「9月入学・新学期」に変わった場合 こんな制度にも影響を与えます (1)奨学金や入試はどうなる?

新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、入学時期、および新学期のスタートを「9月にしてはどうか」というテーマが議論されています。9月入学・新学期に変更された場合、関連する制度にはどのような影響が出るのかを、今回は考えてみたいと思います。

130万人が借りている奨学金はどうなる?

「9月入学・新学期」については、8~9年くらい前に東京大学が、9月入学を検討していることが話題になったのを記憶しています。グローバルな視点で考えると、入学時期が9月になることで海外の大学への留学がしやすくなり、留学生の受け入れもしやすくなるのがメリットとして語られていました。とはいえ、結果的に9月入学は実現していませんので、単独の大学における入学時期の切り替えは、課題が多いのだと感じました。

東京大学の話題以降、9月入学・新学期の話題が大きく取り上げられる機会はなかったと思いますが、今回のコロナウイルスの影響で改正されるとしたら、各方面に影響を与えるのは必至です。たとえば、多くの学生に影響を与える奨学金にも影響が出ると思われます。

日本を代表する奨学金制度といえば、何といっても、圧倒的に利用者の多い日本学生支援機構の奨学金制度でしょう。2018年度の数字で見てみると、第一種奨学金(無利子)の貸与者は54万8288人。貸与額は、3473億円を超えています。利息が付く第二種奨学金は、貸与者が72万7978人、貸与額は6400億円を超えています。
貸与型のほかに、給付型の奨学金を受給している人は2万273人、給付額は78億8852万円となっており、3つを合わせると、130万人近くが制度改正の影響を受けます。資金面でも1兆円に近い奨学金が貸与、あるいは給付されている計算です。

1兆円近いお金が動く奨学金制度で貸与や給付の時期がずれると、奨学金の原資となる資金の調達方法や調達コストなどに影響が出る可能性があります。貸与型の奨学金は、「卒業の半年後」から返還が始まりますが、9月入学・新学期になると、卒業も半年延長されるからです。制度改正が行われたとしたら、改正の初年度に卒業するお子さんたちは、返還のスタートが半年ずれます。そのお子さんたちから奨学金が返還されるようになるまでには、半年ほど空白期間ができることになります。

奨学金の給付・貸与スケジュールが変わる

すでに借りている奨学金についても制度変更の影響を受けますが、これから奨学金を利用して大学に進学しようと考えている家庭にも影響を与えます。たとえば、大学で奨学金を利用しようと思う場合、高校3年生の春に予約採用に応募するのが一般的です。これが9月入学になると、予約採用のスケジュールはずれ込むことが予想されます。

当初は、新学期がなかなかスタートできなかったことから、今年の9月から変更されるという報道が多くありましたが、5月下旬に入ってからは、新制度への改正は来年の9月からとする報道になっています。そのため来年、改正が実行された場合は、来年度の高校3年生から奨学金の申し込みや受給開始のスケジュールがずれ込んでいくことになります。

来年から受験時期が半年程度ずれ込めば、来年の高校3年生、および中学3年生は、受験準備の期間が長くなるため、塾の費用はかさむでしょう。また受験時期が変更されると、合格ラインなどの判定(予想)も変わる可能性があります。初年度の予想は例年通りにはいかないため、安全策を取って当初の予定よりも多めに受験をするなど、受験費用がかさむご家庭も出てくるはずです。

9月入学・新学期に見直された場合、予約採用だけではなく、入学後に奨学金の申し込みをする場合のスケジュールもずれこんでいきます。いずれにしても、入学時期が変更されれば、当初の数年間は奨学金の申し込みスケジュールに混乱が生じることが予想されます。そのため奨学金の利用を検討しているご家庭では、教育資金の準備と奨学金の借入プランについて、きちんと書き出して確認する作業が必要になります。
たとえば、学資保険から受け取る学資金の時期はいつなのか、保険証書を取り出して、きちんと確認する必要があります。いつの学資金でどの時期の学費を支払うのか、学資保険だけでまかなえない教育費はいくらになるのかなど、支払い計画を作成することが望まれます。

推薦入試を考えている場合、志望校の変更もありうる

一般入試だけではなく、推薦入試で大学や高校に進学する予定のお子さんについては、志望校の選び方にも影響を与えるかもしれません。新しい入学時期が今年の9月からではなく、来年の9月からになったとしても、推薦入試で大学に進学しようと思っている現在の高校3年生と中学3年生は、1学期の成績がどのように判定されるのか、不安に感じているはずです。
推薦入試にもちいる成績は高校3年生、あるいは中学3年生の1学期までの成績になるのが一般的です。ところが、「3年生の1学期でがんばって、評定平均を上げよう」と考えていたとしても、今年の1学期の成績については、通常と同じ評価が出るとは限りません。授業日数が少なかったり、慣れないオンライン授業に苦心したりするなど、「今までになかったこと」を経験しなくてはならず、教師側も評価がしづらいと思われるからです。

一般入試よりも入試のスケジュールが早い推薦入試を予定しているお子さんにとっては、「早く授業が再開してほしい」と願う気持ちが強かったのではないでしょうか。従来のように通塾で勉強するのも難しかったため、コロナ前に考えていた学習スケジュールがこなせなかったり、勉強に集中できなかったりするお子さんも多かったと思います。
現在高校3年生や中学3年生で、受験までの時間が少ない推薦入試を利用するお子さんにとっては、通常の授業がなかなかスタートできないのであれば、入学時期を9月に変更してもらったほうが、安心して受験期を迎えられると感じていたかもしれません。

今回は9月入学・新学期になった場合、関係の深い制度に与える影響を考えてきました。個人的には、9月入学・新学期については賛成でも反対でもなく、「不透明な部分が多くある」と捉えています。新型コロナウイルス感染症の影響は入学時期にさえ、さまざまな議論を呼ぶ形になっていますが、制度変更を行うとしたら、「付随する制度を整えるための時間」は、あまりにも少ないのが現実です。そうした「時間の少なさ」を克服し、9月入学・新学期への改正を決断するのであれば、付随する制度の改正についてもなるべく早い時点で決定し、認知を広めてほしいと考えています。

(筆者:畠中雅子)

プロフィール


畠中雅子

大学時代よりフリーライター活動をはじめ、マネーライターを経て、1992年にファイナンシャルプランナーになる。新聞・雑誌などに多数の連載を持つほか、セミナー講師、講演、相談業務などを行う。著書は、「ラクに楽しくお金を貯めている私の『貯金簿』」(ぱる出版)ほか、70冊を超える。

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