「給食はまるで修行」完食指導で登校さえも苦痛に 食の悩み、どう解決 #令和の子

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楽しいはずの給食や食事の時間が、苦痛を伴う時間になっている子どもたちがいます。「残さず食べよう」「好き嫌いはしないように」、よくある指導がプレッシャーとなり、人前で食べられない、学校に行くことまで苦痛となってしまうことも……。

給食や食事の時間を豊かで幸せな時間にするために、大人にはどのような対応や心がけが求められるのでしょうか。お子さまの給食への恐怖をきっかけに子どもたちへのサポート活動を行う鈴木さん(仮名)と、自身も会食恐怖症を経験し、子どもから大人まで幅広い食の悩みに向き合い続ける山口健太さんにお話を伺いました。

※写真はイメージです

この記事のポイント

帰りの会まで居残り…給食はまるで修行のよう

お子さまが給食を食べられずに悩んでいるという鈴木さん。お子さまは現在小学5年生ですが、その悩みは幼稚園時代から続いていると言います。

鈴木さん「登園が嫌だと泣くので、理由を聞くと『給食が嫌だ』ということでした。もともと小食で、離乳食もあまり食べない子だったため、給食では苦労するかもと思ってはいたのですが……。食べきれずみんなから見られることや、食べ慣れないものが出てくることもストレスに感じていたようです」

園の先生に相談したところ、園の方針で完食指導をしていたとわかりました。量を減らす対応はしてもらえたものの、残すことは受け入れてもらえなかったと言います。

鈴木さん「昼休みだけでなく、午後の活動まで居残りして給食を食べていました。一度は帰りの会まで残っていたことも。さすがにやりすぎだと思ったのですが、先生も園の方針があるため『残していいよ』とは言えなかったようで……。『他のお子さんも頑張って食べているので』とも言われてしまいました」

週に2日間のお弁当の日を活用しながら、ごまかしごまかし卒園まで乗り越えた鈴木さん。しかし、完食指導による悩みは小学校でも続きました。


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鈴木さん「事前に先生に相談していたため、量は減らしてもらえたのですが、完食を目指す方針は変わりませんでした。量を減らす際も、苦手なメニューだけでなく全てのメニューを一律に減らされてしまい、汁物は底が透けて見えるくらいだったと聞きました。少ない量の給食が変に見えてか、クラスメートの注目を集めてしまったことも娘にとってはつらかったようです」

「量を減らしたんだから食べられるよね」「小学生なんだから食べきらないと」といった周囲からのプレッシャーを感じて、給食をノルマや修行のように感じるようになってしまったとのこと。

部活の指導がきっかけで会食恐怖症になるケースも

給食に悩む子どもの姿を目の当たりにした鈴木さんは、教育者向けに給食指導の情報提供をする「きゅうけん」の活動に参加。編集長の山口健太さんは、自身も人前で食事ができない「会食恐怖症」の経験者です。現在まで、延べ5,000人の会食恐怖症に苦しむ人を支援してきました。そのきっかけは部活の指導にあったと言います。

山口さん「当時所属していた部活の合宿で、食べる量のノルマがありました。白米を朝昼は2合ずつ、夜は3合食べるよう指導されていたんです。でも、食べられなくて部員みんなの前で怒られてしまって……叱責された恐怖で『また怒られたらどうしよう』というプレッシャーに。吐き気や、嚥下(えんげ)障害といった体の症状まで現れるようになりました。」

食事への不安は、部活動の時のみならず、友人との食事にまで影響し、人との食事の機会を避けるように。自身の状態への違和感を覚える中、「会食恐怖症」という症状を知り、支援に携わりたいと思うようになったと言います。

山口さん「20代前半に参加したセミナーの講師から、『自分が情熱を持って取り組めることをやろう』と助言があった時、改めて自分の人生を振り返りました。その時に、会食恐怖症や食に関する悩みに苦しむ人のためだったら、情熱を持って取り組めると思ったんです」

山口さんは、活動の1つとして、給食指導に関する情報を発信する活動をスタート。「食べられないことはわがままではなく、子どもなりの理由がある。適切な支援を伝え、楽しく食べることを広げていきたい」との思いのもと、保育士や栄養士、カウンセラー、医療従事者などと情報発信に取り組んでいます。

給食が会食恐怖症のきっかけになることも

会食恐怖症に苦しむ人は、給食や部活など学校での指導がきっかけとなったケースが少なくありません。山口さんが代表を務める一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会が行ったアンケート(2019年11月実施)によると「完食指導や周りからの強要」が原因となった人が34.7%。そのうち、72.1%が「給食で先生から」と回答しています(※1)。

Q. 会食恐怖症の1番のきっかけとなったことを教えてください。

会食恐怖症の1番のきっかけ

● 完食指導や周りからの強要…223人(34.7%)
● その他、体調不良から…135人(21.0%)
● 明確には覚えていない…122人(19.0%)
● 自分や周りの嘔吐に関する体験…115人(17.9%)
● 周囲からの注目を浴びたことに関する体験…47人(7.3%)

Q.《完食指導や周りからの強要》と答えた方(223人)は、具体的にどのようなシチュエーションで、誰からでしたか?

《完食指導や周りからの強要》の具体的なシチュエーション

● 給食で先生から…161人(72.1%)
● 家族や親戚から…32人(14.3%)
● クラブ活動の指導者から…21人(9.4%)
● 恋人や友人から…2人(0.8%)
● その他…7人(3.1%)

会食恐怖症は、社会不安症という精神障害の一つとされています。子どもたちが毎日接する学校給食が苦手になり、交友関係や通学などに支障をきたす。そんな不幸が起こらないよう、どのような対応が求められるのでしょうか。

※1 【図解】先生でもわかる会食恐怖症 | きゅうけん|月刊給食指導研修資料
https://kyushoku.kyo-shi.co.jp/kaishokukyohu

学校現場も給食指導に苦慮する一方、変化の兆しも

山口さんによると、学校によっては、先生も給食指導に悩んでいるケースが少なくないといいます。

山口さん「ある中学校の先生は、自分のクラスの残食が多いと隣のクラスの先生から『多いですね』と指摘されるのがつらくて、残った給食を自分で食べているとお話されていました。子どもだけでなく、先生もプレッシャーを感じ、給食の時間がつらいと感じている実態があります」

残食ゼロというプレッシャーに晒されている先生の置かれている状況が、子どもたちを追い込んでしまっていないか、気になるところです。

都内の小学校で勤務経験があるかたによると、「先生も、非常に忙しいなかで給食の指導に悩みながら、子どものためを思ってルールを設定しています。また、給食指導をしっかりしてほしいという保護者のかたもいれば、自由でいいという保護者のかたもいる。その間で先生が苦しんでいるというのが実情です」

一方で、完食指導にも変化の兆しが見られるようになってきたと山口さんは指摘します。

山口さん「近年では、無理に食べさせないという指導に変わりつつあります。文部科学省も、苦手なものは段階的に勧めることを発信しています※2。食べられない子どもには量の調整も行っているケースが多くなりつつありますが、とはいえ『減らしたんだから食べなさい』というプレッシャーは依然として残っているようです。これまでよりは、1段階改善したからこその課題といえるかもしれません」

食べられない場合は、匂いをかぐ、ペロッとなめてみる、ひと口だけ口にするなど、「食べる前」にステップを設けて、できる部分まででよしとする。そんなスローステップを山口さんは勧めています。

前述の鈴木さんの子どもが通う学校も、給食指導に変化が見られるようになったと言います。

鈴木さん「校長先生が変わり、職員会議で『給食は楽しんで食べるもの。無理に食べなくていい』と明言されました。完食指導の問題がニュースになっていることも影響しているのかもしれません。子どもはまだ給食をノルマのように感じて苦手なままですが、給食の場自体は、嫌いという感情はないようです」

給食の苦手意識が消えたわけではないものの、家では用意が難しい料理を食べる機会があるなど、家庭ではできない食の広がりを持てるよさを感じることもあると言います。

※2 参考:食に関する指導の手引-第二次改訂版-(平成31年3月)第6章 個別的な相談指導の進め方 「偏食のある児童生徒」の項|文部科学省
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2019/04/19/1293002_9_1.pdf

誰もが「食べることが好き」なわけではない

完食を絶対とする風潮は、私たちが持つ固定概念も影響していると山口さんは指摘します。

山口さん「食欲は人間の三大欲求。だからこそ、食べることはできて当然という考えにとらわれているケースもあると思います。食べ盛り、成長ざかりの子どもは、なおさら食べることが好きなはず、給食は子どもにとって楽しいものと決め付けていることもあるのではないでしょうか」

実際、一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会が2020年に行ったアンケート調査によると他人と食事をするのに苦手意識がある人は約半数(かなり苦手意識がある12.1%、やや苦手意識がある35.1%)(※3)。

山口さん「苦手意識がある子どもにとっては、食欲よりも苦痛を回避するほうが強い欲求。まずは、残しても怒られないなど、不安を取り除いてあげることが先決です」

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前述の鈴木さんも「食べることは好きなはず」「食べないことはわがまま」という固定概念に親子ともに苦しんだと言います。

鈴木さん「食べさせることに、先生も保護者も必死になりすぎているのかもしれません。苦手なことは無理に指導するものではないし、アレルギーや発達障害など明確な理由がないと許されないという点も疑問です。
給食にこだわらず、その子の状況に応じて給食か、お弁当にするのかなど、柔軟に選ぶことができてもいいのではと思います。」

※3 【図解】給食が「かなり苦手」な子どもの心境とは?クラスに約4人も | きゅうけん|月刊給食指導研修資料
https://kyushoku.kyo-shi.co.jp/nigatenako

子どもの幸せな食事を守るために

給食の悩みを通じて、食事そのものだけではなく、それに付随するあらゆる活動が苦痛を伴うものになることを鈴木さんは懸念しています。

鈴木さん「娘は給食が苦手で園や学校に行きたくない、と言いました。逆に言えば給食の悩みがなければもっと楽しく通えていたかもしれません。それってすごく悲しいですよね。食べられないことが原因で、他のことが経験できなくなったり、楽しめなくなったりするなんて……。毎日給食の事ばかり心配しているこの子は、一体何のために学校に行っているのか? と本当に何度思ったかわかりません。

今思うと、娘がほしかったのは、食べられなくても大丈夫、責められないという安心感だったのだと思います。その安心感があれば、必ず子どもは『苦手にもちょっとチャレンジしてみようかな』という気持ちが出てくるのではないでしょうか」

鈴木さんは、発達支援員としての勤務経験も持っています。学校現場で先生が苦慮する姿も目にしているからこそ、給食指導についての情報を発信する山口さん主宰の「きゅうけん」の活動にも携わるようになりました。

鈴木さん「先生たちだって一生懸命です。でも、食べられない子に対して具体的にどうしたらいいのかがわからないから、こんな悩みや悲しい状況が起きるんだと思います。だからこそ子どもに関わる大人の考えから変えていかなければ、という思いでした。給食の時間は、誰にとっても楽しい時間になってほしい、ホッと安らげる時間であってほしいです」

山口さんも保育園、幼稚園、学校、部活動など、さまざまな場面での「食べられない子」への誤解を解きたいとの思いを強くしています。


山口さん「食べられない子どもたちへの適切な対処が広まることで、給食は食べる楽しさを知る場所になります。食べることは楽しいという感情を体験することが、社会の幸せをつくると信じて活動していきます」

まとめ & 実践 TIPS

「食べられない」に対して、気持ちに寄り添ってあげること、細かなステップを準備してあげること。それがプレッシャーを減らし、結果として食べられるようになる環境を整えることにつながるかもしれません。食べることを楽しむ子どもが増えることで、社会の幸せを増やしていきたいですね。

※この記事は、ベネッセ教育情報とYahoo!ニュースの共同連携企画です。

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