「不登校は勉強の遅れが不安」。子どものタイプに合わせた学ぶ環境づくりとは
- 育児・子育て
学校に行かないことで生じる子どもの勉強の遅れは、子どもにも保護者にとっても大きな不安のひとつです。「高校進学や将来の選択肢が狭まるのではないか」という心配もあることでしょう。不登校であっても学びを止めないためには、どのような工夫ができるでしょうか。不登校になったさまざまな背景を理解すると、子どもの特性がわかってきます。その特性に合わせた学び方について紹介していきます。
学校に行かなくなった理由から、子どもの特性に合った学び方を考える
不登校となる理由は子どもそれぞれで異なります。担任の先生と相性が合わなかったり、友人関係のトラブルや学校生活のストレス、学業のプレッシャーなどが挙げられます。また、「学校の授業についていけない」、「集団生活が苦手」といった理由も少なくありません。こうした背景を理解することで、子どもが学校に行かないことを否定せず、「どういう配慮をしたら子どもが自由に学べるだろうか?」と対応策を考えることができます。
学校に行かない期間の子どもは、一見なにもしていないようでも自分のペースで興味のあることを見つけたり、自分自身について考える貴重な時間を過ごしたりしています。その観点では、学校教育による一律的な授業から距離を取り、子どもが自由に知的好奇心をはぐくめる期間とも考えられます。保護者もこのとき、これまでの学校教育が提供する一律的な「学び」から、解釈を拡げることが必要となっていきます。
ここで重要となるのが、子どもそれぞれの「不登校になった原因」から、「子どもの持つ特性」を理解することで、それに合った学び方を模索することです。たとえば、教室の音がうるさくてつらいという理由があれば、感覚過敏やHSP(Highly Sensitive Person)の特性が関係している可能性があります。このように、理由と特性をつなげて考えることで、子どもに適した学び方を見つけるヒントが得られるでしょう。
「遅れを取り戻す」から「個別最適な学びへ」発想をシフトする
ベネッセ教育情報の「不登校・通信制高校」教育スペシャリストである上木原 孝伸氏は、「一般的に算数の割合の概念は小学4年生で習うが、6年生になっても理解が難しい子もいる。けれどその後、中学2年生でわかるようになる子もいるなど、子どものペースが一律的な教育と合っていないだけで、時間を経て理解する子どもは実は多いものだ」と言います。子どもが学校に行かなくなる理由は冒頭で示したとおりさまざまですが、学校という場・環境や授業の進み方に特に適応できないケースがあるのです。以下に特徴的な例を挙げてみましょう。
発達に特性がある子どもの場合
発達に特性がある子どもは、集団生活や一律的な授業に適応しづらいことがあります。たとえば、注意欠如・多動症(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)の特性を持つ子どもは、学びのペースや方法を個別に調整する必要がある場合があります。
HSP(Highly Sensitive Person)の子どもの場合
感受性が強く、周囲の刺激に敏感なHSP(※注)の子どもは、教室の騒音や人間関係のストレスが原因で学校に行けなくなることがあります。光や香りもストレスの原因になるなど、特性に合わせた環境で学べる方法を検討することが大切です。
起立性調節障害がある子どもの場合
自律神経の乱れによって現れる起立性調節障害は、特に思春期の子どもに多く見られます。強い倦怠感や朝起きられなくなることから、学校の時間割に合わせることが困難となります。体調に合わせて柔軟に学べる方法を選ぶことが重要です。
学校と家庭で連携し、学びやすい環境をつくることもできる
現在は特別支援学校やフリースクール、オンライン専門の学習塾などといった、学校外で学ぶ方法も多様化しています。地域の教育相談窓口や不登校支援団体では、子どもの特性に合った学び方や進路について相談ができます。一方で、現在通っている学校と相談をして、子どもに配慮した学習環境をつくりだすことも大切な視点です。保護者から学校側へ相談し、こうした環境づくりも検討していきましょう。
集団行動が苦手な子どもへの配慮
集団行動が苦手な子どもが教室での授業に大きな負担を感じている場合、学校内での別室学習を検討するのもひとつの方法です。たとえば、保健室や図書室など、静かで落ち着ける環境で学ぶことも有効ですし、学校側に相談して、授業内容を録画してもらい、自宅で学習することができたケースもあります。こうした環境の調整により、子どもが安心して学びを続けることができます。
HSPの子どもに適した学び方
音や光、香りなどの刺激に敏感で教室の環境がストレスになっているHSPの子どもの場合も、別室学習は有効です。静かな環境で学べるオンライン授業や個別指導は適しており、家庭で学習する際は、子どもがリラックスできる環境を整えることが重要です。好きな音楽を流したり、香りのない空間をつくることは集中力を高めることにつながります。
起立性調節障害の子どもへの学びの工夫
起立性調節障害の子どもは体調に合わせた柔軟な学び方が必要です。症状が落ち着く夕方以降に学習時間を設けることで、集中力を高めることができます。学校の授業に参加するのが難しい場合には、体調の良い時間帯にオンライン授業や家庭教師を活用することも有効です。また、特定の科目や時間帯だけ出席をするなど学校と相談して進めることも良いでしょう。
学校や医療機関との相談・連携は積極的に行うことが有効
子どもの特性や状況を学校に伝えることは、適切な支援を受けるための第一歩です。必要な場合は医師の診断書や治療計画を学校に提出し、子どもの状態や必要な配慮を具体的に伝えましょう。これにより、学校側が子どもの特性に応じた対応を検討しやすくなります。
学校との連携によって、遅刻や早退を許容する、別室登校を可能にする、オンライン授業を活用するなどといった柔軟な対応ができるようになります。これらの選択肢は、子どもの体調や特性に合わせた学びを実現するための有効な手段です。
また、担任の先生や養護教諭、スクールカウンセラーなど、学校の教職員と連携を取り、子どもの状況を共有することもとても大切です。教員との連携を深めることで、子どもが安心して学べる環境を整えるだけでなく、精神的なサポートも受けられるようになります。また、学校側が子どもの学びを支えるための具体的な計画を立てる際にも役立ちます。
とはいえ、「学校の先生に、うちの子だけの特別な対応を相談することは気が引ける」という意見はよく聞かれます。ですが、遠慮する必要はありません。2016年に制定された教育機会確保法 では、不登校の児童生徒への支援において個々の状況に応じた対応を求めているからです。
この法律では、不登校を単に「学校に行かない」という状態として捉えるのではなく、さまざまな要因によって学校に通うことが困難な状況にある児童生徒全体を支援対象としています。これにより、学校復帰だけでなく、家庭学習やフリースクール 、教育支援センターなど、多様な学びの場を提供することが重要視されているのです。
子どもに合った学びの環境をつくるために
このように、保護者が学校側に相談し子どもに合った学校環境の整備や柔軟な対応を求めることは、子どもの学びを支えるために大切なことです。子どもの特性や状況を伝え、学校側と協力して学びの環境を整えていきましょう。反面、相談すること自体に不安を感じている場合には、一度に解決することを目標としないことも大切です。
子どもが安心して学べる環境をつくることは、今だけでなく将来の社会的自立を支える基盤ともなります。学校や医療機関、教育支援センターなどの関係機関と連携しながら、子どもに合った学びの方法を模索することで、自己肯定感を高め、進路選択の幅を広げることができます。子どもの特性を理解し、最適な学びの環境をつくるために考えていきましょう。
※注「HSP(Highly Sensitive Person)」は、医学的な診断名ではなく、心理学的に提唱された生まれ持った感受性の傾向に関する概念です。医療行為や診断を意味するものではありません。
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