「探究的な学び」、学校でどう実践?岡田武史さんがFC今治高校で仕掛ける授業【インタビュー後編】

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2024年4月、愛媛県今治市に開校する「FC今治高校 里山校(以下、FC今治高校)」。学園長を務めるのは、元・サッカー日本代表監督でFC今治会長の岡田武史氏です。

当初は、「教育の素人」である自分が学園長を務めることに迷いもあったという岡田氏ですが、いくつかの経験やきっかけから「やるしかない」と決断。前編ではそのエピソードを中心に語っていただきました。(インタビュー前編はこちら

では、FC今治高校で実現したい教育、育てたい人物像は、どのようなものなのでしょうか。引き続き岡田氏にお聞きします。

新しい時代を切り拓く「ヒストリック・キャプテン」を育てる

「知識や論理では、人間は人工知能にかなわない。そういう時代に人間に大事なものは何か。そして、ロールモデルのいないこれからの時代を生き抜くために必要なものは何か……を考えた末に辿り着いた」というFC今治高校で育みたい資質・能力として、岡田氏は次の4つを挙げます。

「自ら考え行動する《主体性》、遺伝子にスイッチを入れる過酷な環境に耐える《精神的タフさ》、想定外が起きた時の《適応力》、そして、違いを受け入れ多様な仲間と協働する《コミュニティ形成力》。この4つを軸に、チームをぐいぐい引っ張っていくリーダーシップではなく、主体性を引き出しながら巻き込んでいくキャプテンシップを育んでいきたいのです。
このキャプテンシップを持ち、ロールモデルがいないなかでも新しい時代を切り拓いていける人物を《ヒストリック・キャプテン》と名付け、FC今治高校で育てたい生徒像として掲げています」

ヒストリック・キャプテンを育てるために重視しているのが、「エラー&ラーン」、つまり、「失敗から学ぶ」という環境です。


(資料提供:FC今治高校)

FC今治高校では、「実学」×「実践」を軸にしたカリキュラムで、生徒一人ひとりが「まずはやってみる」というマインドで自分の道を切り拓いていく力を育みます。その一つが、業界の最先端で活躍する特別講師による「ヒストリック・キャプテンシップ養成講座」です。

講師の一覧には、劇作家の野田秀樹氏、指揮者の佐渡裕氏、EXILEのHIRO氏など、その道の超一流の名前がズラリ。この講座の目的は「世の中にはいろんな人がいていろんな生き方や価値観があるんだ、成功者のように見える人にも苦労した時期や失敗体験があるんだということを、生徒にリアルに感じ取ってもらう」ことにあると岡田氏は語ります。

「注目してもらいたいから著名人にお願いしているわけではなく、『ぜひ生徒の前で話をさせてほしい』と連絡をくださるケースが非常に多いです。裏を返せば、このままの教育ではまずいんじゃないかと、うっすらと感じてきた方がいかに多いかということ。私自身、教育においては素人で、怖いものなしで踏み込んでみたら、思わぬ方向からみんなが乗っかってきてくれたんです」

学校の日常に、真の「探究的な学び」を

また、フィールドワークをベースにした探究的な学びも、FC今治高校の特色の一つです。

午前は校内で一般教科を学び、午後は学校を飛び出して地域へ。事業者を訪れたり、里山で農業や野外活動を行ったり、お遍路巡りをしたりと、さまざまな体験を通して自分の好きなこと、やりたいことを見つけ、主体的に学ぶ時間となっています。その一つが、「里山未来創造探究ゼミ」です。


1年生から2年生にかけては連携先の企業を訪れる(提供:FC今治高校)

「生徒は、自分で問題を見つけよと言われてもすぐには見つからないですし、探究したい課題があっても実際にどうやればいいか、すぐにはわかりません。これは当然のことだと思います。

里山未来創造探究ゼミでは、岡田メソッド(※「守破離」をもとにした自主性の育成法。詳しくはインタビュー前編参照と同様、1年次に《型》を習得します。2・3年次には生徒一人ひとりの興味・関心に応じたマイプロジェクトを立ち上げ、PBL(Project Based Learning:課題解決型学習)を進めていきます。FC今治高校では、1・2年次は寮生活で3年次には寮を出るのですが、今後は地域の空き家を自分たちで改修してみんなでルームシェアをする、といったプロジェクトなども考えられますね」

一方で、「いわゆる『探究的な学び』はPBLに限らないし、決まった型があるわけではない」と岡田氏。めざすのは、日常的に探究的に学ぶシーンがある学校だと言います。

「なんでこうなるんだろう、他のケースはどうなんだろう、ちょっと調べてみよう……と、疑問や違和感を起点に学びが自発すれば、十分に探究的な学びと言えるのではないでしょうか。つまり、先生が話すのをただ聞くという一方向の受け身な学びではなく、自ら学ぼうとする姿勢が大事なのではないかと思います」

生徒の主体性を引き出し、探究的な学びを生み出すために岡田氏がヒントにしているのが、横浜創英中学校・高校の工藤勇一校長が提言する、生徒への「3つの言葉」です。

「どうしたの? あなたはどうしたいの? 何か手伝えることはある?……質問はこの3つでいいんです。上から何かを与えるのでも手取り足取り教えるのでもなく、生徒と同じ目線で並走する。生徒が自ら育つ力を信じて、待つ。これが、これからの時代の新しい指導者像なのではないかと考え、私自身も含めて、FC今治高校ではこうしたあり方を実現していきたいと思っています」


FC今治のホーム「里山スタジアム」も貴重な学びの場となる(提供:FC今治高校)

覚悟を決め、勝負の3年間へ

学校設立の発表以来、教育業界や各種メディアで話題になることも多かったFC今治高校。数回にわたって行われた学校説明会にも、毎回、多くの保護者や生徒が参加しました。

しかし、今年行われた1期生の入学試験での合格者は定員割れ(※2024年2月・一次募集終了時点)。岡田氏は「正直、ショックだった」と振り返ります。

「事前に大きな反響があったぶん、思いのほか受験者数が少なく驚きました。でも、よくよく考えると、開校の発表から10か月ほどしか期間がありませんでしたし、『理念はわかるけど、まだ卒業生が出ていないし……』と様子見する保護者の気持ちもよくわかります。

吉田松陰が松下村塾を立ち上げた時も、志ある者よ集えと呼びかけたところ、最初は数人しか集まらなかったそうです。実際、入学が決まっている1期生には、何かに挑戦したいという意欲あふれる生徒、キラリと光る個性を持つ生徒が集まっています。

FC今治高校の取り組みには懐疑的な声もあります。でも、教育の慣習を破ろうとしているのだから、それくらいの覚悟はできています。勝負はここから。どういう教育をするのか、世間から良くも悪くも注目されているこれからの3年間が、肝だと思っています」


2024年1月に行われた一般入試の様子。
学力試験はなく、ワークショップなどで行われた(提供:FC今治高校)

本当の責任は誰にも取れない。だからこそ全力でやるしかない

では、3年間をFC今治高校で過ごした生徒の「その後」については、どのようなビジョンを描いているのでしょうか。「理想」と「現実的な予想」があると前置きしたうえで、岡田氏はこう語ります。

「3年間で自分が熱中できることを見つけて、起業、海外留学、大学進学……と自分で自分の道を切り開いていく、というのが理想です。もちろんそうあってほしいのですが、実際には生徒の多くが国内の大学に進学するのではないかと予想しています。

というのも、昨今は、学力に加えて生徒の主体性や学びへの意欲、人間性などを総合的に評価する総合型選抜を行う大学・学部が増えており、FC今治高校での学びはまさにこれにフィットするからです。私たちのほうから大学進学をすすめることはせずとも、自ら志望する生徒は多いのではないかと思っています」

最後に、4月の開校を前に意気込みをお聞きすると、「もうやるしかない。やるからには全力でやる」という力強い言葉が返ってきました。堂々と語る姿は、あのジョホールバルでの戦いの前夜を彷彿(ほうふつ)とさせます。

「なんせ教育に関しては素人ですから、本当にこれでいいのだろうかという葛藤は常にありました。でも同時に、このままじゃダメだという確信もあったんですよね。じゃあどうしたらいいか。僕自身もエラー&ラーンをしようと思ったんです。FC今治高校は、子どもだけじゃなく大人も、エラー&ラーンで行こうよと。大人の言うことが常に正しいなんて、そんなことはありませんよね。もし失敗しても、本当の意味での責任なんて誰にも取れません。それならば、全力でやるしかない。そう吹っ切れた時に、葛藤を乗り越えられました」

教育業界のみならず、社会から広く注目を集めるFC今治高校。思い切った挑戦により日本の教育に一石を投じることになるのか、その新しい歴史が、いよいよ4月に幕を開けます。

(インタビュー前編はこちら

ベネッセ教育情報「教育用語解説」では、本記事でご紹介した「探究学習」について詳しく解説しております。併せてご覧ください。
https://benesse.jp/educational_terms/17.html

プロフィール



1956年大阪府生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、古河電気工業サッカー部(現ジェフユナイテッド市原・千葉) に入団し、日本代表に選出。1990年に現役引退後、日本代表コーチなどを経て、1997年に日本代表監督に就任。W杯 フランス大会に出場。2007年に2度目の日本代表監督に就任し、W杯南アフリカ大会ではベスト16に導いた。2014 年、FC今治のオーナーに就任。2019年には日本サッカー殿堂入りを果たした。2024年4月開校のFC今治高等学校学園長に就任。

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