子育て中ついイライラ…どうすれば?専門家と考える「親子でハッピーになる」対処法と関わり方

  • 育児・子育て

子育ては思いどおりにいかないことばかり。ついイライラしたり、感情的になってしまったり、抑えられない感情に戸惑いを感じたことがある人は少なくないのではないでしょうか?
子どもに怒りをぶつけてしまい、自己嫌悪に陥ってしまうかたもいるかもしれません。
そこでこの記事では、子育て中のイライラに悩む保護者のかたに向けて、二人の専門家からアドバイスをいただきました。
『〈叱る依存〉がとまらない』などの著書で知られる臨床心理士の村中直人先生と、小学校教師としてペップトーク(シンプルな言葉でやる気を引き出す声かけ)を活用した授業を実践する乾倫子(いぬいみちこ)先生です。
言葉かけや接し方、視点を少し変えるだけで、保護者のかたもお子さまもハッピーになれるコツをご紹介しますので、参考にしてみてください。

この記事のポイント

子育てでイライラするのは本能!?  その怒りはあなたのせいじゃない

そもそも子育てにおいて、なぜイライラを感じてしまうのでしょうか?
村中先生は前提として、「イライラを感じるのは当たり前のこと」と説明。
「私たちがイライラするのは、総じて物事がうまくいかない時です。子育ては予想外のことばかり起こりますから、イライラしたりストレスを感じたりするのは自然なこと」
ただし、イライラを子どもに向けてしまう背景には、非常にやっかいな問題が潜んでいる、とのこと。
「近年の研究から、人はよくない行動をする他人に対して《処罰欲求》(相手を罰したいという欲求)を抱くものだとわかってきています。子育てにおいても、我が子が自分の期待と違う行動をした時、『子どもは間違っているから叱ろう』という処罰欲求をつい感じてしまうのだと思います。私自身も、このイライラにしばしば悩まされています」(村中先生)

乾先生も、「子どもは自分の思ったとおりに行動してくれなくて当たり前」と気付くのに時間がかかったと言います。

「私は、以前は『子どもは大人の言うことを聞いてくれるもの』という無意識の思い込みがありました。けれど、小学校の先生になって、児童と関わる中でもそうではないと気付き、また、自分の子どものイヤイヤ期が始まった時には、心底からつくづく子どもって大人の思うとおりに行動してくれないんだ、そして、それが当たり前なんだと痛感しました」

子育てでネガティブな感情を持つ人は多い

ベネッセ教育総合研究所が2023年3月に実施した「乳幼児の保護者のライフキャリアと子育てに関する調査」では、0~6歳のお子さまがいらっしゃる保護者のかた約5,800人に、子育てのイライラに関して質問しました。
その結果、「子どもがわずらわしくてイライラしてしまうことがある」という項目に「よくある」「時々ある」と回答した人の合計が、母親約6割、父親約5割みられました。
さらに、「子どもに八つ当たりしたくなることがある」という項目については、「よくある」「時々ある」の合計は、母親約6割、父親約4割でした。
子育ての中でネガティブな感情を抱く人は、少なくないことがわかります。

「乳幼児の保護者のライフキャリアと子育てに関する調査」集計表P17より

こんな時についイライラ……みんなの体験談

ここで、ベネッセが実施したアンケートの結果をご紹介しましょう。
小・中・高校生のお子さまがいらっしゃる保護者のかた約400名が回答したアンケートでは、「子育て中、どんな時にイライラを感じますか?」と質問を投げかけてみました。
特に挙げた人が多かったのが以下の4項目でした。

(体験談)

「〇時になったら宿題をしようね」と子どもと話し合って決めたのに、いざ約束の時間になってもダラダラしているだけで……。イライラしてつい怒ってしまいます。
(神奈川県・アッキャンさん 第1子は小学3年生)

持ち帰りの仕事が山積みな時に、子どもが入浴中に体を洗おうとしないので「寝かし付けの時間が遅くなる……」とイライラして、つい叱ってしまいました。
(岡山県・たかしさん 第1子は小学4年生)

寝付きが悪く、眠りも浅い子だったので、こちらも寝不足が続いてイライラ。優しく寝かし付けることができず、当時は自己嫌悪に陥る日々が続きました。
(奈良県・beniさん 第1子は小学4年生)

この結果を見て村中先生は、「『子どもが思いどおりに行動してくれない』以外の項目は、大まかにまとめてしまうと『保護者のかた自身がつらい』ということですね」と指摘。

「子どもが思いどおりに行動してくれない」時にイライラするのは、村中先生のお話から考えても自然なこと。
ただ、保護者のかたが体調不良や多忙などのために、余裕がないとイライラをうまくさばききれないのかもしれません。

※2023年11月に行った「保護者のかた向けアンケート」(393人回答)に寄せられた体験談をもとに作成。

もしイライラをぶつけ続けたら、子どもにどんな影響がある?

イライラして怒ってしまった時、「子どもによくない影響があるのでは……」と気になる保護者のかたもいらっしゃるのではないでしょうか。
「叱る機会が増えると、お子さまは大人の言い付けをよく守るようになるかもしれません。なぜならお子さまにとって保護者のかたは、絶対的な権力者だからです。しかし大人が叱れば叱るほど、子どもは自ら考えたり学んだりする機会を失うことになります。子どもは『何が悪かったのかわからないけれど、叱られるのは怖いから言い付けを守ろう』と考えるからです」(村中先生)

「叱られて行動するようになると、『言われたとおりにしたのにうまくいかなかった』時に、子どもの中に不満がたまっていくのも心配なところです。自分で決めて行動すれば、失敗しても納得感がありますよね」(乾先生)

加えて懸念されるのは、「子どもが自己効力感を持てなくなること」と村中先生は説明します。
「叱られ続けていると子どもは、心理学用語でいう《学習性無力感》を得てしまいます。私は『チャンスの扉を開けられなくなる』という表現をよく使うのですが、無力化されてしまった子どもたちは、目の前にさまざまなチャンスが用意されていても、どうせ無理だとあきらめてしまって、自ら行動を起こせなくなってしまうのです」

子育て中のイライラを少しでも手放すために何ができる?

子育て中に感じるイライラをゼロにはできなくても、自身の考え方やお子さまへの関わり方を少し見直してみることで、怒りを軽減することは可能です。
乾先生と村中先生に、具体的なコツを伺いました。

「親友だったら同じ話し方をする?」と考えてみる

乾先生のおすすめは、イライラを子どもにぶつけそうになった時に「もしこの子が自分の親友だったら、同じ言い方をする?」と自分に問いかけてみること。
「親友に対しては、相手の意思を尊重して自分の考え方を押し付けることはないはずです。我が子に対しても、相手をリスペクトする姿勢は大切だと感じます」

「思い込み」を問い直し、子どもと一緒にルールを決める

村中先生は、「自分が無意識のうちに決めたルールを問い直してみること」を提案。
「たとえば子どもが部屋を散らかしっぱなしにしてイライラを感じる時、『どのくらい片づいていればOKか』は保護者のかたが決めた基準であり、お子さまとその基準を共有できていないことが多いと思います。そこで私がおすすめしたいのは家族会議です。部屋の片づけや勉強時間などについて、お子さまと話し合いながらルールを決めるのです。お子さまが小学校低学年のうちは、保護者側からいくつか条件を提示して、その中からお子さまに選ばせてもよいでしょう。そのうえで『ルールを守れなければ叱らなきゃいけないからね』と予告しておきます。こうするとお子さまも、『ルール決定に自分の意見も反映されている』と納得感があるはずです」

さらに乾先生は、「ルールを守れたら子どもをほめることも大切」と強調します。
「たとえば『電車に乗っている30分間は静かにしていようね』と決めたとして、15分間静かにできたら、そこはしっかりほめてあげましょう。そのくり返しがお子さまの自己肯定感の向上につながります」

イライラの「前さばき」を意識する

事前にルールを決めておくことも含めて、イライラを感じそうなことを事前に予測し、対応策を打っておくことを、村中先生は《前さばき》と呼んでいます。
「たとえば、『15分じっとして話を聞くのは難しそうだから、15分後に怒ってしまうかも』など、どんな時にイライラしそうかを予測してみてください。そして、どうすれば怒りを爆発させずに済むか、対処法をお子さまに伝えたり、一緒に考えたりしてみましょう。こうした《前さばき》をどんどん取り入れ、積み重ねるうちに、イライラを感じる場面も少しずつ減っていくと期待できます」

つらい時は子どもに打ち明けてみる

保護者のかた自身の心身が疲れていると、お子さまを含むご家族に優しく接するのが難しいこともありますね。
乾先生は、「つらい状況を子どもに正直に打ち明けるのもよいのでは」と提案します。

「保護者のかたも人間ですから、体調が悪いこともあれば、ハプニングがいろいろ重なって混乱している時もありますよね。そんな時は無理せず、『パパちょっと疲れてるから、少し休んできてもいいかな?』『ママ、今手が離せないからお手伝いを頼んでもいい?』などとお子さまを頼ってみてもよいのではないでしょうか。きっと理解してくれると思います。それにお子さま自身も、家族の役に立てている実感を得ることができてうれしいと思うはずです」

「伝え方」を変える

村中先生は「子どもにイライラをぶつけたくなる気持ちはよくわかる」と肯定したうえで、ぶつけ方として「I(アイ)メッセージで伝える」ことをすすめてくださいました。
「たとえば部屋が散らかっている時、『部屋を片付けるって約束したのに、どうしてやっていないの?』と責めるのは、『私が決めた正義を守らないあなたが悪い』という権力者の伝え方です。一方で『部屋が片付いてないとお母さんがつらいから片付けて』は、保護者のかた自身を主語とする話し方で、《Iメッセージ》と呼ばれます。
伝えたい内容は同じですが、Iメッセージに変換することで保護者のかたと子どもの立場は対等になるため、お子さまも受け入れやすいかもしれません。私自身も、『イライラしても、せめて権力者の座からは降りて話そう』と心がけています」

【体験談】イライラしてしまった時、みんなはどうしてる?

続いて、保護者のかたが実践している「子育てのイライラ軽減法」もご紹介します。
「イライラがたまってきたかも」と感じたら、ぜひお試しください。

(体験談)

仕事と家事で疲れているのに、子どもが習い事に通うための送り迎えも重なってイライラ……。爆発する前に、夫と義母にSOSを出して代わってもらいました。一人で抱え込まないことを意識しています。
(埼玉県・サッカーさん 第1子は小学5年生)

子どもが小学生のころ、帰宅してもダラダラしてばかりなので「いつになったら宿題始めるの!」とキレてしまいました。それ以来、トイレでもいいからいったん一人になって心を落ち着け、できるだけ冷静に指摘するようにしました。
(静岡県・れおりんさん 第1子は中学2年生)

子どもが小さかったころは、買い物に連れて行くと騒ぐので怒らずにいられませんでした。ある日、「わざわざイライラの原因をつくる必要はないんだ!」と気付いて、両親に子どもを預けて出かけるように。1時間足らずですがよいリフレッシュになっていました。
(愛知県・アジアンタムさん 第1子は中学2年生)

もしイライラをぶつけてしまったら、子どもにどう接する?

イライラをぶつけないための考え方や接し方を心がけていても、怒りが爆発してしまうこともあります。
こんな時、どう対処すればよいでしょうか?

乾先生は、「とにかく子どもに謝るしかない」と力説。
「友達に対して怒りをぶつけてしまったら、謝罪しますよね。我が子に対しても、理不尽にイライラを吐き出してしまったと思ったら、素直に謝るのがベストだと思います。そして、家族の会話の中で『ありがとう』という言葉を増やしてもらいたいな、と思います」

村中先生は、イライラをぶつけてしまう深層心理に踏み込んで改めて対処法を解説。
「叱りたくなってしまうのは、『自分の考えが正しい。悪いのは子ども』とどこかで考えているから。でもお子さまからすれば、保護者のかたが急に怒り出したようにしか見えないかもしれません。そこで、イライラした時は『どんな環境ならこの事態が起きずに済んだか』『話し合ってどんなルールを決めておけばよかったか』を考えてみてはいかがでしょうか。その意味でも、定期的に家族会議をしてお子さまと一緒にさまざまなルールを決めていくのはおすすめです」

自分を責めすぎないことが大切

子育て中、つい感情的になってしまうことは誰にでもあると思います。
その際もご自身を責めすぎず、お子さまと一緒に対処法を見つけていくことで、家族みんなが笑顔になれる時間を増やせるといいですね。

プロフィール

村中直人

臨床心理士・公認心理師 
一般社団法人子ども・青少年育成支援協会代表理事
Neurodiversity at Work株式会社代表取締役
臨床心理士として教育分野などで活動し、児童・生徒や保護者の支援を行う。多様なニーズのある子どもたちが学び方を学ぶための学習支援事業「あすはな先生」の立ち上げ・運営に携わり、現在は「発達障害サポーター’sスクール」での支援者育成にも注力。著書に『〈叱る依存〉がとまらない』(紀伊國屋書店)、『ニューロダイバーシティの教科書—多様性尊重社会へのキーワード』(金子書房)がある。

プロフィール

乾倫子

香里ヌヴェール学院小学校専任教諭、一般社団法人ひとみらい共育LABO 理事
大阪府の公立小学校で20年間勤務後、シンプルな言葉でやる気を引き出す「ペップトーク」の考え方に共感して一般財団法人日本ペップトーク普及協会に所属し、現在は教育普及部副部長を務める。2019年からペップトーク実践モデル校で、自ら開発した児童・生徒向けの「ペップ授業」を展開する。著書に『やる気を引き出すペップトーク 幼児期から自己肯定感を高める言葉の力』(倉部雄大氏との共著・学事出版)がある。

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