わが子を「不登校の子ども」ではなく、どんなことが好きで得意か説明できる?【椎名先生の「不登校ライフ」カウンセリングルーム #3】
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椎名 雄一先生(一般社団法人日本心理療法協会代表理事)による、不登校のお子さまの保護者のかたより寄せられたお悩みにズバリお答えいただく『椎名先生の「不登校ライフ」カウンセリングルーム』。中学3年生にとって夏休み前のこの時期は、進路や将来についての話題が増え、周囲の動きが気になりやすい時期です。不登校のお子さまのいるご家庭では、「何も動き出せていない」「子どもが将来について考えられない」といった悩みや焦り、不安を抱えることも少なくありません。
今回は、同級生や周囲の動きに焦りを感じるなかで、保護者としてどのようにお子さんと向き合い、どんな視点を持つことが大切なのか。椎名先生が、保護者の心に寄り添いながら、具体的なアドバイスをお届けします。
高校受験を見据えて動き始めた同級生、何もしない不登校のわが子はこのままでいいの?焦る保護者からの相談
保護者からのご質問
中学3年の息子が、ずっと不登校です。
最近、同級生の親から「もうA高校の説明会に行ったよ」「塾はどこにした?」などと聞かれることが増えてきました。
うちは何も動き出せていない状態で、話題に出るたびに焦りと不安でいっぱいになります。
息子はまだ将来のことなんて考えられない様子です。
でも、私だけ何もしないのも怖い気がして…。
(ご質問は過去に椎名先生に届いた内容を要約したものです)
椎名先生の回答
不登校の期間には、子どもの状態が変わらないように見えることから、「むだに時間を過ごしているのでは」と感じてしまうこともあるでしょう。保護者は、子どもが中学3年生ともなれば高校進学を意識するため、「なにか未来につながる行動ができればいいのに」と思い悩むものです。
しかし、変化を起こすための対策は、決まった一手で完結するものではありません。小さな一手一手を積み重ねていった先に、ようやく出口が見えてくるものです。膠着したように見える現実から変化を起こせている保護者は、目の前のことだけでなく、全体をストーリーとして捉えているものです。
わが子の現状や性格、状況について分析できているか?対策をストーリーで考えるために
不登校の最初のうちは、保護者も子どもも混乱しているため、まずは変化を起こすよりも落ち着くことが大切だと考えます。でも、会話ができるようになってくると、今度は大事にすべきことが変わってきます。そして進路を決める時期・段階が近づいてくると、また大事なことが変わり、やらなければならないことが出てきます。
そんなアップダウンのストーリーの最後に、子どもは「今日から学校に行く!」であったり、とにかく何かしら行動しようと決意する場面が訪れるのです。
カウンセリングをしていると、我が子のことを説明せず、状況もあまり分析していない状態で「どうしたら良いでしょう?」と尋ねる保護者が実に多いのです。
「中3の1学期から不登校で発達障害と医師には言われています。どうしたら良い?」
この相談を要約すると、「現状や子どもの性格などは説明できません」が「不登校対策の答え」を教えてください、というようなものなのです。
ご相談いただいた質問も、その視点で読み返してみると、「我が子以外の同級生の動き」や「不安でいっぱいな親の気持ち」がほとんどで、どんなお子さんなのかがまったくわかりません。「動き出せていない」しかヒントがありません。もしこれに対して「こうしたらいいですよ」とアドバイスをするとしたら、相手が誰であっても、どんな個性を持った子どもであろうと、みんな同じ対応でよい、ということになります。そんなこと、あり得ませんよね。
すべての子どもに共通するたったひとつの対策などない。第一に知るべきは、「子どもはどういう子なのか」ということ
子どもそれぞれの持つ個性や、彼らが関心を持つ対象は実にさまざまです。地図が好きな子やリズム音楽が好きな子もいれば、同級生と接するより大人と過ごす方が心地良い子どもなどがいるわけです。そのなかで「うちはB塾に入った」と聞いて不安になる保護者の方もいらっしゃいますが、お子さんによって歩み方のペースも方法も、本当にさまざまなのです。
それを「7月だからもう具体的な進路を決めないと」と、みんながそうしているからという理由だけで押しつけても無理があります。そうではなく、肝心のお子さんはどんな個性や特質があって、どういうことが好きなのでしょうか。また、どんなサポートをするとどういう反応がありますか?そうしたことにもっと保護者は関心を持つべきで、まず第一に知るべきは、お子さんがどういう子なのか?この点に尽きるのです。
不登校対策を一手で解決しようとする保護者ほど、「まわりがやっているから」の落とし穴に落ちます。
すると、「1ヶ月で再登校できるようになりますよ!」などの、都合がよいキャッチコピーにすがりついてしまい、保護者は自分の子どもには合わない対策を強要しようとしてしまうのです。
他の子どもの情報を聞いて焦ったり、不安になる気持ちはよくわかります。100%それを打ち消すのは難しいことです。でも、お子さんのタイプが「まわりと異なるペース」である可能性があることを必ず確認してほしいのです。
まず目指したいのは、このような相談をする時に「我が子はこういう人物に憧れがあり、ゲームではこんな立ち回りが好きで、これにこだわり、好きなことはこれで、嫌いなことはこれ……。」と、お子さんだけの特徴を多ければ多いほど、先に話せるようにしておくことが大切です。「うちの子は不登校で」と自己紹介する保護者が多いですが、お子さん=不登校などということは絶対にありません。それは保護者の観察不足だとは言えないでしょうか。
「不登校」や「発達障害」という切り口でしか見えていない場合は要注意。大人が子どもを枠にはめて見ている可能性
「我が子=不登校」ではなく、「我が子=サッカーが好き(特に某人気サッカーマンガの主人公のキメ台詞が大好きで…)調子が良い時には視野が広くて、全体のバランスをとるようなポジションで力を発揮していました。FPS(一人称視点のシューティングゲーム)をする時にも指示をする場面が多かったし、特にチーム対戦型ゲームではこういった傾向があり……、料理を手伝ってくれることも良くあります。特に餃子や生春巻きなど自分らしい包み方を楽しむようなところがあります。小学校の頃は……(略)。」その果てに、「そして、不登校でもあります」ということなのです。
不登校しか特徴がない子などいません。少なくとも100個の特徴のかたまりがそのお子さんだとしたら、「不登校」という切り口や「発達障害」という切り口でしか見ない周囲の大人は、その枠にはめようとしているかのようです。
「将来について考えられない」のは実は保護者。将来とは「どのように生きるか?」の先にあるもの
そうならないためには、「不登校を克服した高校生、大学生、保護者」の話をストーリーで聞いてみてください。不登校から抜け出すために人気マンガが大活躍し、ゲーム友達が良い刺激をくれ、料理がリハビリとして最適だった。ということは少なくないからです。
改めてご質問にお答えすると、「将来について考えられない」のは保護者の方です。将来とは大学名や職業名ではありません。将来とは「どのように生きるか?」「何が好きで嫌いなのか?」「どんな自分が好きなのか?」の先にあるものです。
そんな価値観は、不登校の苦しみからも生まれますし、ゲームをしていてもアニメを見ていても生まれてきます。今、目の前のお子さんの喜びや葛藤、こだわりこそが将来を示しています。そうやって人生に触れているお子さんに「何もしていない」と言ってしまうのはなぜでしょうか?それは学校の言う通りの作業をすることが「何かをしている」と考えて、そこで止まっているからかもしれません。不登校という側面以外のお子さんを、まず思い出したいですね!
どんな状況でも、お子さんのなかには必ずたくさんの魅力や可能性が眠っています。焦りや不安を感じる日々もあるかもしれませんが、表に見える一面だけでなく、ぜひお子さんの「好き」や「得意」「こだわり」に目を向けてみてください。保護者の方がその個性を認め、寄り添うことで、きっとお子さん自身も少しずつ自分の未来を描けるようになります。どんな歩みでも、必ず意味があり、希望につながっています。ご自身とお子さんを信じて、一歩ずつ進んでいきましょう。
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