やっぱり “行けないとき”に無理をしないことは大事 【椎名先生の「不登校ライフ」カウンセリングルーム #5】
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椎名 雄一先生(一般社団法人日本心理療法協会代表理事)による、不登校のお子さまの保護者のかたより寄せられたお悩みにズバリお答えいただく『椎名先生の「不登校ライフ」カウンセリングルーム』。子どもが「学校に行く」と言ったのに結果として「行かなかった」ことが続くと、保護者としても気持ちを保つことが難しくなってしまいます。
そこで今回は、「子どもが嘘をついてるのか?」と悩み、受け止め方がわからないとする保護者の相談に、椎名先生がお答えします。
やろうと思っていたのにできなかったら「嘘」なのか?コミュニケーションの実態を理解しよう
保護者からのご質問
「来週から学校に行く」「月曜から学校に行く」と何度も本人が言うので信じてしまうのですが、当日になると行かずまた翌週になる…の繰り返しです。最初は「信じてるよ」と伝えていたのですが、あまりに何度も続くのでもうこちらの気持ちがもたなくなってきました。
これは“嘘”なのでしょうか?それとも、どう受け止めるのが正解なのでしょうか?
(ご質問は過去に椎名先生に届いた内容を要約したものです)
椎名先生の回答
子どもが「学校に行く」と言えば保護者は未来に希望を持つものです。希望を持ってその日を迎えたのに「やっぱりいかない」と言われるとがっかりしますし、繰り返されると不信感にもつながりますよね。ご質問にあるように「嘘」をつかれているのではないか?と考えてしまうのもわからなくありません。
このようなコミュニケーションの実態は千差万別です。一部の親子の間では戦略的に「来週から学校に行く」と言っておけば保護者が来週までは詮索してこないとわかっていて、いわゆる「嘘」をつく子もいます。でもほとんどの場合はそうではないのです。
皆さんは1年の初めに「今年こそはダイエット」のような目標を立てたことはありませんか?そして、4月には…、あるいは1月の途中ですらすでに、その目標が破綻した経験があるのではないでしょうか?これは「嘘」でしょうか。むしろ「本当にやろうと思っていたのだけれどできなかった」というのが正しいように思います。
人間の脳は(理屈)(心)(体)、3つの機能に対応する
もう少し詳しく説明すると、1年の初めに頭で考えて「今年こそはダイエットするぞ!」と決めて宣言したのですよね。でもいざジョギングをしようと思ったら外は寒いです。こたつに入ったらそれはそれは快適ですから動けなくなります。親戚が遊びに来て、ケーキをお土産にくれたのでみんなで食べようとなりました。「自分だけ食べない」と言い出しにくいので付き合うことにしたら、おいしいケーキだったのでしっかり食べてしまいました。たとえばこんな感じで「今年こそはダイエット!」の目標が「嘘」みたいになっていくわけですね。
人の脳は3つの部分でできています。
今回の話では部位の名前は重要ではありませんのであえて割愛しますが、(理屈を司る部分)と(心を司る部分)と(体を司る部分)の3つです。これらはバラバラに動いています。
ですから(理屈の部分)が「今年こそはダイエット!」と決めたところで(心の部分)が「せっかく、お土産にケーキを買ってきてくれて申し訳ないし、おいしそうだな」という気持ちになれば、(理屈の部分)とは違う決定をします。さらに(体の部分)が寒いし、こたつの温かい方が快適だなと感じれば、「今年こそダイエット!」を実行してくれないかもしれません。
こうして(理屈の部分)では「嘘」をついていないのに(心の部分)と(体の部分)がダイエットではない決断をするので結果として嘘をついたみたいになります。
結果として「嘘」になってしまい苦しむ子どもに保護者ができることは
これを不登校に置き換えると(理屈の部分)では「(納得して)学校に行くよ」と言ったかもしれません。これはおそらく嘘ではないのだと思います。しかし、(心の部分)はコミュニケーションが心配だ。先生とうまく話せない。当てられたらどうしよう。人の視線が怖い。といけない理由を並べてくるかもしれません。さらには(体の部分)が起立性調節障害で朝は眠くて仕方がない。だるくて動けない。立ちくらみがする。息が苦しい気がする。となってしまったら、いよいよ「学校に行くよ」どころではありません。
不登校の悩みとは葛藤です。2つあるいは3つ以上の方向性が違う悩みや欲求によって揺れているのが不登校です。「学校に行くべきだと思っているのに(怖くて)いけない」「学校に行くつもりなのに(なぜか)いけない」これが不登校のお子さんのなかで起きていることです。つまり、「結果として嘘になってしまうこと」にもっとも苦しめられているのはお子さん自身なのです。明日、心と体が「学校に行こう」となってくれなかったらどうしよう。そう思うから次第に「明日学校に行くよ」とさえ言わなくなります。
それでは保護者にできることはなんでしょうか?
確定することなく揺れ動く気持ち。「残り1%」を上げる工夫をしてみよう
まずは「学校に行くよ」というお子さんの表情や声をよく観察してください。それは理屈で言っていますか?心から言っていますか?体調を含めて全身で言っていますか?それによって「頭では行かなくてはいけないと思ったんだな」という「学校に行くよ」と、「学校に行ったら楽しそうだ!」と目を輝かせて心から「学校に行くよ」と言ったのかを見極めることはできます。これで保護者が期待しすぎて、朝機嫌が悪くなってしまうことを防げます。
そして、朝、ぐずぐずしている時に「行く」「行かない」のどちらかに確定しているわけではなく、葛藤しているんだ、と思い出してみてください。そのときお子さんの心は、「行きたい気持ち50%」「行けない気持ち50%」のようになっています。昨日の夜は「行きたい51%」「行けない49%」だったのに朝起きてみたら「行きたい49%」「行けない51%」になってしまった、とあわてているのがお子さんの実態かもしれませんよね。そこで保護者が焦って、圧をかけたら「行きたい40%」「行けない60%」くらいにマイナスに偏ってしまうかもしれません。これがとどめとなって行けなくなることは本当に多いのです。
これを「お母さんのせいで行けなくなった」というのは主観的には合っています。1%のしのぎ合いをしているのに取り返しのつかない失言をしてしまったら、それは決定打にもなり得るものです。それよりも、意識したいのは「残り1%」を上げるためのちょっとだけ機嫌が良くなる会話であったり、ちょっとだけ気分が上がる音楽などが助けになるかもしれませんね。
葛藤する子どもの戦いを手伝ってあげよう
その大切な「1%のせめぎ合い」を3回連続、5回連続で失敗することはあり得ます。このとき保護者は「そういう挑戦をしているんだ(挑戦しないなら起きてこないし、行くとはもう言わなくなります)」と思って見守ってあげることです。
揺れ動く、その「ほんの1%」を上げるための工夫として、保護者の言葉遣いや朝食の工夫などでクリアできることもあるほどなのです。
レアなポケモンカードをギリギリの戦いの朝に出してきた保護者のかたもいました。それはその子の場合の正解でしたが、そういう発想をする余地はあるかもしれません。ぜひ「葛藤」という観点でお子さんのなかの戦いを手伝ってあげてください。
正解の回答がないなか、保護者も悩みながらの日々だと思います。保護者自身の息抜きも大切にしながらやっていきましょう。
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