不登校の子どもを支える「第三の居場所」って? 心の回復と自己肯定感を養う
- 育児・子育て
「学校に行けない、教室に入れない…」
悩む我が子の姿に心を痛め、今後どのようにしたらよいのか、戸惑う保護者の方は非常に多いことと思います。
こんにちは。ベネッセ教育情報で不登校通信制高校領域を担当している上木原 孝伸(かみきはら たかのぶ)と申します。
上記のような保護者のかたに、お伝えしたいことがひとつあります。
じつは、私自身は、「行けない」のではなく「行かない」とお子さま自身が決めたことは、むしろ今後の歩みにおいて一歩前進だと受け止めています。
なぜなら、この一歩の先に、家庭でも学校でもない「第三の居場所」を持つことが、子どもの心の安定や成長にとって、大きな意味を持つからです。
この記事では、不登校の子どもたちが自己肯定感を育み、自分らしく生きる力を取り戻すために必要な「居場所」についてお伝えします。さらに、そんな子どもを支える保護者の方自身の心のよりどころとなる場所についても、具体的な選択肢とあわせてご紹介します。
学校内の教室以外でも居場所をつくれる工夫をする
学校と距離を置いた子どもにも、「心から楽しめる場所」や「ほっとできて、自分らしくいられる居場所」があることで、さまざまな経験を重ね、自己肯定感や心の安定を育むことができます。
学校は、学齢期の子どもにとってひとつの居場所ではありますが、すべての子どもにとって機能するとは限りません。中には、「教室には入りづらいけれど、学校には行きたい」「授業はつらいけど、学校という空間は嫌いじゃない」と感じている子もいます。
そうした子どもにとっては、保健室や図書室、スクールカウンセラーの相談室など、教室以外の校内の場所が居場所になることがあります。また、自治体や学校によっては、教室に入りづらい子どもを対象とした校内フリースクールやサポートルーム、あるいは「学びの多様化学校」といった新しい形の学びの場が設けられており、「そこなら通いたい」と感じる子もいます。
さらに、学校に代わる学びの場として、自治体が運営する教育支援センター(適応指導教室)や、民間のフリースクール・オルタナティブスクールなどもあります。塾や家庭教師、児童館、習い事なども、関わる大人と信頼関係を築ける場であれば、子どもにとって大切な居場所となり得ます。
同世代が集まる場だけが子どもの居場所ではない
子どもの居場所について考えるとき、多くの保護者は「学校に近い場所」がふさわしいと感じるかもしれません。けれど、実際に子どもの声に耳を傾けてみると、学校に通っている同世代のなかにいること自体がつらい、という子もいます。
「自分は学校に行っていない」という事実を常に意識させられてしまう環境は、かえって心の負担になることがあるのです。
また、なかには同年代よりも、年齢の離れた人のほうが話しやすいという子もいます。
私自身も、どんな場所が子どもにとっての居場所になるのかを考えて調べていくなかで、「学校に似たような場所」という枠にとらわれずに視野を広げてみると、意外と多くの可能性が見えてくることに気づきました。
たとえば、地域のSNSグループや自治体の掲示板を使って、次のような場所が近くにないか調べてみるのもひとつの方法です。
また、「こども食堂」のような地域活動は、自治体の社会福祉協議会などが連携して運営していることも多く、そこから情報や支援につながることもあります。
こども食堂
経済的に困難を抱えた子どもに低額で食事提供を行うだけでなく、孤食の解消や多世代交流などさまざまな地域課題を解決する「地域の居場所」の機能も持っていることがあります。食事提供を受けるだけでなく、調理や配膳の手伝いなど運営側のボランティア参加の機会も得られます。
プレーパーク・冒険遊び場
「自分の責任で自由に遊ぶ」をモットーとした遊び場です。木に登ってみる、遊具を工作してみるなど、子どもひとりひとりの「やりたいこと」を尊重する場であるプレーパーク。一般的な遊び場や公園と違って、利用者の交流が生まれやすく「ここで出会った友だちは学年を知らないからいい」と言った子もいて、特に平日日中は親子とも交流が生まれやすいです。
多世代交流拠点(コミュニティカフェ)
地域で居場所を求めているのは、子どもだけではありません。高齢者や障害のある方、子育て中の家庭や単身者など、さまざまな立場の人がふらっと立ち寄り、交流しながら安心して過ごせる場所として、地域には「多世代交流拠点」がつくられつつあります。
形はさまざまで、たとえばこども食堂をきっかけに世代を問わず利用できるようになった場、地域の空き家を活用したカフェや、介護施設や福祉拠点が定期的に地域に開放する取り組みなどもあります。
「自分だけ浮いていないか」「どう接すればいいのか」と周囲を気にして話しかけづらくなってしまう子にとっては、世代の違う人たちが自然に混ざる場のほうが、かえって居心地がいいということもあります。気負わずに過ごせる居場所として、こうした場もひとつの選択肢です。
子ども向けの地域活動
地域有志による団体が開催する子ども対象の体験提供やワークショップや交流の場開催も定期的に行われているものは居場所のひとつになり得ます。重ねて参加することで、共に参加する子どもだけでなく、運営スタッフとの交流も生まれます。運営スタッフと距離が縮まってくれば、自分より小さい年齢の子のサポート役になったりすることで、自己肯定感が芽生え、自信につながります。
これ以外にも、近所のなじみの店が居場所となり、お店の手伝いを通じて、さまざまな体験をしたという子もいます。どれが子どもに合うかは実際に足を運んでみないとわかりません。「これなら行きたい」と思えるような敷居の低い居場所が実は身近にあったりします。
ここで大切なことは大人が無理やり引っ張るのではなく、子どもの内なる声を待つ、ということかもしれません。
多様な出会いと体験が育む力とは
不登校の子どもたちのなかには、「学校に行けない自分はダメなんじゃないか」と、自分を責めてしまう子もいます。
けれど、「ここなら安心できる」「誰にも否定されない」と感じられる場所に出会うと、子どもは少しずつ変わっていきます。そこにいる大人が、目を見てちゃんと話を聞いてくれたり、ただそばにいてくれたりするだけでも、「この人は自分の味方かもしれない」と思えるようになる。その実感が、居心地のよさにつながっていくのです。
「自分は受け入れられている」と感じられたとき、子どもはほんの少し、自分を信じられるようになります。これまで自分に向けていた責めの気持ちがやわらぎ、やがて外に向けて、誰かに話しかけたり、自分の思いを伝えようとしたりするようになります。その小さな変化が、次の一歩を踏み出す力になるのです。
それだけでも十分に意味のあることですが、居場所で得られるものはそれだけにとどまりません。そこにいる人たちと一緒に何かを決めたり、活動したりするなかで、「自分は何をしたいんだろう?」「これ、ちょっと面白いかも」と気づくこともあります。
そうした経験の積み重ねが、自分の「好き」や「得意」に気づくきっかけとなり、やがて将来の道を考えるうえでの大切なヒントになっていくはずです。
また、年齢や背景の異なる人たちと話すなかで、「学校だけがすべてじゃないんだ」「こんな生き方もあるんだ」と、世界が広がっていくこともあります。最初は戸惑いながらでも、そうした出会いを重ねていくうちに、子どもの中に少しずつ確かな力が育っていきます。
実は、同じ地域に住む同じ年齢の子どもたちだけが集まる学校よりも、異なる世代や価値観の人たちと関われる場のほうが、社会により近い環境とも言えます。そこで育まれる、異なる文化や考え方を持つ人と対話する力は、これからの社会で何より大切なものであり、きっとその子にとって一生の宝になるはずです。
保護者のかたも、自分が安心できる「居場所」を見つけよう
不登校の子どもを支える親御さんもまた、ひとりで悩みを抱えてしまいがちです。
毎日、子どもの様子を気にかけながら家の中で過ごしていると、だんだん自分の気持ちが追いつめられてくることがあります。
「ずっとこのままだったらどうしよう」「私は何をしてあげられているんだろう」——そんな不安が、知らないうちに膨らんでいくのです。
そして、気づかないうちにその不安を、つい子どもにぶつけてしまうこともあります。
「もういい加減にして」「いつまで寝てるの?」——そんな言葉を口にしては自己嫌悪に陥る。そんな繰り返しに、苦しんでいる親御さんの悩みも今まで数多くお聞きしました。
だからこそ、保護者の方にも、安心できる「自分の居場所」が必要です。
誰かと気持ちを共有できて、少しだけ肩の力を抜ける場所。
不登校の子どもを持つ親特有の悩みや不安は当事者同士でないと話しづらかったり、理解してもらいづらかったりすることもあります。そんなときは当事者が集まる場に参加してみるのをおすすめします。
不登校の子どもを持つ「親の会」は全国各地にあります。「”明日は学校に行く”と言うので段取りをしたものの、朝になるとやっぱり行けない」など不登校の子どもの家庭でよくある困りごとに「うちもです!」と共感の声が返ってくる。
ただそれだけで、「私だけじゃなかったんだ」とホッとできることがあります。
子どもが安心できる場所を見つけていくのと同じように、親にも、自分を守る居場所が必要。自分自身の気持ちを整える第一歩として、自分のための居場所も探してみましょう。
気持ちが外に向くタイミングで居場所探しを
子どもがなかなか外に出られない日が続くと、どうしても「何かしなきゃ」と焦る気持ちになります。
けれど、これまで学校でのストレスやプレッシャーで疲れ切った子にとっては、まずは家の中で静かに過ごす時間も、心の回復には欠かせません。 外の世界に目を向けられるようになるには、それなりの時間がかかるものです。
だからこそ、待つことが大切。「そろそろ外にも出てみようかな」と、ほんの少しでも気持ちが動いたとき「こんな場所があるけど、行ってみる?」と声をかけてみてください。
選択肢は一つでありません。無理に押しつけるのではなく、子どもの気持ちに寄り添い、心の奥底にある気持ちを丁寧に聞きながら探しましょう。
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