「生きる力」にもつながる非認知能力の育て方
子どもが学校に行かない選択をしたとき、保護者の皆さまがまず気にされるのは、「このまま学びが止まってしまうのではないか」という不安。そして「毎日ゲームやYouTubeばかりに見えるけれど、この子は“好き”や“得意”を本当に見つけられるのだろうか」という心配ではないでしょうか。
保護者は、子どもが夢中になれるものや得意なことを見つけたいと願う一方で、どのように支援すれば良いか迷うことも多いはずです。そこで今回は、社会情動的スキルともいわれる「非認知能力」の開発に注目します。学校の教科ではない「生きる力」とも呼ばれる非認知能力について、その重要性と育て方をご紹介します。
この記事のポイント
傷ついた子どもは自己肯定力が落ちている
子どもが不登校という選択に至る時点で、すでに体調の不調や、友人・先生との関係のつまずき、勉強の遅れなど、何かしらの負荷によって疲れきってしまっているケースが多くあります。こうした疲弊だけでなく、自尊心が大きく傷ついていることも少なくありません。
保護者の皆さまはそんな姿を目の前にして、「なんとかしてもう一度、子どもの笑顔を見たい」「学校に行かない形でも夢中になれるものに出会ってほしい」と、願われることでしょう。
子どもが夢中になれるものを見つけることは、自己肯定感や自信を育む大切な第一歩です。
傷ついた子どもが、もう一度「ちょっと気になる」「やってみたい」と思える種に出会えたなら、保護者はその芽が育つことをそっと支えましょう。
そのためには、いま子どもが関心を向けているもの、たとえばゲームやYouTubeなどをまずはそのまま「入口」として丁寧に見つめることが不可欠となります。
「そのどこに心が動いているのか」を観察しながら、子どもが自分のペースで"好き"を深めていける環境をそっと整えていくことが大切です。
不登校期間は「生きる力」を長期的に身に着ける時間
学校に行かないことで、子どもは「自分はダメな人間だ」といった自己否定の感情を抱きやすくなります。自己を肯定する力は、一足飛びに身につくものではありません。だからこそ、長い目で見守る視点を持つことです。
むしろ、不登校の時間とは自分を見つめられる貴重な時間であり"自分の軸"を獲得し、自分で選んで「生きる力」を育んでいくための、かけがえのないプロセスでもあると考えます。
では、どのようにして「生きる力」を育てていけばよいのでしょうか。注目したいのが「非認知能力」を親子で育てていくことです。
非認知能力とは、子どもが自分自身や社会と関わる中で必要となるさまざまな力の総称です。具体的には、以下のように分類されます。
自分に関する力
●自尊心や自己肯定感
●自信や自己効力感
●自制心や粘り強さ
社会性に関する力
●協調性や思いやり
●共感性や道徳性
●コミュニケーション能力
これらの非認知能力が注目されるのは、「社会のさまざまな問題を解決するカギ」と深く結びついているからです。
変化の激しい現代では学科の知識だけではなく、試しながら学び続けたり誰かと関わりながら前へ進んでいく力が、むしろその子らしい歩みを支えていきます。
日本の教育現場でも「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」に加え、「学びに向かう力」や「人間性」を育むことが重視されており、これらはすべて非認知能力に含まれます。
では、こうした非認知能力を育むことが、なぜ不登校の子どもたちにとって特に重要なのでしょうか。それは、非認知能力が、長期的な自立や自己肯定感の回復に直結しているからです。具体的には、非認知能力を育むことで、子どもは自分の感情や行動をコントロールし、他者と良好な関係を築きながら、自分自身の価値を再認識できるようになります。
このように、非認知能力の育成は、子どもが長い時間をかけて傷ついた心を癒し、自信を取り戻し、最終的に「生きる力」を身につけるための大きな一歩となるのです。
非認知能力を高めるための6つのアプローチ
1. 目標設定と計画的な実行
子どもが達成できそうな小さな目標を一緒に決めていくことも有効です。
たとえば「今週はお手伝いを3回やる」「毎日10分だけ本を読んでみる」といったように、可視化できる目標は、達成したときに手ごたえを感じやすくなります。
2. 自分で決める経験を増やす
遊びや日常のちょっとした選択の場面で「何を食べる?」「どの遊びにする?」など、自分で決める機会を少しずつ増やしていくことも大切です。
自分の意志で選んだ結果を自分なりに受け取る経験が重なっていくことで「自分で決めた」という感覚が育っていきます。
3. 夢中になれることを見つける
子どもの心が向くことや、やってみたいと思える活動に取り組めるようにすることはとても有効です。
一見マニアックに見えることや、周りがよく知らない世界ではむしろ歓迎です。
夢中になれるものに触れる体験が少しずつ重なると、自主性や継続力が育ち、それが自己肯定感の土台にもなっていきます。
4. 過程を褒めて自己肯定感を高める
結果だけでなく、そのなかにある努力や工夫のプロセスに目を向けて、具体的な言葉でフィードバックしていくことも大切です。
たとえば「今週はお手伝いを続けてみたね」「失敗しても諦めずに挑戦したね」といったように、行動の中身を拾って声をかけることが、自信の土台になっていきます。
5. 他者との関わりを深める
きょうだいや友だちと一緒に遊び、協力やルールを守る経験を積むことも重要です。グループでの活動やチームでの遊びに参加することで、自然と協調性やコミュニケーション能力が育まれていきます。
6. 継続的な努力と習慣化
ひとつのことを毎日続ける習慣を身につけることも、非認知能力の向上に役立ちます。小さなことでもコツコツと続けることで、粘り強さややり抜く力が養われます。困難に直面したときも、工夫して粘り強く取り組む姿勢を育てましょう。
親子で一緒に取り組むことでコミュニケーションも深まる
家庭では小さな目標を一緒に決めて達成感を感じる体験を重ねたり、日常のなかで自分で選ぶ場面を少しずつ増やしたりすることが効果的です。
地域の活動やオンラインのプログラムを活用して誰かと協力したり、意見を伝える経験を広げていくことも大切です。
そして何より、子どもが自分の長所や興味を少しずつ理解し、挑戦や小さな成功体験を通して自信を育んでいけること。親子のコミュニケーションを深め、子どもの気持ちや考えを尊重していく姿勢は、その自立心が育つ土台になります。
「生きる力」を育てるには、長期的な視点に立つことが大切です。なにげない遊びや日常の活動を通じて少しずつ自信ややる気を引き出していけるとよいですね。子どもが夢中になっているゲームやYouTubeがあれば、そのどんなところに興味を引かれているのかを観察してみましょう。
子どもの世界に保護者が関心を向けて理解しようとする姿勢が伝わると、子どもは安心し、自然と対話も増えていきます。
結果だけでなく、その過程を褒めたり、家族や地域と協力したりすることで、子どもは安心して自分の力を信じられるようになります。無理のない範囲で、親子で一緒に少しずつ取り組むことが継続する秘訣です。
