらいます。
また、人間のイラストを渡して「怒ったとき自分はどんなふうになるか色を塗ってみよう」と声をかけ、カッと頭に血が上るなら頭を赤いクレヨンで塗ってもらう、といった感じで「見える化」を促すこともあります。
ちょっと考えたり作業をしたりするだけでも、お子さまは自分の怒りを客観視できるため、アンガーマネジメントに役立ちます。

何がイヤなのか、どうしたいのかを明確化する

お子さまが怒るのは、何かしらの理由があります。
ただし、それを言葉にするのはなかなか難しいものです。
そこで大切になるのが、お子さまが自分自身の怒りを明確にできるよう、保護者のかたが「何がイヤなの?」「どうしたい?」と質問を投げかけて、思いを明確化する手助けをしてあげること。
お子さまは質問に答えながら「自分はどうしたいんだろう?」と考え、思考を整理できるでしょう。

【保護者向け】子どもへの怒りをコントロールするには?

大人の場合、アンガーマネジメントにおいては、子どもよりロジカルに考えをまとめることができるのが特徴です。
子育てのさまざまな場面で、子どもの言葉や態度に怒りを感じたら、「~するべき」という考えをまず書き出してみましょう。
そのうえで、「どこまでなら許せるか」を検討してみることが大切です。
例えば「帰宅時間は守るべき」という考えを持っているなら、「5分過ぎるくらいならまあよい」「遅れそうなときは前もって連絡してくれればOK」といった許容範囲を考えてみることが大切です。
この繰り返しによって、自分の怒りに対するキャパシティーを広げられるでしょう。

まとめ & 実践 TIPS

お子さまも保護者のかたも、怒りに振り回されないためのスキルを身につけられれば、これからの人生で他人とよい関係を築きやすくなります。
今回ご紹介したアンガーマネジメントの手法を家族で繰り返し実践しながら、怒りを爆発させずに言うべきことを主張できる生き方を手に入れていきましょう。

プロフィール



一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事。アンガーマネジメントコンサルタント。新潟産業大学客員教授。
怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニング「アンガーマネジメント」の日本の第一人者。
アンガーマネジメントの理論、技術をアメリカから導入し、教育現場から企業まで幅広く講演、企業研修、セミナー、コーチングなどを行っている。
ナショナルアンガーマネジメント協会では15 名しか選ばれていない最高ランクのトレーニングプロフェッショナルにアジア人としてただ一人選ばれている。
主な著書に『アンガーマネジメント入門』(朝日新聞出版)、『アンガーマネジメントを始めよう』(大和書房)等がある。
著作はアメリカ、中国、台湾、韓国、タイ、ベトナムでも翻訳され累計 70万部を超える。

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