新時代のキーワード「探究的な学び」で育む「自分で考え、やってみる力」【筑波大学附属坂戸高校 本弓康之先生】

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2022年度から「総合的な探究の時間」が始まる高校では、「探究的な学び」がこれからの教育のキーワードとなっています。探究的な学びとはどのようなもので、何を目指しているのでしょうか。探究的な学びに先進的に取り組み、国際バカロレア(IB)コースでの指導も手掛ける筑波大学附属坂戸高校の本弓康之先生にお話しいただきます。

この記事のポイント

実社会で必須のスマホは授業で禁止すべきか?

これまでの学校と、これからの学校を考えるとき、変わる必要がない部分も、変わらないといけない部分もあります。「学校は、社会に出たときに役に立つことを学ぶ場である」という基本的な役割は、変わる必要がない部分の1つではないでしょうか。

社会に出て役に立つことを少しでも多く学ぶためには、学校が、実社会の環境に近ければ近いほど効果的なのは想像に難くありません。かつての社会は、パソコンも携帯電話もない中でコミュニケーションを図ることが当然で、決められたやり方を早く覚えて数をこなすことが成果とされ、それで日本経済が成長していました。学校もそうした社会の疑似環境として、紙と鉛筆を使った講義型の一斉授業は一定の意味を持っていました。

しかし、現在は異なります。スマートフォンやパソコンは仕事の必需品ですし、今までにない新しいものを、議論を重ねながら生み出していくことがより強く求められるようになりました。そのような状況で、スマートフォンの利用をやみくもに禁止したり、教師の話を一方的に聴かせたりするような授業は現在の実社会のありかたと乖離しています。普段の生活でも何かわからないことがあれば、かつては図書館に行ったり先生に聞いたりしていましたが、今はまずスマートフォンを出して調べると思います。学校での学びも、それが当たり前のようにできる状態であるべきです。

言葉の意味を調べるといった基本的な知識を得ることだけが目的であれば、最も効率的な方法で目的を達成すればよく、本校でも、生徒は授業中にスマートフォンやパソコン、電子辞書などを学習の道具として活用しています。学校が果たす役割は昔から変わっていなくても、変化する社会に合わせて学びの中身や方法も変わっているのです。

自分で考え、やってみる

単語の意味を調べるように、何がわからないのかが明らかで、何をすればわかるようになるのかがわかっていれば、それを行動に移せば事足ります。ですが、これからの社会全体を見渡すと、そうした「〇〇すればよい」「〇〇で△△という結果が得られる」といった既存のやり方や因果関係が通用しない状況になっています。新型コロナウイルスの世界的流行もそうですし、進化したAIとヒトとの関係はどういう状態が理想なのか、まだ誰にもわかりません。

そうした社会では、「自分で考え、やってみる」ことがますます大切になってきます。従来の教育でも大切にされてきたことですが、現在は、他者から言われなくてもやってみることや、そもそも何を考えればよいのかも自分で考えることなどが重視されています。高校の新しい学習指導要領のキーワードである「探究的な学び」はまさにこのことです。

学習グループが途中解消してしまっても、それも学び

本校は、総合学科(*)を設置する学校として、さまざまな科目を用意して、教育活動全体で探究的な学びを実践しています。

*総合学科は、普通教育を主とする学科である「普通科」、専門教育を主とする学科である「専門学科」に並ぶ学科で、普通学科と専門学科の両方の特徴を併せ持つ。1994年度から制度化された。

筑波大学附属坂戸高校の設置科目

例えば、2年生では、グループに分かれて自分たちで課題を見つけ、問題を解決するためのアクションを起こし、その結果をまとめて発表する「T-GAP」(つくさか・グローバルアクション・プログラム)という「総合的な学習の時間」があります。「運動が苦手な地域のお年寄りにもスポーツを楽しんでもらうためにどうすればよいか」「これから重要となるプログラミング教育を子どもに広めるための工夫」など、テーマはさまざまです。

「T-GAP」は、グループの結成から実際のアクションや発表まで、基本的にすべてを生徒に任せて行います。そのため、そりが合わずに途中で空中分解するグループや、準備不足で最後のプレゼンテーションが間に合わないグループも出てきます。しかし、目的は「自分で考えて、やってみる」こと。プロセス上は失敗とされることでも、想定外の問題を解決しようとしたり、思ったとおりにうまくいかずに後悔したりすること自体が新たな気づきを生み、自分がやったことに対する責任感への自覚を促し、将来につながる力となっていくのです。

国際バカロレアの目的は、語学習得や海外留学にあらず

すべてのカリキュラムが「自分で考えてやってみる」ことで成立しているプログラムが本校の国際バカロレア(IB)コースです。国際バカロレアと聞くと、「英語が喋れるようになる」「海外の大学にいきやすくなる」という印象を持つ方もいるかもしれません。しかし本来の目的は、世界の出来事に関心をもち、自ら課題を見つけてアクションを起こし、よりよい社会を作る人材を育成することです。英語の習得や海外大学への進学はそのためのツールでしかありません。教師も、決まったことを教えるのではなく、生徒が主体的に進める学びに対して助言しながら伴走することが基本的な役割となります。

ですから、本校のIBについては、生徒自身が安易な気持ちでは続きません。しかし、世界を見渡せばそうした国際バカロレアの学びが世界中で共通に行われていて、「自分で考えてやってみる力」は、グローバルに活躍するために必須の能力なのです。

社会や親の「当たり前」を子ども目線で考えてみる

最近、服装に関する細かな校則の規定を廃止しました。学校側からの発案ではなく、生徒から見直しを求める声が上がったことがきっかけでした。そこで我々も、これまで当たり前だったことに対して生徒が自ら立ち止まり、考える好機と捉え、「なぜ制服を着る必要があるのか」「なぜ髪の毛を染めてはだめなのか」など、生徒プロジェクトを立ち上げ、生徒にじっくり議論してもらいました。

結果、校則を改正しましたが、現在のかたちが正解かどうかはわかりません。まずやってみて、問題が生じれば再度議論する。そうしたプロセスも含めて、生徒だけでなく教師自身や保護者も、制服について改めて考えるよい機会となっています。今回は規律に関することでしたが、生徒だけでなく教師や保護者も、普段の生活の中でさまざまなことをゼロベースで考えないといけない時代に入ったのだと思います。

家庭でも、「社会の当たり前」や「親の当たり前」が、なぜそうなのか、本当にそうなのかを、ぜひ子どもと同じ目線で考えたり話したりしてみてください。そうして、子ども自身が問いをもち、自分なりの意見をもつためのたくさんのベースを作っていただければと思います。

(執筆/神田有希子)

プロフィール


本弓康之(ほんきゅう・やすゆき) 先生

筑波大学附属坂戸高等学校 国際バカロレア部主任。理科(物理・地学)、国際バカロレア知の理論(TOK)を担当している。2004年から同校に勤務し、国際バカロレアを含む探究的な学びに携わる。

筑波大学附属坂戸高等学校
筑波大学の附属学校の1つで総合学科であり、WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム構築支援事業の拠点校として現在指定されている。2017年には埼玉県内で初めて国際バカロレア(IB)認定校となる。

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